料理の記憶 11 「高級お寿司屋さん物語」 5章
お寿司屋さんの地下の倉庫に眠る物の話。
働いて数ヶ月目にして私はお店のツケ場の下に扉があることに気付いた。
今まで気付かなかったのも可笑しなものだが、すでにお店は地下なのに、さらに地下が存在するなんて・・・!?
最初は疑い半分だった。
シンさんによると地下の広さはお店の大きさとほぼ同様であり、そこにはこのお寿司屋さんのお宝が眠っているのだとか。。
本当かな・・
そんなことを話しているうちに、いつもと違う一件の予約が入る。
そのお客さんはオープン以来のお得意さんらしく、どうやら扱いが違うらしい。
親方が一言、
「シンとお前で地下のお酒もってきてくれ。」
「はい!」
なんと早くも地下に入るお許しが獲られたのだ。
私はわくわくして扉を開けてみると・・
中は真っ暗で何にも見えないがどうやら広いのは本当らしい。
扉からはしごで下る。
シンさんは何度か来ているらしくなれた感じだ。
「電気つけるぞ~。」
蛍光灯が光った瞬間
私は驚くべき光景を目にする。
確かに広さはお店のホール程でかなり広い。
壁づたいにいくつもの棚が設置されている。
私が驚くのはその棚にある物達であった。
なんとそこには見たこともないような高級そうなお酒たちが所狭しと並んでいるではないか!
ゴールドに輝くお酒のボトル達に私は目を奪われた。
シンさんはその中からお得意様の名札が付いたボトルを探し出した。
「おっ!これだこれだ。」
「たっく。見つけたから行くぞ~」
「はぁ。」
「シンさん・・・。」
「ん?」
「このボトルって全てお客さんのキープボトルなんですか?」
「う~ん。いや。どうやら違うみたいよ。」
「名札の付いていないのもあるし、」
「へえ。。。」
「一本いくらぐらいするんでしょうね?」
「お前。何考えてんの?」
「いや・・見たこともないようなボトルばっかりだから。」
「確かにな~。普通の酒屋には置いてないよな。」
「結構するんじゃない?」
私は当時16歳だったが、お酒は人並みに飲めるほうだった。
ましてや、ビール以外のお酒と言えばウイスキーの「リザーブ」ぐらいしか飲んだ事がなかった。
「僕、リザーブしか飲んだ事ないですよ。」
「ば~か。俺だってハーパーかローゼス位だよ。こんなもの飲んだ事ね~よ。」
「・・・美味いんでしょうね~。。」
「いや、意外とどうなんだろうな?」
「ばか!さすがに怒られるぞ!お前!クビじゃすまないかもしんないぞ!」
「そうですよね~。」
「ほら!馬鹿な事言ってないで行くぞ!」
私達は名残を楽しみながら足取り重くはしごを上がった。
その日の営業終了後
「アキさんは下のお酒呑んだことありますか?」
「下の??あ~。あれね。」
「なんか凄そうなのいっぱいありましたよ。」
「ん~。昔だったら親方も気前良くてな、一本持って行っていいぞ!とかあったりしたぞ。」
「え~!!マジですか!?」
「おう。だから何本かはもらってるな。」
「どうでした?味は?」
「いや、実際飲んでないさ、家に飾ってある。」
「あ~。そうなんですか~。」
「ボトルだけでも価値があるものもあるみたいだよ。」
「そうだな~。」
「久しぶりに親方に聞いてみるか?」
「え~~~~!!!!!お願いします!!」
「どうだろうな。実際うなずくかどうかはわからんぞ。」
「はい!」
こうして。アキさんは親方に交渉しに行ってくれた。
その結果・・・・
なんと!3人で一本ならいい。と許しを得たのだ!
「やった~~~!!」
早速私達は扉を開けてはしごを下った。
「え~どれにしますか~~?」
「これなんかどうですか?」
「ばか!!!それはさすがにまずいだろ!めっちゃ高そうだし。」
「ん~これにしようかな~。」
アキさんは細長いボトルを手にする。
「それ?何ですか?」
「いや~実はさ、これの色違いが家にあってさ、これで全部揃うんだよ。」
「え~。それじゃぁ飲めないじゃないですか~」
「おい。お前飲むの?」
「何年前の物なのかもわかんないぞ。」
「腐ってたらどうすんだよ。」
「腐ってるものお客さんに出さないでしょう。」
「きっと大丈夫なんですよ。」
「・・・おまえ本当に悪知恵だけは働くな・・・」
ふっと見るとアキさんの姿がない。
さっきのボトルを手にしたままそそくさと上に上がってしまったのだ。
「シンさん。。。どうします??」
「・・・・ここまで来たらどれか飲んでみたいよな。」
「そうですよね!」
「たっくどれか持って来い!」
「はい!」
この時
私が持ってきたボトルがインターネットに載っていたのでお見せします。
カミュ・ブック・リモージュ・ルノワール 40度 (700ml)
「おまえ!これなんだ!?!?本になってるじゃね~か!」
「めっちゃかっこよくないですか?」
「絶対高いって!!」
「でも他にも本のやつありましたし一つぐらいバレないんじゃないですか?」
「シンさん飲みたくないんですか?」
「・・・・飲みたい。」
「絶対ばれるなよ!!隠せ隠せ!!」
こうして私達は見たこともないようなお酒を手に入れたのだった。
その日の夜、というかもう朝。
シンさんの家で飲むことになり、入って見ると部屋にはひっそり「リザーブ」が置かれている。
「シンさんもリザーブ飲んでるじゃないですか~」
「飲んでるよ。」
「だってこれ結構美味いだろ。」
「飲みやすいですもんね~」
「おう。」
「まず、リザーブ1杯だけ飲んでみるか?」
「はい。そうですね。比べたらわかりやすいですね。」
グラスにコンビニで買ってきた氷を入れて、リザーブをロックで一口飲んでみる。
「ん~。飲みやすいな。やっぱり。」
「そうですね。」
「行きましょうよ!そろそろ。」
「よし!いくか!」
ついに、私達は本の形をしたお酒の栓を空けてしまったのだ。
「まず、シンさんからどうぞ。」
「オウ!」
「なんか、緊張するな。」
「大丈夫か・・腐ってないよな・・・」
「僕から行きますか??」
「一緒に行こうぜ。」
「そうですね。」
二人のグラスにお酒が注がれ、
「カンパ~イ!!」
カランカラン♪
一口飲んだその時私達は雄たけびを上げた!!
「うめ~~~~~~~~~~!!!!!」
「めっちゃ美味い!!」
さっきまでのリザーブに対する評価はどこへ行ったか。。
私達はその美味し過ぎるお酒をグイグイ飲んでいった。
「もうリザーブ飲めないな。」
「これ飲んじゃったら他の全部飲めないですよ。」
そうして
あっという間に本のお酒は無くなってしまったのだ。
その間約2時間。
早すぎた。。
全然味わってなかったかも。。。
というか酔っ払っていつの間にか私のグラスがリザーブに変わっていたのに気付かなかった。
シンさんは私のグラスに注ぐ時、高級ウイスキーからリザーブに変えていたのだ。
それを見てシンさんは笑っていた。
「お前の後半からず~っとリザーブだったぞ。」
「え・・気付かなかった。」
「どれも一緒ですね。」
「お前に言われたらお終いだな。」
あれから25年
果たしてあのお酒が無くなっている事に気付いているだろうか・・・?
もう時効ですよね♪