煮大根何度も本音聞き返す  小林たけし

朝日新聞 「俳壇」への投句 2018.2.19掲載

 

煮大根をつまみに酒を飲んでいるか、大根を煮ながら、誰かと話をしているのであろう。

作者が男性であることから、どうも親父が娘を相手に話している場面を想像してしまう。例えば、娘が親父のところに来て、亭主と別れると告白した。親父も良く知っている婿さんなので絶句した。そしてつい何度も聞き直してしまった。「お前、本当にしっかり考えたのか?」「もう一度ゆっくり考えた方が良いのじゃないか?」

テーブルの向こうに座っているのが自分の女房で、それが突然「別れたい」と言い出したものだから、つい焦って「おまえ、本当に別れるって言うのか?」と何度も聞き直しているなどと言う女々しい場面は想像したくない。

この句を秀句ノートに書き溜めていた。秀句ノートの句をたまに読み返していて、この句に目が留まると、どうしても、娘に念を押している親父の姿が思い浮かんで来て、涙がこぼれてしまう。(文:海千)

「チューリップ畑に日は落ちて」(写真:南岳)