38話 パリの声

パリに来る一年くらい前に「モンテーニュ通りのカフェ」という映画を見た。
モンテーニュ通りにある一件のカフェから様々な人間関係が生まれる映画でとても面白かった事を思い出しこの日、実際のモンテーニュ通りを発見したので歩いてみる事にした。
私達は古い街並を想像し可愛い雑貨屋さんやカフェなどが並んでいる通りを想像していたのだが、実際は超高級五つ星ホテルや高級外車がずらーっと並ぶVIP通りだった。
あらら?場違いでしたか?と思うほどイメージしていた物とは違い少し戸惑う。
イタリアの時と同じくパリを歩き続けるが、やはりパリは広い。広すぎる。
何もわからないまま歩くのではなくしっかりとした目的地を付けないと、楽しむ事自体が難しいと思う。
その中でも日本料理が沢山ある通りや、高級ブティックがある通りなど色々ある。観光客を呼び込もうとする姿勢は感じられるのだが、どうも私はそこに魅力を感じない。
例えばそこの通りに行きたいお店があるとすれば、その通りを歩く事自体は全然苦では無い。ただ単にふらっと歩くほど魅力的な通りに感じないのだ。なにが違うのかは自分でもわからないのだが、イタリアではそんな風に思わなかった。目的地が無くてもただ歩くだけで楽しかった事を思い出す。
きっと、まだそういった所をパリでは見つけられていないのだと思う。
そう考えればやはりパリという町は日本に似ている。
フランスでのお土産を探しにお菓子やさんに入ると、試食を勧めてくれる男性がいた。私達は何の気なしに食べながら話していると突然その男性が「何がおかしいの?」と日本語で話してきた。
え?
ええ?
日本語話せるの!?と驚いた私達だったが、「だって日本人とイタリア人のハーフだもん。」と言っていた。どうやら日本で生まれ、大学で日本からフランスに留学しアルバイトをしているという。
しかもそのアルバイトは今日が最終日で、本人は全然やる気なし。。。はは。「このお店美味しくないよ」とか「高いから空港で買ったら?」などと他の店員が言葉をわからない事を良い事に思いっきり日本語で言っていた。
でも、せっかくだからここで買うよ。と言いながら話をしていると、もうすぐ日本人女性と結婚するらしく15歳年上の女性だという!え~!!俺らと一緒じゃん!と滅多に出会わない共通点にお互い驚いた。
今では日本の大学の教員になっていて音楽を担当しているらしい。
いや~しっかりしてるなぁ。素晴らしい。
「どう?パリは楽しい?」
その男性が言った言葉を思い出す。
「うん。全てが初めてだし楽しいよ。」
そう言った後彼は、
「そう?汚いじゃん。」
「パリって汚いよね。」
彼がパリに留学して数年、語学も勉強しアルバイトをする中でパリという街に抱いた感想は、観光旅行で訪れる人達とは違う。これは決してパリ特有の感想ではない。どこの国に訪れたとしても住んでいる人との感覚が違って見えるのは不思議な事ではない。
それは日本国内にしても同じ事で、例えば今いる所から夏は涼しく気候の良い北海道に住む人達やスキューバダイビングを楽しめる南国の沖縄に住もうとする人達が実際移住してその土地に住んでみると思っていたものと違った。という感想が多いらしい。
それがいったいどういう事なのか?今の私にはわからないが、北海道から三重県に移った私達は今のところこの場所に満足している。というか好きだ。今いるこの場所がとても居心地が良いと感じている。
この経験を踏まえてというわけではないが、私達はやはりイタリアに住んでみたいと思う。一生涯を過ごそうと思ってはいない。何年か住む経験が欲しい。
住んでみてどう感じるかはわからないが、そんな事は住んでから考えれば良い。
まずは経験する事。
これが私に必要な事だと思う。

