をよくみている。しかも、心はピュアだ。悪意ってものがない。

 おそらく、であるが。

 

 兎に角、子どもらが正直に指摘した瞬間、副長がさらにさらにさらにキレた。

 

 ってか、なんでいっつもおれが悪くなるんだ?

 おれが怒鳴られるんだ?

 

「痴呆症、子宮內膜增生飲食 なんて心のなかで思って申し訳ございません」

 

 どうあがいたって上司のパワハラに勝てるわけがない。だから、四の五のいわずに謝罪した。

 

「歳さん。話のつづきが、というか、まだまったく話してもらっていないけど、兎に角気になるのではやく申してください」

 

 忍耐強い伊庭も、ここまで副長に焦らされてイラっときたらしい。

 

「八郎、話したらをひきとってくれるか?」

 

 副長は、椅子に座りなおしつつもちかけた。

 

 なに?トレード?しゃないか、放出ってやつ?

 

 遊撃隊か……。

 

 幕臣ばかりだから、とはちがう意味でいじめられるだろうか。マウンティングされまくるだろうか。

 

 いや、大丈夫。

 

 伊庭がいるから、護ってくれる。いじめっ子どもから、身をていして護り抜いてくれるだろう。

 

 だれかさんとだれかさんみたいに、護るなんて宣言しておきながらいじったりいびったりいじめたりなんてことは絶対にない。

 

 だったら、いってもいいかも。

 そうなったら、相棒はどうなる?

 

 遊撃隊は、犬同伴可能だろうか?

 

「わかっています。ここでツッコんだら主計の思うツボですからね。いわれのない非難を受けたとしても、おれとわんこはグッとがまんします」

 

 俊冬が叫んだ。はっとすると、副長が俊冬と俊春をにらみつけている。

 

「きみのそのだだもれの妄想のせいで、ぼくらが副長に叱られるんだ。いいかげんにしてくれないと、きみの八郎君がしびれをきらしてしまうよ」

「わんこ、八郎君はすでにしびれをきらしまくっている」

 

 両脇から、おれの護り人であるはずのだれかさんとだれかさんがいっている。

 

 相棒が、いつの間にか店内に入ってきていた。しかも、俊春の脚許でしれっとお座りしているではないか。

 

 おれたち以外の客がいなくなったので、かわいらしい店員さんがいれてくれたのだろう。

 

「だったら、副長にいえよ。副長がさっさといわないから、ついついいらんことをかんがえたり思ったりするんじゃないか」

「ああああああ?主計、いい度胸じゃないか、ええっ?」

「だってそうでしょう?だだもれは、昨日今日はじまったわけではありません。わかっていながらとっとと告げないほうが悪いんです。これ、間違っていますか?」

 

 めっちゃ逆ギレしてみた。だって、そうだろう?

 

 おれは、あくまで正論を述べたつもりである。 

 

 おれが正義だ、よな?「ちっ!」

 

 副長はおれたちしかいないお汁粉店の店内に、舌打ちの音を響き渡らせた。

 

「八郎。信じてもらえぬかもしれぬが、こいつら、いや、くそったれの馬鹿とおれが信頼する有能な片腕的存在のぽちたまは、ずっとさきからやってきたんだ」

「ちょっ、くそったれの馬鹿ってだれのことなんです?ここには、そんなキラキラネームもびっくりな名の者はいません」

 

 副長にツッコんでしまった。

 それから、副長の言葉がまだ脳に伝達しきれていないであろう伊庭に流し目、もといを向けてみた。

 

 ちょっとはにかんだ、もといミステリアスな笑みを添えてみる。

 

「八郎さん、もう一つあります。ぽちたまは、副長の息子なんです」

「主計、てめぇっ!なにをいってやがる……」

「えええええっ?噂にはきいていたけど、歳さん、誠に隠し子がいたんだ」

「いやまて、八郎。そこにだけ反応するのか?ってか、噂?どういうことだ?」

 

 ふふふっ。

 

 俊冬と俊春とついでに相棒は、副長の遺伝子を継いではいる。けっして息子などではない。

 副長がどこぞの女性をだまくらかし、愉しんだ後にコウノトリが運んできたわけではない。

 

 が、広義ではそういえなくもない。

 だから、まったくの嘘ではないわけだ。

 

 ってか、伊庭が副長の息子ってところにだけ反応したのは草すぎる。

 

 ってか、噂?

 噂っていったいどんな噂なのだろう。

 

「とくに俊冬さんはそっくりですよね。並んでいたら、それがよくわかります。でも、確実に兄弟ではないですよね。わたしは、歳さんに兄上や姉上がいることをしっています。ですが、弟がいないこともしっています。これだけ似ていて兄弟ではないとすれば、あとは子どもくらいしかかんがえられません。ということは、隠し子ということでしょう?だけでなく、ほかの隊も噂していますよ。もっとも、わたしも利三郎君からきいて『ああ、そいえば』って納得したんですけどね」

「利三郎だあああああ?」

「ええ。それはもう事細かに。歳さんが、まだ十二、三歳のに女中を手籠めにして孕ませた子だと。わたしも、その話は君からきいてしっていますから」

 

 実は伊庭って、けっこう噂話好きなんだ。

 

 とくとくとうれしそうに語るかれをみながら、かれの意外な一面を垣間見た気がする。

 

「利三郎の野郎……。宮古湾だったな?来年か?」

 

 副長がこちらをにらみつけてきた。

 

 歯が砕け散ってしまうんじゃないかというほど噛みしめている。

 ギリギリという音が、ここまできこえてくる。

 

「え、ええ」

 

 としか答えようもない。

 

 いまの副長の問いは、野村が死ぬ時と場所のことである。

 

「あいつを簀巻きにして、甲鉄にぶん投げてやる」

 

 副長はマジギレしている。

 

 思わず、そのときの光景がくっきり脳内にわいた。

 

 ダメだ。いまはなにもかんがえるな。かんがえたが最後、おれまで簀巻きにされて甲鉄にぶん投げられる。

 

 ってかそこまでまたなくっても、簀巻きにしてそのあたりに野ざらしにしされるだけで、数時間で凍死してしまうだろう。

 

「副長、どうか落ち着いてください。かような噂、利三郎も悪気が