「これから欲求不満になったら按摩頼も……。痛気持ちいいのがもう癖になる……。」

 

 

「はいはい,痛くしときますね。」

 

 

そんなつもりで按摩をしてる訳じゃないからちょっとその発想から離れてくれと指に力を加えた。

 

 

「あっ!あっ!そこっ!それいいっ!」

 

 

入江が一番いいとこに効いてると声を上げた所で勢い良く障子が開いた。

一瞬二人は硬直して,この展開には覚えがあるなと二人で苦笑した。

 

 

「紛らわしい声を出すなっ!」

 

 

そこには怒りたいけど好きにしろと言った手前,怒ろうにも怒れない複雑な表情の桂が居て,その後ろには好奇心に満ちた目で中を覗く高杉と山縣が居る。

 

 

「だってすっごい気持ちいいんですよ?仕方ないです。稔麿でさえ喘ぐ技法ですからね。」

 

 

「だから言い方。良かったら高杉さんと山縣さんも順番にやりますよ?小五郎さんは後で部屋に戻ったらしますからね。」

 

 

三津は入江の背中から離れてここまでねと背中をぽんぽん叩いた。【香港植髮價錢】小心平價陷阱! | 方格子

 

 

「あー軽くなった。三津ありがと,晋作らもしてもらえばいい。木戸さんは部屋でまた別の按摩かぁ羨ましい。」

 

 

入江は布団の上に胡座をかいてせっかくだからしてもらえと高杉達を手招いた。

 

 

「稔麿も……。」

「喘いだ……?」

 

 

高杉と山縣がごくりと唾を飲むから三津は語弊があるぞと入江に文句を言った。

 

 

「俺が先っ!」

 

 

高杉は頭から滑り込む様にうつ伏せになった。三津は子供だなぁと笑いながらその側に寄った。

 

 

「えっ何で乗らんそ?」

 

 

「流石に人様の旦那さんに乗るなんて出来ませんからね。」

 

 

三津はこれでも充分だと按摩を始めた。すると高杉もみるみる悦な表情を浮かべた。

 

 

「くあぁ……。効くなぁ……。三津さんこれ商売にしたら儲かるぞ。」

 

 

客取れるぞと煽てられて,もし働き口に困ったらそうしますと笑った。その横では順番を待つ山縣が,早く早くと正座で体を左右に揺らしていた。

全身解された高杉はそりゃあんな声出るわと骨抜き状態になっていた。

そして待ってましたと山縣が高杉と同様頭から滑り込んでうつ伏せた。

 

 

「うわぁ山縣さん凝ってますねぇ。これはやり甲斐あります。」

 

 

「やろ?のしかかってくれてええで。その柔らかい胸を押し当てて……。」

「お前には百年早い。」

 

 

山縣の正面にしゃがみ込んだ入江が満面の笑みで顔面を鷲掴みにした。

 

 

「私でさえ一回しかしてないのに堪能させてたまるか。」

「痛い痛いっ。入江!脳味噌出る!止めろ!」

 

 

山縣はそのまま顔面の骨砕けてしまうと恐ろしい事を口走った。それだけの力で掴まれてるらしい。その光景をしげしげと見ていた桂は顎をさすった。

 

 

「三津,山縣君の相手は程々でいい。私は部屋に戻ってるよ。」

 

 

「分かりました。すぐ戻りますね。」

 

 

三津は山縣の肩をぎゅっぎゅっと揉みながら返事をした。三津の表情に桂も薄っすら笑みを浮かべてから部屋へ戻った。

 

 

『あの顔,出逢った頃によく見た顔だ。』

 

 

三津は気付いているか分からないが,目が合うと自然とやんわり笑う癖がある。

多分甘味屋で働く上で身につけた愛想笑いの一つだと思う。だが目が合っただけで微笑まれるのは悪い気はしない。むしろ好意があるのだと思える。

 

 

仲違いした時以来,その癖は自然となくなっていた。それも桂に対してだけ。他の面々にはいつも微笑みかけていた。

 

 

『私にも笑みが戻った。少しは気を許してもらえたと思っていいかな。』

 

 

それが嬉しく思えた。それに入江の発した言葉が意外だった。

 

 

“一回しかしてない”

 

 

二月も離れていた間にもしかしたら……と思っていたがそれは無かったようだ。

 

 

『律儀に我慢し続けた結果今に至ったのか。二人とも純粋と言うか,正直者なんだな。』

 

 

似た者同士なだけあると一人でクスクス笑った。それから三津が戻って来てくれるまで書き仕事をする事にした。