(2010年、英/米、マーク・ロマネスク監督)

人間への臓器提供用に作られたクローン人間たちには、もうそれ以外の生き方は許されていない。食用の鶏や牛と同じだ。悲しい話だ。良くもこんなに悲しい物語が作れるものだ。2017年にノーベル文学賞を受賞した日系イギリス人、カズオ・イシグロが原作者だ。生まれた(造られた)時から隔離され、臓器提供用のクローン人間としての心構えしか教わらない彼らのわずかな望みは彼らが恋愛中の場合は臓器提供を何年か猶予されるという噂話だ。懸命に確かめに行くが、只の噂話と分かる。例え猶予が認められたとしても数年の猶予に過ぎないのに。恋愛をすれば提供が猶予されるという話は偽りの噂話に過ぎないが、介護人になれば猶予されるというのは現実の話しである。そしてキャシーは介護人を選び、猶予される。しかし、その介護人も猶予期間が終わる時が来る。そこでキャシーはやっと気づく。「わたしたちと、臓器提供される人たち、なにか違いがあるとは思わない。同じ人間。」「わたしたちは生きた。でも、生を理解する前に、早くに死が訪れる。」その疑問の答えを見つけても、解決にはならない。彼らが臓器提供用のクローン人間であるという絶対的な現実があるからだ。

SFでは、良くここが出発点になり、反抗とか抗争とかが始まる。カズオ・イシグロの物語はそこが終着点だ。悲しくなる筈だ。(文:海千)

「新宿コレクション」(写真:南岳)