桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』ネタバレ感想 | 好奇心の権化、アクティブに生きたい。

好奇心の権化、アクティブに生きたい。

なるべくお金をかけずに日常と本を絡めてみる

※本題の前に
今年も世界に打ちのめされて、強くなれる理由を知りそうな1年でした。
(by.紅蓮華)



今ぎりぎり20代なんですけど、
(本当にぎりぎり…)

40代には全ての夢を叶えて、50歳ぐらいでさくっと死にたいんで、
そんな理想の人生に近付けるように今後も頑張ろうと思います。


とりあえず、今年のエナジーは売り切れたので、次は来年から。


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【注意】
一個人が好き勝手に書いてます。

なおネタバレ全開です。
これから読む予定のある人の閲覧はお控え下さいますようお願いします。

あらすじは前回の記事をご覧下さい。





本作の感想を書くのは、自分の中では満を持してという感じです。それぐらい思い入れのある作品です。
最初に読んだのはもう5年以上前かな。たまたま書店で見付けて、珍しく新品で買いました。


無駄なシーンで水増ししてる作品も多い中、本作に無駄なシーンは一つもありません。

そのせいで、読むだけならすごくいいんですが、あらすじを書くとなると想像以上に大変で…
はしょれる場面がほとんどない中、どこまで削れるかかなり悩みました。



そんな本作を語る前に、作者である桜庭一樹さんについて少し語らせて下さい。

一樹さんというお名前ですが、この方も女性です。
男性名をペンネームに使う女流作家さん、たまにいらっしゃいますね。
(小説に限らず)


この桜庭さん、あるゲームのシナリオを担当した際、それまで好評だったシリーズの評判を落としてしまうということがありました。
ゲームカタログ@Wikiにおける当該ゲームの判定は「クソゲー」。

私はこのゲームをプレイしたことがないので詳しくはわからないのですが、挙げられている問題としては、
・主人公の魅力不足
・希薄な人間関係および感情描写
・黒幕が陳腐
・唐突な場面転換や超展開
・前作の重要人物に対する雑な扱い
などなど。

その中でも最大の問題は、桜庭さんが前作をプレイせずにシナリオを執筆したことにあったようです。
その結果、前作との矛盾が大量に生まれ、期待を裏切られた従来のファンはがっかりしてしまったんでしょうね。


がっかりさせる。
胸の痛む言葉です。

私も今年、恐らくある方をがっかりさせてしまいました。
原因はリサーチ不足と調子に乗ったから。

この結果を生んだ自分の作品を亡き者として扱うつもりはないですが、忌み子には違いありません。
(もうコメディは書かん。コンテスト終わったら非公開にします)

まだ挽回はできていません。


私の話はさておき、この後、桜庭さんへの世間からの評価が大きく変わる出来事が起こります。

問題のゲームが発売された1998年から9年後の2007年。

彼女の著作『私の男』が直木賞を受賞します。


あの直木賞です。
真剣に小説を書いてる人間なら誰もが求めてやまないだろう、あの。

歌手でいうところの紅白出場並みの功績です。


この『私の男』がどんな作品かと言いますと…

一言で表すなら、近親相姦もののエロ小説。
これ以外に言葉が浮かびません。


ただ内容はともかく、直木賞の審査員に認められたのですから晴れて一流作家の仲間入りです。

頑張り続けた先にはご褒美が待ってるのだと思わせてくれるには充分なエピソードではないか、と思うのは私だけでしょうか。



さて、そんな桜庭さんが一般文芸界で注目されるきっかけになった作品が、この『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』。

前置きが長くなりましたが、本作について触れていこうと思います。



"好きって絶望だよね"

もしかすると、本作を知らなくてもこの言葉は目にしたことがあるよって人もいるかもしれません。
とても有名という訳ではないですが、ネット上で独り歩きをしている時があるみたいなので。私も小説となんの関係もないページで見たことがあります。
あの時は「どっかで聞いたような気がするけど…なんの台詞だっけ?」ぐらいにしか思いませんでしたが。

