湊かなえ『夜行観覧車』あらすじ | 好奇心の権化、アクティブに生きたい。

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今回は、湊かなえさんの『夜行観覧車』のあらすじと感想を。

 

まず、この記事であらすじを。

次の記事でネタバレ感想をつづっていきます。

 

 

 

【注意】

細かい部分ははしょってはいますが、これから読む予定のある人はお気を付け下さいますようお願いします。

 

 

 

■登場人物
・遠藤真弓
高級住宅地・ひばりヶ丘で最も小さな家に住む主婦。30代後半。普段は大人しいが、戸建て住宅に住むことに対して異常なまでの執着を持っている。

・遠藤彩花
真弓の娘。市立A中学校の3年生。バスケ部所属。身勝手に振り回す母親と家のことは見て見ぬ振りを続ける父親への憎悪を募らせているが、攻撃的なだけの内弁慶に成り果てている。

・遠藤啓介
真弓の夫にして彩花の父親。工務店勤め。事なかれ主義で、家で何が起きようと見て見ぬ振りを続けている。

・高橋弘幸
遠藤家の向かいに住む医者。51歳。家族の誰かによって殺害される。

・高橋淳子
弘幸の妻。40歳。弘幸殺害の容疑者。

・高橋良幸
高橋家の長男。現在は高橋家を離れ、ひばりヶ丘から遠く離れた大学の医学部に通っている。弘幸の前妻の子で、淳子とは血が繋がっていない。

・高橋比奈子
高橋家の長女。私立S女子学院に通う高校2年生。良幸とは腹違いの妹。

・高橋慎司
高橋家の次男。私立進学校であるK中学の3年生。バスケ部所属。母親似の綺麗な顔立ちをしている。高橋家の事件以降、行方をくらました。

・小島さと子
遠藤家の隣に住む婦人。お節介焼きで、自分がひばりヶ丘の為を思ってすることは絶対に間違っていないと思い込んでいる。



遠藤真弓の目の前で、娘の彩花が物を投げて暴れています。彩花の癇癪は今に始まったことではありません。

彩花が部屋に貼られたポスターを引き裂いたところで、インターフォンが鳴ります。
真弓がモニターを確認すると、隣に住む小島さと子という婦人の笑顔が見えました。
「いただきもののチョコレートなんだけど、貰ってもらえないかしら」

もしかするとチョコレートは口実で、親子喧嘩の声が響いていたのかもしれない。真弓は謝りますが、さと子はとぼけたまま出ていきました。

午後十時十分になって、どこからか叫び声が聞こえてきます。わずかに開けた窓の外からです。
真弓は階段を駆け上がり、彩花の部屋に入りました。彩花が不機嫌そうに振り返ります。
窓を開けると、男の雄たけびが響き渡り、「助けて!」と女の声が続きました。

「向かいからでしょ、あれ」
彩花に言われて気が付きました。
叫び声は、向かいの高橋家の主婦、淳子のものです。男の声は彼女の息子、慎司のもの。

「ただの親子喧嘩だよ」と鼻で笑う彩花を見て、考えるのはやめることにしました。

下に降りても声はまだ聞こえました。
けれど窓を閉めてしまえば聞こえなくなります。問題の解決策はあっけないものでした。


「ナプキン買ってきて」
風呂から上がるなり、彩花が真弓に声をかけます。真弓は生理用品を買い物時に買うのをすっかり忘れていました。
娘に言われるがまま、コンビニへ向かいます。

コンビニで真弓は、慎司の姿を見付けます。
慎司は真弓より先にレジへ向かいましたが、ポケットを探る様子を見せた後、真弓の方に戻ってきました。
「財布を忘れてしまったみたいです。すみませんが、千円貸して貰えませんか」
真弓は快く引き受けますが、あいにく財布の中に千円札は入っていません。一万円札を取り出します。
「細かいのがないから、これを使って。返してくれるのは明日でいいわ」
慎司は頭を下げると、札を受け取りました。

