たとえば、恋をしたり、胸がきゅーっとなるような経験をしたりすると、外からの圧力でゴムボールは、ぐいーっと変形するんだ。圧力が強ければ強いほど、押される力も強くなる。すると丸じゃなくなる。だからそれはちょっと苦しい。
外からの圧力が消えると、一瞬ゴムボールはへこんだまんまになるのだけど、自然に丸に戻っていって、いつかは完全な丸になる。それは、過去の経験も思い出もぜんぶ取り込んだパーフェクトな丸。
空気がたっぷり詰め込まれた丸いゴムボールは、いつも柔らかでいなきゃいけない。だって硬かったら、押されたときに破れてしまったり、壊れてしまうかもしれないから。いつも触って、ときに揉みもみして、やわらかくやわらかく。心を触ってあげることができるのは、音楽だったり絵画だったり映画だったりすると思う。心をやわらかくするために、人はアートと呼ばれるものをうみだしたんだよ、きっと。
マレーシアにきて2年間、いろんな圧力で四六時中へこんだり、飛び出したりしていたゴムボールが、最近ようやく“丸”に近づいてきた気がする。丸になってきたから、色んなことを感じ、色んなことを考える。へこんでたときは、毎日興奮して、楽しかったけど、心を見つめる余裕がなかった。丸に近づいてきたからこそ、最近は心の姿がちょっとだけ見える。