44話 ディナークルーズ
最後の夜、最高のディナーを。
イタリア、フランス旅行の最終日はとっておきのお洒落をして特別な場所へやってきた。
女性にとっては世界一憧れるディナーかもしれない。
パリにあるセーヌ川を流れるディナークルーズへ
私達のキャリーバックには今日の為に持ってきたジャケットとドレスが入っていた。
必ず実現させようと思う事にも理由があって、ディナークルーズの翌日は私の誕生日を迎える。
そう言えば、この日の一年くらい前に「みっちの誕生日はパリでお祝いしよう。」と言っていたが、なんと実際パリに来る事は叶ったものの、祝うのは私の誕生日になる。同じ12月生まれだし、少しずれ込んだみたいだ。
パリにある日本人向けの旅行代理店を見つけたのは本当に偶然で、たまたま通りがかった道沿いに閉店間際のお店を見つけた。外に張り出した広告にセーヌ川ディナークルーズの文字が目に入る。すかさずお店のドアを開けカウンターに駆け寄るように聞いてみた。
既に明日の便は締め切りになっております。との言葉を遮るかのように私達が明日ディナークルーズを出来るのか否かを問う。通常でしたら...
そんな言葉は日本以外で聞きたくない。
ここまで来てどこのだれの常識を聞き入れなければならないんだと首を傾げた。
今からでも予約が出来るのであればお願いします。
料金は€300です。今すぐにお支払い出来ますか?
はい。現金で払えます。
わかりました。特別にOKしましょう。
明日この場所からバスでセーヌ川に向かいますので、定刻通り来て下さい。帰りはお客様のホテルまで送りますので、ご安心ください。
こうして私達はクルーズへ入る事が出来た。
旅立つ前に日本から予約をすれば簡単な事かもしれない。
でも、実際パリに来てみないと本当にここへ来たいのか分からないじゃないか。と私は思う。
そしてこうしたやり取りが旅の思い出を作り、自分の自信に繋がる。
満員で埋め尽くされた夜の遊び場。
赤いライトが人の声を映し出す。
ゆっくり動き出したクルーズ船はシャンパンの香りとともに流れていった。
シャンパンとともに流れる音楽は生演奏で彩る。
ピアノとギターとファンクな歌声に沿うようにテーブルの上にはフレンチが運ばれてきた。
数あるディナークルーズの中でもこの船の料理はレベルが高いと私達を案内してくれたガイドにお墨付きを頂いたのもうなずける。この雰囲気に流されないように調理人の意識は高いと感じた。
特にホタテを使った料理は美味しかった。
貝柱を絶妙なバランスで火入れをし、肝でソースを作り味をシンプルに作り上げる。
あぁ、これがフレンチなんだな。と感動すら覚えた。
私はここに来てやっとフレンチの形が見えた瞬間、フレンチとは奥が深く考えられた料理ジャンルであり、和食とは違ったセンスを持つ独創的な料理だと感じた。
それはフレンチというジャンルが世界で確立されている事を舌で実感出来た瞬間だった。
雰囲気を楽しみ
目で見て楽しみ
舌で楽しみ
喉で楽しみ
耳で楽しみ
笑顔で楽しみ
景色が変わるごとに歓声が上がり
ワインが空くごとに賑わいが増し
流れる音楽はテンポ良いリズムに変わる。
外の灯りはエッフェル塔が照らしてくれる。
2時間あまりのディナークルーズは最高の夜を演出してくれた。
最高だったね。
本当、最高だったね。
この旅行を締めくくる言葉としては少し言葉が足りないかもしれない。
しかし私達の間には「最高だった」というものしか残らなかった。