でもそう思ったってことは、少なからず印象に残ってたみたいです。



実の父親から虐待を受けてる藻屑は、愛情と憎しみの区別が付きません。
なぎさが可愛がっていたウサギを殺したのも恐らくそのせいです。

愛情と憎しみを区別しないことで、自分は父親から愛されているのだと信じたかったんじゃないかなと、私は思ってます。

さらに深読みすると、花名島をモップで殴った後に「こんな人生は嘘なんだ」と言って泣いたのは、憎しみによって振るう暴力があることを知ったからかもしれません。
自分がずっと愛情だと信じてたものが揺らいだんだから、認めたくはないでしょう。


藻屑が父親をかばう心理状態を作中ではストックホルム症候群だと表現していますが、これはあんまりしっくりきません。
子供が親をかばう心理って、そういうものではないのではないかと。

子供にとっては親が居場所だから。親から離れるというのは、居場所を失うことだから…
居場所を守ろうとした結果が、親を守ることに繋がるのではと思います。

藻屑の場合は引き取ろうとした母親がいたみたいなので、どうして父親の方を守ろうとしたのかは謎ですが…


ただストックホルム症候群って、"抵抗する痛み"を和らげようとした結果なるものではないでしょうか。

「辛い」「苦しい」「犯人が憎い」だと、状況があまりにも過酷に思えてしまうから、だったら「楽しんでやろう」「気持ちよくなってやろう」「犯人を好きになってみよう」って心理状態なんじゃないかと。
自己暗示にかかってはいるけど、存外ポジティブというか。

あと別に茶化すつもりはないんですが、最高にエロい。
力で押さえ付けられて怖い思いをさせられたり痛くされたりする内に相手のこと好きになるって、考えたらエロくないですか?

(私みたいな)我の強い人間でも相手がイケメンならワンチャンありそうなのがまた怖いね。


とにかく、親子の呪縛とストックホルム症候群は別物であるように思えてならないのです。



藻屑のことばかりなので、なぎさについても。

藻屑ほどではないけど、彼女もなかなか不幸な境遇にいます。


彼女の兄である友彦は、作中で明言はされてませんが、恐らく同級生の女子に逆レ○プされたのがきっかけで引きこもるようになったのかなというところ。
人によっては羨ましいと思うでしょうが、彼が繊細だったのか、はたまた相手がトラウマレベルのブスだったのか…
とにかく、彼にとってはショックな出来事だったようです。


その兄を養う為にも、なぎさは中学を卒業したら自衛隊に入ろうと考えていました。
「実弾」を撃つ生活。それがなぎさの目標でした。

だからこそ、最初は藻屑のことが嫌いでした。
虐待の事実を知らなかった頃は、お金持ちの家に生まれた苦労知らずの女の子としか藻屑を見ていませんでした。

その藻屑が放つ、注目されたいが為の嘘。

それがなぎさには「砂糖菓子の弾丸」に見えました。

これがタイトルの由来です。


結局なぎさの言う「実弾」も、中学生の女の子が思い描く現実味のない「砂糖菓子の弾丸」だった訳ですが。



最初は険悪だったなぎさと藻屑の仲もやがて深まり、心から通じ合える友達になった途端、藻屑は父親に殺されてバラバラにされてしまいます。

こんなに悲しい結末ってありますか?


でもこの悲しみが最高のカタルシスを呼んでくれました。


と言うとサイコパスっぽく見えるかもしれませんが、それとは真逆の感覚です。
心が痛むからこそ得られる爽快感というか。

世の中にはハッピーエンド至上主義者もいますが、悲劇にだって需要はあります。
なんだかんだでカタルシスって気持ちいいんです。


とはいえこのような物語なので、人を選ぶ作品ではあります。
私も手放しでオススメはしません。

けど、意味のある残酷さだということだけはお伝えしておきます。

それに救いもあるんでね。
なぎさの兄貴、この後ちゃんと社会復帰しますから。


あえて桜庭さんの作品で万人受けしそうなものを挙げるなら、『伏 贋作・里見八犬伝』でしょうか。
逆にいうとそれぐらいしかないんですけど。笑


 

ところで文庫の解説って誰に需要があるんですか?

作家は嬉しいでしょうが、読者が読むものなんですか?


個人的には歌手のライブで、別段トークが上手い訳でもないのにMCを聞かされてる時と同じ気持ちになるのですが。


そういうのいらない。

黙って歌ってて。っていうね。
(歌うのに黙るとは)




以上、『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』ネタバレ感想でした。





来年もよろしくお願いします。