いも揃って何と情けないの事」

 

土田御前は、信長一人を相手におたおたとしている重臣たちがくてならなかった。

 

「どこの誰とも知れぬ者共を城内に連れ込んで相撲とは──。

 

これが織田家の後継ぎかと思うと、心配で心配で気の休まる暇もないわ」

 

薄く形の良い唇を、土田御前は糸切り歯でギリッと噛んだ。

 

彼女は内心、我が子である信長を思うように動かせない自分自身にも腹を立てていた。

 

 

貴人の世の習いとして、信長は『  』という幼名を名乗っていた頃から、生髮帽

 

父母の側を離れ、傅役である政秀や乳母の養徳院らの手によって育てられた訳だが、

 

それが大きな間違いだったのではないかと、土田御前は常々思っていた。

 

 

幼い頃から我が手元に置き、実母である自分がしっかりと教育していたら、きっと信長も品正しき青年に成長していたはず。

 

信長がこうなったのも、全ては彼を甘やかし過ぎた側近たちのせいに違いない…。

 

 

土田御前は半ば責任転換するように、え顔の秀貞らをめ付けていた。

 

 

そんな時

 

「──どうも騒がしいと思うたら、やはりの所業であったか」

 

「…!」

 

当主・信秀が年に似合わぬ張りのある声を響かせながら、表書院の方よりやって来た。

 

秀貞や権六が恐縮がちに頭を下げると

 

「兄上は、ほんに相変わらずでございますな」

 

信長の実弟・信勝も、信秀の背に続くように現れた。

父や弟の姿を捉えた信長の両眼が、く。

 

信長は手にしていた八ツ手の葉を勝三郎に預けると、ずかずかと廊下の欄干の前へ歩み寄った。

 

 

「これは親父殿に信勝。…おお、母上もおられましたか。親族がこうも揃うとは、珍しい事もあるものよなぁ」

 

「父上も母上もわたしも、兄上の婚礼の儀に出席する為に、わざわざ末森城より駆け付けているのですよ」

 

信勝が穏やかな口調で言うと、信長は小気味良さげにククッと笑う。

 

「美濃との争いがことごとく負け戦に終わった故、今度は同盟を結んで難事を片付ける──。

実に平和的で、つまらぬやり方にございますなぁ親父殿」

 

「つまらぬのは嫌いか?」

 

「いや。…ただ、尾張の虎がただの猫に成り下がる様を見とうないだけよ」

 

「信長。儂とて好きで猫のように背を丸めている訳ではない。

 

出来る事ならば稲葉山城を攻略したかったが、どうにもこうにもそれが叶わぬ。

 

美濃の蝮は強い…。一昨年前の大敗はさすがの儂も堪えたわ。勢いに任せ過ぎた」

 

「儂は湿っぽい話は好かぬぞ」

「まあ聞け。そちも存じておるように、東にはあの今川義元も控えておる。

 

これまでは東西どちらの敵とも刀を交えてきたが、今川が駿河・遠江のみならず三河の大半をも手中におさめた今、

 

いよいよ両国を相手に戦を続ける事が難しゅうなった…。特に勢いを増した今川は脅威じゃ」

 

「故に美濃の蝮と同盟か」

 

「今川の力を抑えたいのは向こうも同じだ。同盟を結んだところで斎藤家が真の味方になってくれるとは限らぬが、

 

少なくとも織田家は強力な後ろ楯を得る事が出来、信長、そなたの立場をより堅固なものとしてくれよう」

 

「左様な綺麗事の同盟など、儂は望んでおらぬわッ」

 

信長は唾をぷっと地面に吐き捨てると