45話(最終話)  帰国 | たっくのブログ

45話(最終話)  帰国

最終日



朝、いつもの朝食を食べる。
すっかり慣れていたこの味を忘れないように口にする。
いったいここに来てカプチーノを何杯飲んだだろうか。日本のどこのカフェに行ってもこのカプチーノの味には出会わない。素朴な味だ。


前日にフロントへ行き、空港までのタクシーをお願いしていた。
タクシーの運転手に空港チケットを見せれば私達が乗るターミナルの前で降ろしてくれる。そう思えば最終日にバタバタと慌てなくてもよい。メトロを使った方が安くすむかもしれないが、同じホテルから向かう人と乗り合いにすれば、多少の違いで乗れる事がわかった。


予約時間を9時にしていたが前日の夜、ホテル側の都合で9時30分でもいいか?という電話が私達が泊まる部屋にかかってきた。すっかり私の耳は英語に慣れていたのかもしれない。何を言っていて何を伝えたいのかがそのまま私の頭に伝わる。

OKと言いながら受話器を置いた時、不思議な感覚だった事は今でも覚えている。





ああ、帰っちゃうのか~。
行きと帰りの飛行機が違って見える。せめてビジネスクラスになればテンションも上がるだろうに...

このくらいから、日本の事を考え始める。
今、札幌はどんな気候なのか?
ピンチョスの駐車場に雪は積もってないだろうか?
そういえば、帰国後すぐに団体予約が入っている。
料理内容を考えなきゃ。
お土産は全員に渡せるくらい買っただろうか?
車のバッテリーは上がってないよな...


頭が現実に戻ってきた。
常日頃から考えているような事の合間にフィレンツェのドゥオーモが頭をよぎる。
凄かったなぁ。。


そう言えばカレーの仕込みをしなきゃ。
アフリカンスープを作る時間はこのくらいかかるし。
焼鳥も沢山仕込まなきゃ団体分とは別に。
次の日のランチはどうしよう。
お肉屋さんに連絡しなきゃ。
ベネチアのお肉屋さん美味しそうだったなぁ。
あの横にあった店舗で営業できないかなぁ。
ベネチア凄かったなぁ。。。


また行く為にお金を稼がなきゃ。
今月の売り上げは休んだ分少ないから家賃をどうにかして払わないと。
あぁそう言えば電気代が今月は高くついてたな。
寒かったから暖房を使ったんだな。
雪降ってたら雪かきをまずしなくちゃ。
車動くだろうか?
パリに雪は降るのかな?
モンマルトルのあの景色に雪が降ったら感動するだろうなぁ。
クリスマスを過ごしてみたいなぁ。


あぁ
良かったなぁ




















私達を乗せた飛行機は香港を経由し新千歳空港へ降り立った。
空港から連絡バスへ乗る時、一瞬外にでるとそこは極寒の北海道だった事を思い出した。
体中に打ち付ける吹雪の雪は、私達にはこたえた。

とても寒く
とても厳しく感じる。


自宅へ帰ってきてすぐにお店の様子を見に行く。
ピンチョスのドアを開けた瞬間、ビックリして2人とも顔を見合わせる。

自分のお店の「色」のなさに驚いた。
自分のお店がこんなにつまらない内装をしていたのか?という事に驚いたのだ。
あれ
あれ?
え?

2人とも信じられなかった。
こんな感じだったっけ?

ピンチョスってこんなにつまらない内装だったっけ?


この感覚はピンチョスだけにとどまらない。
街の景色、歩く人、車全ての色の無さにもの凄く物足りなさを感じた。


そうか、これが日本なんだな。


私達はこの時感じた感覚を忘れていない。
日本に戻ってすぐに生活に慣れる、もちろん落ち着く部分や家族に会える事が大切な事だというのはわかる。いや、わかっているつもりだ。

そう。今は、まだつもりで良いからまたヨーロッパへ行きたい。
いつか、日本が一番だと思える日が来るのかもしれないが、それまではとことん海外で経験してみたい。
それからでよい。

すべて経験してからで良いと思う。
私にとって今回の経験はとても意味のあるものだったと思う。
ただ、記憶というのは曖昧なものでやはり時が経つと忘れてしまう事もある。
だから、また同じ場所でも良いと思ってしまう。
違う場所でも良いと思ってしまう。


今は世界地図を見ながら次のルートを決めている。
欲を言えばもう少し長く行きたい。
心ゆくまで、自分が満足するまで自分を満足させてあげたいと思う。




ありがとうございました


イタリア、フランス旅行記 全45話  おわり