入江は半ば強引に引きずるように三津を家に連れて帰り,玄関の戸を閉めたと同時に三津の脚をすくい上げた。

 

 

「ちょっとぉ!?」

 

 

急に抱き上げられて猛抗議する三津の言葉には耳を貸さずに履いてた草履を脱ぎ散らかし,三津の草履も振り落として家に上がった。

お行儀は悪いが足で障子を開けて居間に入り,そこで三津を畳に下ろした。

 

 

「小太郎さんっ!」 香港脫髮研社

 

 

「九一。」

 

 

呼び名を訂正しながら両手で三津の顔を挟み込んで唇を重ねた。

 

 

「待っ……て。」

 

 

『待てる訳ないやん。』

 

 

この家で三津と二人きり。この時をどれだけ待ちわびたか。

ここに辿り着くまで生殺しもいいとこだった。

 

 

『やっと思い通りに出来る。』

 

 

思う存分舌を絡ませて離れた後,三津は俯いて目も合わせられなかった。入江は三津を優しく抱き寄せてわざと耳元で囁いた。

 

 

「ねぇ……手,貸して。」

 

 

「……手?」

 

 

聞き間違えか?三津は入江の胸を押して空間を作り,そんな事を口走る人物の顔を見上げた。

 

 

「そう,手。この長〜い旅路で我慢に我慢し続けて溜まった全てを出したいそ。」

 

 

三津は目の前の弾けんばかりの笑顔に目頭を押さえた。そんな笑顔で言う事か。

 

 

「手,なの?」

 

 

「手,なの。

ふとあの日を思い出したんよね。三津が恥じらいながら私のを握って,三津の手の温もりに包まれながら……。」

「一旦黙ろう。」

 

 

三津は瞬時に手のひらで入江の口を塞ぎにかかった。

 

 

『我慢に我慢を重ねたせいか変態に拍車がかかってる……。』

 

 

「あのね?最後まで聞いて?だからね?この前は恥じらって目を伏せながら手伝ってくれた三津に興奮したんやけど,今回は現物を見ながら手伝ってくれる姿で出したくて。」

「お断りします。」

 

 

食い気味に拒否した。……が拍車がかかった変態はもうどうにも止まらなかった。

 

 

「だから最後まで聞いて?手を借りた所で私の欲がおさまると思う?この変態がよ?」

 

 

『自分で変態って言った……。』

 

 

何やら言い分があるらしいから大人しく聞く事にした。でなきゃ何を言い出すか分からない怖さがあった。

 

 

「一回きりでも味しめとるんやけぇ手でも口でも物足りんの。」

 

 

『そんな堂々と言葉にしないでもらいたい……。』

 

 

どんな顔で聞いていればいいか分からず,三津は目を細めて無の境地に入ろうとしながら聞いていた。

 

 

「私は三津とは全部したいそ。」

 

 

『全部って何……。』

 

 

最後まで聞けと言われたから口にはしなかったが,全部の意味が気になり出して考えている所でふと思い出した。

もしや文からの告発文に書かれていた事ではないか。そうであればこの変態に反撃するきっかけになるのではと考えた。

 

 

「九一さんの言う全部って……あの“私の初めてもらってください”の彼女とやった事全部ですか?」

 

 

「ゔっ……。」

 

 

『やっぱりか。』

 

 

分かりやすく顔を引き攣らせて黙り込んだ。ここで反撃する他ない。

 

 

「ふっ文ちゃん本当に全部言っとるそ?」

 

 

余程知られたくなかったんだなと分かるぐらいに入江の声が震えていた。

 

 

「えっと,私の味と匂いちゃんと覚え」

「駄目っ!三津がそんな事口走っちゃいけん!!」

 

 

入江は全力で首を左右に振りながら三津の口を塞いだ。

 

 

「もぉー!文ちゃん余計な事してぇぇぇっ!!!」

 

 

絶叫する入江に対して,三津は冷静に口を塞ぐ手を外してぽんぽんと入江の肩を叩いた。そんな真っ黒い歴史を作ったのはお前自身だぞと。

 

 

「それを悦んで受け入れた彼女とはある意味馬が合ってお似合いやったのかも。」