「何で鈴木が怒るんだよ。…嗚呼、分かったぜ。その面構えだから、さぞや可愛がられてんだろ」
下卑た笑いを向けられ、桜司郎は拳を握る。自分が馬鹿にされるのは構わないが、土方や沖田が馬鹿にされるのは我慢ならなかった。
言い返そうとしたその時、廊下へ続く障子が一息に開けられる。
そこには降り続く雪のように冷たい視線を此方へ向けながら、斎藤が立っていた。何処から探せば良いのかと壬生寺の前を通ると、寺の前に人影を見付ける。
しんしんと降る雪に溶け込むように、mirena 子宮 環 副作用 沖田は壬生寺の式台に顔を伏せて座っていた。
「沖田先生…ッ!」
直ぐに見付けられた事に安堵しつつ、桜司郎は傘を片手に駆け寄る。
沖田の肩や頭には雪が積もり、耳は真っ赤になっていた。
「来ないで、下さい…ッ。どうか、一人に……」
切実なる叫びに桜司郎の足はぴたりと止まる。沖田の肩は小刻みに揺れ、泣き声を押し殺すような息が聞こえた。
一人になりたいという気持ちは理解出来る。しかし、この極寒の空の下で長時間放っておけば命に関わってしまうだろう。
それに、今の沖田を一人にしたくないと思った。
もう一度拒絶されたらその時は大人しく引こうと決意し、恐る恐ると歩みを進める。
そして沖田に傘を傾けると、彼の身体に積もった雪を手で払い除けた。
まるで山南の命を奪った自身への戒めと言わんばかりに、沖田はそこから動こうとしない。
このままでは沖田までも死んでしまうと桜司郎は泣きたくなった。
「沖田先生…、嫌だったらもう一度言ってください」
桜司郎は横に座ると、沖田が口を開くまで黙っていようと決意をする。そして自身の羽織を脱ぐと、沖田の肩に掛けた。
だが、沖田は拒絶する様子は無い。桜司郎はそれに安堵した。
空を見上げれば、灰色の雲が全体を覆い、白く儚い雪が淡々と降り注ぐ。降り止む様子は無かった。
──どれだけの時が経っただろうか。
その間、桜司郎は寒いとも言わず、歯を鳴らすこともせずに横に居続けた。
やがて根負けした様に、顔を伏せたまま沖田が口を開く。
「…貴女は。変わり者だと、言われたことは、ありませんか?どうかしてますよ…」
沖田の声は泣いていた。寒さだけじゃなく涙に濡れ、震えた声色が桜司郎の鼓膜を震わす。
「変わり者…。それで結構です。沖田先生のつらい時に、傍に居られるのなら…変わり者でも何でも構いません」
吐く息が白く視界を染めた。桜司郎の声に、沖田は顔を上げる。
青白い顔に、目元と頬だけを赤くしていた。
「どうして貴女は…こういう時に限って私の傍にいるのでしょう…。どうして私の心が揺らいでいる時に限って、私の欲する言葉をかけてくれるのでしょうか」
「沖田先生…」
「そんな、そんな風に…切なく呼ばないで下さい。甘えたくなってしまう…ッ」
沖田の頬に涙が幾筋も伝った。もう彼の精神は限界だったのだろう。
大好きな山南の死を抱えるには一人では重すぎたのだ。
稀代の天才剣士と呼ばれた沖田も人の子なのだ。まるで迷い子のようなその表情に、桜司郎は胸が締め付けられるような感覚と共に顔を歪める。
「…こんな時くらい甘えて下さい、沖田先生。辛かった、ですね。良く御役目を全うされましたね」
桜司郎はそう言うと、おずおずと沖田の首の後ろと背中に手を回し自身に引き寄せた。抵抗はない。
桜司郎に下心は一切無く、目の前の儚く泣く人を抱き締めたいと思ったのだ。
ふわりと猫のような柔らかい髪を撫で、冷えきった身体を温めるように背を摩る。
他に慰めの言葉は持ち合わせていなかった。
ただ寄り添うことしか出来ないが、きっとそれでもいいのだろう。
この悲しみは時間しか和らげてくれないのだから。