魔物が潜むH3ロケットの「LE-9エンジン」成功を勝ち取った驚異の技術力とは?
■H3ロケットに求められる大推力と新技術
H3ロケットは、これまでH-IIAロケットで使用されていたLE-7Aエンジンに比べて、150トンクラスのより大推力を発生させる必要があります。また、それと同時にできるだけ低コストで、信頼性の高いエンジンとするために、「エキスパンダブリードサイクル」方式のエンジンを採用しました。このタイプは構造がシンプルのため安く安全性も高いという特徴があります。
一方で、エンジンの効率は二段燃焼サイクルには劣ってしまい大きな推力を出すことが難しいという欠点があり、これを克服するのがH3の大きな挑戦でした。さらに、3Dプリンターによる部品製造や、世界初の大型電動弁による可変推力など、将来を見据えた新技術もH3では採用されています。
■襲い掛かる様々な問題、ひび割れも発生!?
2014年より開発がスタートした心臓部であるLE-9ですが、いくつもの課題に直面します。まずは、3Dプリンターで製造したLE-9エンジンの噴射器の性能が設計通りではなかったことです。この不具合により、H3ロケットの1号機では通常の機械加工の噴射器を使用することとなりました。これにより、性能はあまり変わらないのですが、エンジンを使用する際にやや制約が生まれてしまうというデメリットがあります。
二つ目は、ターボポンプのタービンが共振と呼ばれる振動の幅が大きくなる領域で使用されたことにより、ひびのようなものが発生してしまったことです。実は低コスト化を行うために、本来は別部品であるタービンの翼とディスクと呼ばれる部品を一体で製作していたため、やや共振が起きやすい部品となっていたのでした。このような不具合を避けるため、共振を避けるような設計変更を行っています。
■LE-9エンジンに穴が見つかる!?
更には水素を燃やす燃焼室内に、穴が見つかるという不具合も発生しています。最大1cm程度の穴が、計14か所確認されたとのことです。原因究明をしたところ、エンジン駆動中に燃焼室の温度が設計より高くなってしまい、熱に耐えられなくなってしまった内壁が変形して穴が空いてしまったと考えられているそうです。
実は、エキスパンダー・ブリード・サイクルの効率を高めるため、内壁の厚さは0.7mmまで薄くなっているんです。また、燃焼室の中では非常にに複雑な現象が起こっているため、すべてが計算通りとはいかないのです。どんな部品も製造によりばらつきが起こってしまい、一つ一つが異なるため温度にむらが生じてしまうのです。対応策として、冷却機能の強化や、エンジンの起動・停止パターンの見直しなどを行うとのことでした。
この結果、当初の打ち上げ時期である2020年から、何度か延期の発表が行われます。しかし、2022年7~8月に実施したエンジン燃焼試験にて、ターボポンプの振動問題に解決の目途が立ったことが発表されました。
そして2024年2月17日、遂にH3ロケットは打ち上げに成功し、長い苦労が報われた瞬間となりました。