猪の言分聞いて野に放つ    岸下庄二 

朝日新聞「俳壇」への投句 2022.12.18掲載

 

罠に掛かった猪や市街地に迷い込んだ猪を捉えた後、山に放したというような報道を時々聞くことがある。この句はその時の情景を描いたものだが、何とも情緒がある。人間側の立場で言えば「人間の(そば)に近付いて来た迷惑な猪、殺してしまうのも可哀想なので山に返した」となるのだろうけれど、猪の立場で言わせたら、「自分らがずっと住んでいたところに人間が入り込んで来た。それを咎められるなんて、とんでもない」となるかも知れない。

この句の作者は両者の立場をそれぞれ尊重して、(それでも、人間よりの姿勢ではあるが)その情景を描いたものである。猪がそのような主張をした後、人間は「まあ、そうも言えるけど、今日の所、このまま帰ってくれないだろうか」とでも言い聞かせたのだろうか。(文:海千)

「知床全長約800mの高架木道」(写真:南岳)