買い物を終えてひばりヶ丘の坂を上っていると、サイレンの音が聞こえてきました。
高橋家の前にパトカーが停まっています。

家に入ると、彩花がはしゃいだ声を上げました。
「向かいのおじさん、頭殴られて運ばれたみたいだよ」

翌日の夕方のニュースで、高橋家の主人である弘幸が亡くなったことを知りました。
さらにその容疑者は、妻の淳子だということも。


後日、真弓はさと子から、慎司が行方不明になっていることを知らされます。
もしかすると、自分が一万円を渡したせいかもしれない。

弘幸を殺したのは淳子で間違いなく、慎司は怖くなって、友達の家にでも逃げ出しただけ……。
そうであることを願いました。


一方、事件当夜には友達の家にいた高橋家の長女、比奈子は、父の突然の訃報と母の逮捕、おまけに弟まで行方不明になったことをいっぺんに知り、混乱します。
比奈子には腹違いの兄がいますが、今は大学に通う為に家元を離れている為、一時的に叔母夫婦に預けられることになりました。
しかし叔母の夫は、殺人者の家族である比奈子を早く厄介払いしたがっています。

そんな折、ひばりヶ丘に向かって歩いていた途中で、彩花と出くわします。向かいに住んでいる、慎司と同い年の癇癪持ちの女の子。
真弓はあの夜の話が聞けないかと、彩花をカラオケへ連れ出します。そこで事件のあった夜に、母親と慎司が争う声が聞こえたことを教えられます。

彩花は芝居がかったしぐさを交えて比奈子を小馬鹿にすると、先にカラオケを出ました。
エリート一家の高橋家に不幸が降りかかったのが可笑しくてたまらない様子です。
彩花の後ろ姿にポテトを皿ごと投げ付けたい衝動を抑えて、比奈子は兄にメールを打ちました。

――今からお兄ちゃんとこ行きます。


事件のあった日。
彩花は教室に入るなり、同じバスケ部のレギュラー部員である女子に駆け寄ってこられました。部活内で彩花は補欠です。
「あんたんちってK中5番くんの向かいだったの?」

K中5番とは、K中学校でバスケ部に入っている慎司のことです。顔立ちが整っているせいで、他校の女子からもアイドルのような扱いを受けていました。
「5番くんの家に行こうとして、K中学の知り合いからひばりヶ丘で一番小さな家が目印、って教えて貰ったから」
一番小さな家とは、彩花の家である遠藤家のことです。この女子は住宅街を一回りして、一番小さな家を探し出したのです。

「あの家の向かいだなんて、彩花も大変だよね」
思いきり馬鹿にしたように言われた後、彩花は歯を食い縛って、携帯電話から昔のメールを読み返しました。
ひばりヶ丘に越してくる前の、友達だった子たちとの楽しいやり取り。

彩花は、引っ越しなんてしたくありませんでした。
ところが、高級住宅地であるひばりヶ丘にどうして住みたいという母親に押し切られ、それどころかお嬢様学校であるS女子学院への受験も無理やりすすめられ――そこまで勉強のできなかった彩花は受験に失敗し、知り合いのいない今の中学へ通うことを余儀なくされたのです。
しかも向かいはエリート一家である高橋家。二つ年上の女の子は、彩花が落ちたS女子学院の生徒でした。

彩花がみじめな思いをしているのは、全部、母親のせいだといえました。

この日、彩花は早退することになりました。
帰りたくないと思いながら帰路に付いていると、前から慎司が歩いてくるのが見えました。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
無視されそうになって、彩花は呼び止めます。予想に反して、慎司は穏やかに応じました。
「こっちはあんたのせいで思いっきり迷惑かけられてんのよ」彩花の口から出たのは、そんな台詞でした。
これには慎司も「そんなくだらない言いがかりに付き合ってる余裕ない」と返します。「迷惑なら、引っ越せば?」とも。
彩花には、返す言葉が見付かりませんでした。


兄の元へ向かうことを決めた比奈子がバスターミナルの待合室から外に出た時、弟である慎司を目にしました。
慎司は逃げ出しますが、同じように運動神経のいい比奈子はすぐに追い付きます。
二人ともお腹が空いていたので、コンビニでカップラーメンを買うと、バスセンターの裏手にある防波堤に並んで座りました。

「今までどこにいたの」
比奈子に聞かれて、慎司は「マンガ喫茶」と答えます。「お金は借りたんだ。向かいのおばさんに」
そういえば彩花も、事件当夜、母親がコンビニで慎司に会ったと言っていました。
「パパを殺したのは、誰?」
比奈子の質問に慎司は「多分……母さん」と答えます。

待合室に戻った時、ロータリーに停まったバスから、比奈子と慎司の腹違いの兄である良幸が降りてくるのが見えました。


その日の昼過ぎ、真弓の夫にして彩花の父親である遠藤啓介は、工務店の仕事で訪れた家の壁紙を貼りながら、娘のことを考えていました。
ここ数年、会話もろくにしていません。何か話しかけても、返ってくるのは暴言ばかり。それなら最初から黙っていた方がいい。話を聞けない人には何を言っても無駄なのだ、と。
真弓にしてもそうです。普段は穏やかに過ごしているのに、家のことになるとムキになる。あなたと結婚してよかった――そんなことを言われて抱き付かれたのは、後にも先にもひばりヶ丘に小さな土地があることを話した時だけです。

