その日の夜遅く、私はホテルに戻ってきた。
チェックインするときにフロントの人のよさそうなおじさんが、「Webから予約したのであれば、部屋でもバーでも10ユーロ分の注文が無料になるよ」と教えてくれていたので、早速私はバーで飲んでみることにした。
よくよく聞いてみれば、バーでハイネケンの小瓶は1本3ユーロ、つまり3本は飲める。しかも注文してみれば、ピーナッツはタダでついてきた。「はい、こちらのピーナッツは20ユーロ」というおじさんの冗談は、しかしこの日気分の落ち込んでいた私にはちょっとキツいジョークだったが。

さすがは現代のレンズ、Nokton35mmf1.4.おそらく絞りは開放だが、現代のレンズらしくハズレのない絵を提供してくれる。私の持っている35㎜の中で開放でもハズレないのは、これと35㎜Summaronf2.8くらいで、あとはもちろん35㎜Noktonf1.2も破綻ないだろうが、いかんせんアレを旅レンズにするには大きくて重すぎる。私の8枚玉は修理したレンズなので、開放は万華鏡のような写りになるのだ。それはそれで使いようはある。このあと紹介しようと思っているM4-2で撮ったカラーのパリはそのレンズで撮ったものだ。シーンが合えば他にはないような絵が得られるこのレンズ、しかしそのアタリの確率は低い。これ1本で行くには勇気のいるレンズだ。ただ、8枚玉ズミクロンが悪いレンズだと言っているのではない。私の玉は”たまたま”どうしようもない状態だったものを、レンズの神様にお願いして救ってもらったもので、本来の性能は到底出ていないだろう。
冷たく冷えたハイネケンを「20ユーロの(笑)ピーナッツ」とともに飲みながら、今日あったことを話していたら、このおじさんは真摯に聞いてくれた。まさかパリのホテルのおじさんと話が合うとは思ってなかったので、一人で静かに飲むつもりだったのだが、とても楽しい夜になった。そのうちおじさんは私のライカを見て、カメラと写真の話になり、私が「好きなカメラマンはアンリ・カルティエ=ブレッソンだ」と言ったら、おじさんが好きだという人を紹介してくれた。上の写真はバーの横のパソコンで、そのカメラマンを探して教えてくれているところ。”Jean Dieuzaide"というその人を私は知らなかったけれども、フランス人カメラマンで、その作風はブレッソンやドアノーと近い。つまり私の好きなタイプの写真を撮る人だった。