京都市@鳥料理専門店「あん」②
次々と鳥料理が出てくる。
和え、蒸し、焼き、と様々な角度から鳥たちが攻めてくる。
私の舌は飽きない。
味付けは塩、胡椒のシンプルでありながら、素材の旨みを引き立たせる何かがこの料理に潜んでいる。
先ほどの臓物に含まれた山椒か?
それともお茶漬けに乗せられたわさびか?
はたまた焼きに添えられているからしなのか?
何かが、アクセントとなりまるで別な食材を味わっているように感じた。
私はその中からわさびとからしに焦点を合わせ、店主に聞いてみた。
「わさびも、からしも何だかいちいち美味しいですね。」
その時、店主の口もとに笑みが溢れた。
「私が祇園で見習いだった頃にね、からしの職人がいたんですよ。その頃で80歳くらいだったからもう亡くなっているんだけどね。」
「からしの職人ですか?」
「そう。この人はからし専門で商いをやっていてね、絶品だったんです。からしをね2重の和紙で包んでくれて、元々からしはね湿気に弱くて、外気と内気の湿気を和紙がとってくれているんです。それに水を少し加えて練り上げると、スッーと通る香りが魅力的でね。」
私は自分の焼き鳥に何度となくからしを添えてきたが、
からしのことについて突き詰めて考えたことがなかった。
考えていないということ。それに気付きもしていなかったのだ。
「え、私はからしについて深く考えたこともなかったです。」
店主に素直にそう伝えた。
「今はねもういないんですよ。美味しいからしを作ろうって人がいなくなっちゃってね。」
「本当はね、もっと鳥料理のアイデアがあるんですよ。ただ私一人ではね。これが精一杯で。」
「私でよければ勉強させてください。」
とっさに私はこう答えたが、店主は笑って何も言わなかった。
学ぶために月に1度か2度かとは本気で考えた。
しかし、それでは店主が考えるアイデアとは重ならなかったのかもしれない。
このお店で、鳥の奥深さと京都の奥深さを少し垣間見た気がした。
焼き鳥の分野でそんな体験は初めてのことだったので、本当に貴重な時間であった。
まだまだ、世の中は知らないことだらけだ。
もっと色々な人に会って、もっと影響されたい。と改めて感じた日であった。
京都市左京区
鳥料理「あん」
オススメです。
おわり