を受け取ると、また納屋にひきこもってしまった。

 

 結局、子どもらの監督役をおれがするはめになり、子どもらと野村と相棒とともに、夕方ちかくまで白石城下をうろうろしていた。

 

 ってか、迷子になってさまよっていた。

 

 甘党の店を探しているうちに、泊っている旅籠の場所すらわからなくなってしまったのだ。

 

 Googleマップもないし、經痛 それ以外のナビ的アプリがあるわけでもない。

 

 しかーし、おれにはそんなものより頼りになる友人がいる。

 

 そう、相棒である。おれなんかよりIQがずっと上で、身体能力、精神、ともに想像のはるかに上をゆくスーパードッグである。

 

 いや、まて。それだったら、相棒はなにゆえもっとはやく案内してくれなかったんだ?そもそも、甘党の店にいくってところで案内してくれてもよかったのでは?

 

 とことこまえをあるく相棒の背をみつめながら、そんな疑問がふつふつわいてきた。

 二、三メートルさきをとことことあゆむ相棒の黒い背を眺めつつ、そんな疑問がふつふつとわいてきたってわけである。

 

 日中あるきまわったにもかかわらず、甘いものを食すことはできなかった。

 それでも、まぁ無事にかえれればいいか。

 

「やっぱり、主計さんに任せるもんじゃないよね」

「そうだよね。せっかくの休日がぱぁになっちゃった」

 

 おれのうしろで、子どもらがそんなことをいっている。

 

 忙しすぎてまったく会えなかったが、奇蹟的に時間がとれたのでとりあえずはどっかにいこうっていうことになって、急すぎて下調べもなにもしなかったがために施設や店がことごとく閉まっていて、結局撃沈してしまったデートに文句をつける彼女みたいなことをいわれてしまった。

 

 もっとも、おれにかぎってはそんな苦い思い出ってものは一度たりともないけども。

 

「あーあ、団子が喰いたかったな」

 

 野村の文句が後頭部にあたった。ふりかえると、かれは頭のうしろで腕組みし、ムカつくほどぶらぶら呑気にあるいている。

 

「あのなぁ、利三郎。おれは、このあたりの土地勘がまったくないんだよ。ゆえに、どこに甘党の店があるのかしるわけないんからスーパードッグ兼定様に地にはいつくばってお願いすればよかったのだ。『兼定様、どうか連れていってください』とな」

「はああああああ?なんで?だったら、おまえがやればよかったじゃないか」

「パードン?」

 

 かれは、意味がわからない的に両肩をすくめた。それから、アメリカ人がやるように、両だ」

「だったら、をぐるりとまわした。

 

 なんてこった。こんなジェスチャーまで伝授したのは、イケメンの遺伝子を濃く継いでいる俊冬にちがいない。

 いやいや。かれ以外にはかんがえられない。

 

「わたしは、おまえとちがってムダにプライドが高いからな。だれかにお願いしたり、ましてや這いつくばるなんてことはアイ・キャアントってやつだ」

「おまえなぁ……」

 

 あいた口がふさがらぬとは、まさしくこのことであろう。

 

「あれ?兼定、曲がってしまったよ」

 

 市村のアテンションにはっとわれにかえった。反射的に、正面に向き直った。

 

 たしかに、相棒の姿がみあたらない。どうやら、表通りから民家の路地へと曲がってしまったようである。

 

 あわてて追いかけた。

 

 すると、相棒は路地を奥へとあるいてゆく。

 

 ちなみに、綱は必要ないらしい。

 なにせ、「スーパードッグ兼定様」だから。

 

 あたりは、じょじょに薄暗くなってゆく。

 そんななか路地をすすんでゆくと、小川くらいの幅のある用水路にゆきあたった。

 

 相棒はそのまえまでくるとジャンプし、その用水路をヨユーで飛び越えてしまった。

 

 なんと……。

 

「わーい」

「飛び越えちゃえ」

 

 制止する間もなかった。

 かれらは助走をつけ、相棒同様用水路を軽く飛び越えてしまったではないか。

 

 うっ……。

 

 幅は二メートル以上あるか?いや、二メートルはないか?

 

 ちょっとまってくれ。

 

 中学や高校のときの走幅跳びの記録って、どのくらいだったであろうか?

 

「わたしは、ひかえめに申してもパーフェクトであるぞ」

 

 おれの躊躇を嘲笑うかのように、野村がムダに宣言した。と同時に、助走をつけて飛んだ。

 かれはまるで走幅跳びの選手並みに宙を飛び、向こう側にストンと着地した。

 

 たしかに、ムダにすごい。

 ムダにすごいが、ジャンプじたいは新撰組の隊務に直接関係のないスキルである。

 

「あっ兼定、まってよ」

「いこうよ、利三郎さん」

 

 相棒は、愚かな人間たちなどかまわずとことことあゆみつづけている。

 野村と子どもらは、その相棒をさっさと追いかけていってしまった。

 

 もしかして、置いてけぼりをくらってしまったではないのか?

 

 左右をみまわしてみたが、橋のようなものはない。ってか、用水路にそんなごたいそうなものがあるわけもない。

 

 ってかこのあたりの住人は、いったいどうやってこの用水路を行き来しているんだろう。もしかして、このあたりの住人は、ジャンプ力が五輪選手並みにすごいのであろうか。

 

 よちよちあるきのころから、毎日ジャンプの練習をするとか?

 忍びの者が毎日麻をジャンプするように?

 

 毎日麻を飛び越えるというのは、忍びの者のジャンプの特訓方法であるとよくいわれている。

 

 麻は、一日に三センチ成長するらしい。そのため、初日は三センチ、つぎの日には六センチ、そのまたつぎの日には九センチと、毎日つづけてゆくのである。

 

 気がついたら、かなりの高さをジャンプできるって算段である。

 

 このあたりの住人は、この方法と同様のことを実践しているのかもしれない。

 

 おれよ、ちょっとまて。妄想はいい。いまは現実逃避をしている暇はない。

 

 置いてけぼりをくらっているんだからな。

 

 ええい、ままよ。

 

 意を決し、助走をつけて飛んだ。自分では、そのつもりである。

 

 おお……。

 

 向こう側に両脚がつい……たああああああっ!

 

 と思ったのも束の間、うしろへぐらついた。つまり、用水路に背中から落ちそうになった。が、見事なまでの反射神経で、なんとか踏みとどまることができた。

 

 心臓がバクバクしている。