北海道恵庭町で野崎牧場を営んでいた一家は、自衛隊演習の爆音によるストレスで乳牛の乳量が減り、流産する牛も出て、何度も改善を申し入れたが改善されず、ついに62年12月、兄弟は演習場に入り、連絡用の通信線をペンチで切断し、演習を中止させようとした。自衛隊は二人を自衛隊法違反で告訴した。世に言う「恵庭事件」だ。そしてこの事件が報道されると、全国から護憲派の弁護士が集まり弁護団が結成され、札幌地裁で自衛隊は合憲か違憲かを争う憲法裁判となった。40回に及んだ公判は、自衛隊の違憲をめぐる議論に終始し、野崎兄弟の通信線切断についての証拠調べ等もないまま結審となった。その状況から判決は「自衛隊は違憲」となるものと多くの者が確信していた。

 しかし、判決は憲法判断には触れず、ただ「被告は無罪」であった。これは「肩透かし判決」と報道され、裁判官に判決寸前に何らかの圧力が掛かったのでないかと噂された。その判決から50年経った2017年、この事件をもう一度掘り返し、記録に残そうと映画が作られ、公開された。判決を下した裁判長の辻さんは亡くなっていたが、その娘さんが「父には上から、憲法判断は回避せよとのお達しがあった」と告白した。なぜ、今それを公表したのか聞かれて「自分が黙っていたら、この重大な事実が永遠に闇に葬り去られてしまう。公表は私の使命だと思った」と語った。それがこの映画に記録されている。

「憲法を武器として 恵庭事件 知られざる50年目の真実」(2017年、タキオンジャパン制作)

「カナダ滝 煙霧轟音」(写真:南岳)