こんにちは。

さいたま市浦和区のフランス語教室、フレンチパレットの中村です。

邦題は「パリに見いだされたピアニスト」

原題は au bout des doigts 「指先に」

この予告編をみて、本編を見に行きました、去年の11月ぐらいだったと思います。最近、Amazonプライム・ビデオでレンタルを見つけ、再視聴しました。

こう言っては何ですが…

別に「パリ」に見いだされたわけではありません。

たしかに舞台はパリ。パリの北駅から物語がはじまる。たまたま通りかかり、主人公の才能を見初めたのは、確かにパリ音楽学院のクラッシック音楽部門ディレクター。

「パリ」でなくてもリヨンでもどこでもいい気がするし、タイトルにパリを入れる必要は、特にない気がします、個人的に。

昔から、フランス映画の邦題には

「パリ」「セーヌ」「クロワッサン」「バゲット」「カフェ」「ワイン」「恋人たち」

などの語彙がつきがち。

タイトルで分かりやすく訴求力のある言葉を用いるのは映画宣伝では非常に大切です。

「指先に」よりも「パリに見いだされた」のほうが、パリ、というイメージもあいまって、ドラマティックなのでしょう。

それを悪いとは思いません。興行収入、大切。

この予告編の字幕、結構煽っているといいますか、意訳していて、その違いが面白かったので、それについて書いてみたいと思います。

予告

たとえば

字幕：「（息子は）もうこの世にはいないよ」

セリフ：Remettez ce cadre a sa place.

セリフ直訳：その額をもとの場所に戻しなさい。（死んだ息子の写真だが、息子が亡くなったことには触れていない、息子が死んだというのは後で分かることで結構大事なファクターなのに、予告編でネタバレ、びっくり）

字幕：本気で奴にかけているのか？？

字幕：命さえも！

セリフ：Tu t’es prêt au jeu de ta place ?

セリフ：Il vaut la peine.

セリフ直訳：自分のポストを（辞職する）賭けるのに同意したよな？

セリフ直訳：彼にはその価値はある

とくに命はかけていない、けど確かにそのくらい全てを賭けていたのは確か。

字幕：（母親）あんたなんて生まなければよかった

セリフ：Quelle honte de te contourner !

セリフ直訳：こんなにひねくれ者になって、何という恥さらし！

生む生まないの話はしていないし、本編で描かれた母親は、経済的、精神的な余裕がない生活に疲弊してはいるが、決して悪いお母さんではなかった

ということで、予告編のほうがドラマティックでした（笑）

ともあれ、翻訳の面白さ、とくに、字幕という字数制限がある翻訳の興味深さを改めて感じます。

本編では（ネタバレなし）

主人公を見出した音楽ディレクター（少々枯れたインテリ系ナイスミドル！）が本当に出来た人です。

よくここまで、荒々しく葛藤し反発する主人公を導こうとするなあ〜

常に温かく、時に厳しく、いつも彼の才能を信じ、と、教育者として素晴らしい関わり方と指導をしています。

逆に、どうも主人公の我の強さというか、どれだけ幸運に巡り合ったか、うまく受け止めてられず、暴れたり怒ったりする辺りが「青春だな」と感じてしまったり。。。

とはいえ

社会階層としては下の方の出身で、本当は習い続けたかったピアノを諦めざるを得なかった過去

ピアノを見たときの、何とも言いがたい喜びや心の震えがそのまま顔にも仕草にも現れる様子

フランス社会の「格差社会」を身に染みているがゆえに心に生じてしまう様々な心理的葛藤や反発

もあるのだろうな、

ブツブツ・・・

と、色々と想うところがありましたが（汗）

さわやかな終わり方、皆がハッピーになれたところ、頻繁に流れてくるクラシック音楽を映画館の音響で楽しめたので、十分満足です。

知り合いのピアノの先生曰く、楽曲のラインナップは、主人公の心理状態を反映するようなものだそうです。

パリの街並みが楽しめる見せ場として、音楽やっている学生たちが、ローラースケートでパリを駆け巡るシーンがありました。

そもそも、舞台となる音楽院コンセルバトワールは、いまは郊外にキャンパスを設けていて、近代的な作りです。

なので、これはパリっぽさサービスのためのシーンでしょうね。

とはいえ、音大生が夜に道路でローラースケート！

転んで腕やら指やらを怪我しないか、ひやひやしてしまったが、夜の美しいパリの街並みも素敵でした。

フランス語映画、オリジナルと翻訳を比べると、原語を外国語に移し替える時の面白さ、難しさ、に触れることができ、勉強になりますね^_^

以上、フレンチパレットの中村でした。