がなくなってしまう。さらには、刀をもてなくなる。

 

 かれのような誠のには、それが一番こたえるであろう。

 

 まだある。

 

 副長や伊庭の場合は、ほかの生き残りとはちがう。なぜなら、死ぬはずのところをねじ曲げるからである。

 

 史実により忠実に添うなら、經血過多 經常痛 二人は身を隠さねばならない。

 

 いいや、この際、それもいい。

 

 二人の死にかぎっては、史実なんてくそったれでおわらせればいいだろう。

 

 もしも伊庭が助かって降伏すればどうなるだろう。投獄されるだけですむ可能性は高い。

 伊庭については、敵のおおくがよくも悪くもさほど心証は悪くないはずだ。

 

 かれには、ざっとおおまかにならしらせてもいいかもしれない。

 

 が、さっきのことが副長にあてはまるだろうか?

 

 土方歳三は、京時代から近藤勇同様おおくの恨みをかっている。その上、よくも悪くも目立ちまくっている。

 

 局長である近藤勇は、すでに斬首されている。副長は、近藤局長が存命のうちは副長という立場ではあったが、実質副長が新撰組の実務を担っていた。

 そのことは、おおくの人々がしっている。ゆえに、敵のおおくの心証は最悪最低だろう。

 

 それこそ、斬首ですら寛容な刑じゃないかってレベルの処罰がくだされるかもしれない。

 

 史実上、さほど目立っていない相馬主計は、新撰組の最後の局長だからといって島流しにされる。

 

 この箱館政府のトップである榎本、それから大幹部である大鳥は投獄であるにもかかわらず、だ。

 

 結局、相馬主計はおねぇこと殺害の件で島流しにあう。

 ぶっちゃけ、それはこじつけである。

 

 それでも、島流しを科すのである。

 

 敵が、どれだけ新撰組を目の敵にしているかがわかるというものだ。

 

 妄想っていうか、マジで沈思黙考しまくっていて話がちょこっとだけそれてしまったが、伊庭の質問にどうこたえるべきなのか。

 

「なるほど」

 

 はっとした。

 

 伊庭がうんうんとうなずいている。

 

「そういうわけで、この戦ですべてのがつくわけではないということさ。時代の流れや体制をかえるのは、すっごく大変なことだ。だれかのかんがえや意見を通せば、通らなかった連中は当然不満を抱く。通った側にいてさえ、やり方を間違えれば不満を抱かせることになる。いずれにせよ、いまは敵である連中も、一枚岩ではない。現在はかろうじて協調共栄していられても、事がおわればバラバラになる。敵のなかには、後年暗殺されたり襲われたりする者もすくなくない。そんな世のなかだ。正直、生きやすくもないし安穏と暮らせるわけでもない」

 

 なんてこった。

 

 俊冬が勝手に話をすすめているじゃないか。「すまない。きみがあまりにも妄想しまくっているから、八郎君も混乱するだけだと思ってね」

 

 俊冬はおれのほうにを向け、しれっといった。

 

 なんなんだよもうっ!

 せっかく伊庭のためにどういえばいいのか、かんがえにかんがえまくっていたというのに。

 

「Sorry」

 

 俊冬がテヘペロした。

 

 おいおい、俊冬。いってるだけでちっともごめんって思っていないだろう?

 

 ってか、やはり伊庭にもおれの心の声がだだもれになっているんだ。

 

「とうわけで、正直なところここで生き残っても、きみの将来は輝かしいものでも希望に満ちたものでもない。それは、きみだけではない。ここにいる全員にいえることだ。だが、ものはかんがえようじゃないかと思うんだ。すべてのしがらみを捨て、あたらしい人生をあゆむことができる。さすがに江戸の練兵館にかえることはできないが、きみなら日の本のどこにいっても道場をひらいて教えることができる。道場をひらなかなくっても、これからさきも戦はある。名をかえてそれに参加することだってできる。あるいは、異国をみてまわるのもいいかもしれない」

 

 俊冬のチートスキル『暗示』だ。

 

 伊庭にかけようとしているのだ。

 

 かれの言葉の抑揚が、耳に心地よい。心にストンと入ってくる。頭がぼーっとしている。

 

「蟻通先生、あなたもです。あなたなら、利三郎と異国をまわって面白い冒険ができるでしょう。手始めに、フランス軍の軍人たちとフランスにゆくのもいいかもしれませんね。フランスは、じつにいいところですよ」

 

 俊冬は、蟻通まで暗示にかけようと試みてくれている。

 

 神対応すぎる。

 

 俊冬は、いったん口をつぐんだ。

 

 いま俊冬自身がいったことを、伊庭と蟻通の脳内と心の内にしみこませるための間をおいたのかもしれない。

 

「八郎君。おれとわんこは、主計の父上に借りがあってね。かれの父上は、おれたちの大恩人といえる人なんだ。だから、おれたちはその大恩人に報いるため、息子である主計を護るためにここにいる。かれとかれが護りたいと願うあらゆるものを護るため、ここに存在している。かれが護りたいもののなかには、きみや蟻通先生も含まれている。そういうわけで、きみたちがいまどう思っていようと、あるいはそれが本意でなくっても、おれたちはきみたちを護り抜くつもりだ。かならずや