高級住宅地に引っ越し、受験に失敗してから、彩花は変わってしまいました。
あんなところに家など建てなければよかった。啓介は後悔しています。


午後四時。
彩花は高橋家に中傷ビラが貼られているのを目にします。窓ガラスも割られていました。
それを見た時、慎司から「迷惑なら、引っ越せば?」と言われたことを思い出します。
足元に落ちていた石を拾い上げると、腕を振り上げました。
その瞬間、クラクションが鳴らされます。軽自動車の中から、母である真弓が見たこともない生き物を見るような目で彩花を見ていました。
彩花は石を道端に投げ捨てると、自宅に駆け込んでいきました。


午後七時。
真弓は彩花にチーズ入りハンバーグをつくってやろうと思っていましたが、そうはせずに冷凍からあげを解凍しただけのメニューで食事の支度を済ませました。気力を奪ったのは彩花です。

「この間、同じクラブの子がうちに来たわよ」
真弓は切り出しました。途端に彩花が激高します。
「なんで、来た日に言わないの! そういうところがムカつくんだよ! あんたのせいであたしがどんなに恥ずかしい思いしたかわかってんの? 見栄張ってこんなところに家建てたせいで、クラスのみんなにも、人殺しの家のボンボンにまで、馬鹿にされたんだから」

「彩花、今日、慎司くんに会ったの?」
「水曜の昼ですう。比奈子お嬢様には、今日会ったけどね。コンビニで。カップラーメン見てましたぁ」
「何人分、買ってた?」
「変な聞き方。弟のも買ってたかってことでしょ。あんたみたいな鈍くさい人が遠回しに聞くと、馬鹿がばれるからやめときなって」
「だって、気になるじゃない」
「なんで、あんたがそこまで心配しなきゃいけないの?」
「ママ、事件の夜、あの子に一万円渡しちゃったのよ」
「信じらんない! 普通、そんな大金渡す?」
「ちゃんと、朝、持って行くって言ってくれたし」
「カモにされたんだよ。あんたって、やっぱ、サイテー」

これには真弓も言い返します。
「よそのお宅に石を投げる方が、もっと最低じゃない」
「あたしを疑ってんの?」
「石、持ってたでしょ」
「でも、あたしじゃない。自分の子供が信じられないっての? 向かいの家の子は信用してるってのに? あのビラもあたしのせいだって思ってんの?」
「一人じゃ無理かもしれない。でも、よそのお宅に危害を加えると、あなたが犯罪者になるかもしれないのよ」
「あたしじゃないって言ってんだろ!」
彩花は叫ぶと、手に触れるものを片っ端から、床の上に叩き付けていきました。


その三十分後。
啓介は徒歩で帰宅していました。
坂道を上り、自宅付近に差しかかった辺りで、ガラスが割れたような音がします。高橋家に向かい、何かを投げようとしている隣人の小島さと子が見えました。
さと子は悪びれた様子もなく、これはひばりヶ丘婦人会のささやかな抗議だなどと、長い言い訳を連ねます。

そのさと子の声をかき消すように、遠藤家から叫び声が響きました。
その後、窓ガラスが割れる音も。さらに獣じみた叫び声が聞こえてきました。彩花ではなく真弓の声です。

それを聞いた啓介は駆け出しました。
坂道の下に向かって。


午後十時二十分。
合流した高橋家の三兄弟は、ファミレスで事件当夜のこと、これからのことを話していました。
父親を殺したのはどうやら本当に母親らしく、慎司は犯人ではありませんでした。けれど動機はわかりません。

慎司があの晩ことを思い返してみると、記憶によみがえるものがありました。
「向かいの家のカーポートにおじさんがいた」
それを聞いた比奈子が声を上げます。
「向かいは軽自動車が一台よ。おばさんが夕方乗ってるのをよく見かけるから、おじさんは通勤に使ってないと思う」
良幸が後を引き継ぎます。
「一旦帰ってきて出かけようとしていたか、車の整備をしていたとすれば、長い間そこにいたかもしれないな」

三人は立ち上がりました。家に帰ることを決めたのです。
事件の真相を知る為に。

 

 

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以上があらすじです。

感想は次の記事に続きます。