「ヘミングウェイで学ぶ英文法」の短編4作目は「Hills Like White Elephants」

これもまた、男女の会話が中心で、しかも、何の話をしているのか、最後の方までわからない。というより、解説を読んでようやくわかった。

 

これは、スペインのある駅で、若いアメリカ人のカップルがバロセロナ発マドリード行きの特急電車を待っている40分間の間に交わす会話と心の動きを描いている。

 

2人は駅舎のバーで酒を飲んでいるが、その会話は「暑いね」「ビールを飲みましょう」から始まり、バーの女性に酒を注文する場面を何度か挟みながら、たわいもない話題が続くが、お互いにちょっとぎこちなさが感じられる。そのうち娘がちょっと当てこすりらしきことをいう。すると男が急に言い出す。

 

It's really an awfully simple operation,Jig.

It's not really an operation at all.

 

女がなにも言わないので、続けて男がいう。

 

I know you wouldn't mind it,Jig.

It's just to let the air in.

 

突然出てきたoperationという言葉を、私は「何かの操作?」と思ったが、脚注に「手術」とあったので、airというからには、男が肺の手術でもするのを、女が賛成しかねているのかと思った。(笑)だって、この文章からでは、誰が何の手術をするのか全く分からないもの。

 

「その後はどうなるの」と女が尋ねると、男は「以前のように上手くやっていけるよ。そのことだけが僕たちを煩わせているんだから」と答える。

 

結局、その手術は中絶手術だった(らしい)!男は中絶してほしいけれど、その気持ちを隠して、機嫌を取るように「君がやりたくないなら、僕はそれをやってほしくない。君にとって何らかの意味を持つのなら、僕はちゃんとそれを受け止めるつもりだ」と言うが、「だけど、僕は君以外の誰もほしくないんだ。あれがひどく簡単だということも僕は知っている。」と続ける。

 

まわりくどい言い方をしているが、結局は中絶してほしいという気持ちが読める。娘も「簡単な手術だと知ってるわ」と言いながらも、やっぱり男性の勧めに嫌な気持ちを持ってしまう。

 

タイトルの和訳は「白い象の群れの様な山なみ」となっているが、長すぎるような・・。白い象は、白い雪を抱いた山脈を形容する表現だけど、実は白い象にはほかの意味もあるそう。


白い象は珍しいため、昔のタイでは王様に献上されていた。王様は餌代が高くつくので、気に入らない家来に白い象をあたえたという。家来はそれを使うことも処分することも許されず、餌代がかさむばかりで破産したらしい。

 

そのため白い象は「厄介物、無用の産物」という意味があるそうで、英和辞典で引くと、ちゃんとその意味が出ていた。娘が白い山並みをみて、「白い象みたい」と言うのは、自分のお腹にいる厄介者を意識しているということらしい。

 

途中で娘は立ち上がって駅の端まで歩く。自分たちのいる駅の側は乾ききった熱い日差しの不毛の地。河の対岸には穀物畑と河岸に沿って立ち並ぶ木々が見える。

 

こちら側の不毛は「子供を作らないこと」を、あちら側の穀物畑の生命に満ち溢れた世界は「子供を作って一緒に暮らすこと」を象徴していると考えられるとか。(解説者の想像)

 

解説によると、H.D.ロレンスはヘミングウェイの短編小説が、「マッチを擦って一気にタバコに火をつける時のように一瞬で読み終えられる点」を高く評価したそうだ。

 

「そのような簡潔さが特徴で、手掛かりの少ないこの小説を理解するためには、ある特定の視点を設けて考察していくことが肝心」とか。…私には無理。もう少し文中で丁寧に説明してほしい。

 

4作目ともなると、ヘミングウェイという人はこういう書き方をする人なんだと、私にもなんとなくわかってきた。それにしても、最後まで子供を堕胎するという言葉は出てこないし、娘がその決心をしたのかどうかも全くわからない。ここも読者の脳内補完が必要らしい。

 

3作目の短編は女性が女性の恋人を作って、男性と別れる時の会話だった。4作目は堕胎、次の5作目は男性と男性が惹かれあう短編の様だ。

 

この物語が書かれた1920年代は異性愛指向のみが許容されていた時代。しかし、ヘミングウェイは作中で、多様な性愛指向の人々を擁護・承認していたのだ。そんなことは全く知らなかった。

 

これは私の憶測だが、当時の最先端を行く考えを持っていたので、敢えてはっきりとは書かず、曖昧で省略した表現方法をとったのかもしれない。

 

私が昨日、新しく読み始めたドロシー・ギルマンの「古城の迷路」の書き出しは

 

「両親が死んだ時、コリンは16歳になったばかりだった。二人そろって同じ日に息を引き取ったのだ。」

 

これで、主人公の年齢も家族関係も、一発でわかる。文学の素養の無い私には、こんな簡単明瞭な表現の物語がふさわしいようだ。

 

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