「ほう、そのような話になっていたのか。それとも島介の情報不足か」

 

「それはどういう意味だ」

 

 なお情報不足は認めるぞ。こちらをじっと見詰めると、冗談や引っ掛けで何かを言っているわけではないとでも思ったのか「俺は別に張純と共に兵を挙げたわけではない」単純明快、知りたい部分を投下してきた。それに対する俺の認識は、え? だな。根本からして違うのかよ……。

 

予期せぬ帰路

「正直、今の言葉の意味を理解しかねている」

 

「どこに、というのは省こう。植髮香港 そもそも張純は烏桓へ逃げ込んできたのであって、まるで共同で行動しているかのような物言いは正しくはないな」 なんだよそれは、どうしてそんな大元で認識を間違うんだよ。はぁ、諜報網が弱すぎてどうにもならん。これだものあれこれと騙される奴が多いわけだ、戦争でもこいつは極めて危険な部分だぞ。

 

「張純が勇ましい言動をしているが、実はそんなことだったのか。どうしようもない奴だ。だが冀州を中心とした略奪騒ぎはどう説明を?」

 

 被害が出ているのは事実なんだよ、幽州もだぞ。こいつがやったって証拠はないんだよなきっと。

 

「我が族以外にも烏桓はこの地に住んでいる。それらを支配して張純がやっているのであろうな」

 

 ということはだ、公孫賛はそれらを知りつつも、あえて張純を強大な相手として見積り、近隣での影響力を強めようと騒いでいるんだな。そんな馬鹿な真似をするのかと聞かれたら、するかもしれないと思えているぞ。

 

「そうか。では策に踊らされるかのようにして争うのは面白くない。特に問題が無ければこちらもことを荒立てるつもりはない、それで良いか?」

 

 甘寧が驚きを隠せない顔をしている、だってそうだろ? 合理的すぎる結果は感情がついて行かないが、拘りがないんだからこうもなるさ。

 

「元より俺はこちらから仕掛けるつもりはない。降りかかる火の粉は払うがな」

 

「そういう考えだって使者を出さないか? 勘違いで命のやり取りをするのはつまらん」

 

 今度は丘力居が驚きの顔をする。うーん、どこにそんな意外性があった?

 

「はて島介は県令と聞いたが、中央へどうやって話を通すつもりなのだ」 おー……そういえば、賄賂を積まないと何一つ認められないとかいうカオスだったな。いや功績の一つにでもなるとすれば、誰かが拾うだろう。俺が面識あるといえば何苗位なものだ、だがあいつだって地方の反乱が収まるならよしとするさ。

 

「最近まで河南尹の司馬だったんだ、今は車騎将軍にもなっているらしいがね。何苗へ連絡を入れれば繋いでくれるはずだ」

 

 荀彧に手配を任せれば、きっと何かしらの手段を用いて公にするはずだ。俺ですら見えているんだ、こいつは無理なことではない。

 

「どうせ何をしようと巻き込まれるのだ、島介に任せよう。騰頓、お前が使者となるのだ」

 

「承知した」

 

 使者になるってことは補佐官じゃないな。こいつらは名前を聞いても繋がりが全く解らんから困る。

 

「その騰頓殿は?」

 

「そいつは俺の従子だ。一族の子の中で特に優秀なので傍に置いている」

 

 なるほど、甥っ子以上子供未満ってやつか。顔つきがすでに何かやらかしそうなやつとわかる、いい意味でだぞ。

 

「烏桓族と和睦を結んでしまうと、張純らはどうなるんだ?」

 

「支持を受けている族も見放して、程なく自滅ではないか? とんだはた迷惑な奴よ」

 

 そうすると今度は匈奴やら鮮卑にでも逃げ込んだりでもするのかね。そいつはどうでもいいか、公孫賛もこれ以上勢力を張ることも出来なくなると、こちらが睨まれそうだ。

 

「任地に赴任する前からてんやわんやだ。これでたどり着いたとしても平和に暮らせる気がしない」

 

「ふむ、逆恨みなりを受けるやも知れぬな。それは俺の本意ではない、島介が望むならば烏桓と共に在っても構わんが」「行ってみてダメならその時に考えるさ。ところで俺なんて信用していいのか」

 

 大前提はこちらが働くってところだろ、見ず知らずの県令ごときに未来を託すのはどうなんだ。

 

「俺だって烏桓の大人だ、対面している人物が胡散臭い奴かどうか位は見抜ける。もしこれで騙されでもするようならば、元より大人の資格が無かったと言える」

 

 まあそうか、こいつは頂点なんだから、この位の正解をひいて当たり前だ。荀彧にしっかりと事情を説明してやらんとな。

 

「努力は確約する。ところで烏桓族は暑いのは苦手か? 南蛮の奴らは寒さで病気になるからと、荊州より北は厳しいらしいが」

 

「暑さよりは寒さの方が得意だが、そこまで気にはせんぞ。長いこと暮らしたことはないが、そこまで暑いのか?」