まだまだある“奇妙な漢字"「魚が4つの読みは?」「井戸の中に石」「門+人」など、考えてみよう



2023/01/15 12:00



「奇妙な漢字」を紹介します(グラフィック:編集部作成)


この世には、普段あまり見かけることはない、奇妙な漢字が多数存在します。ビジュアル的に目立つグラフィカルなそれらの漢字は、どこかの辞書や書物にきっちりと載っているものです。杉岡幸徳著『奇妙な漢字』(ポプラ新書)より、いくつかご紹介します(後編)。
前編:「下+心」は下心じゃない!“奇妙な漢字"を紹介
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わく

門部2画(10) 音:ワク・コク 訓:きゅうにとびだしてひとをおどろかせるこえ 意味:身を隠していて、急に飛びだして人を驚かせる声

「門」の横に「人」が隠れている。それで読み方が「きゅうにとびだしてひとをおどろかせるこえ」。漫画のような漢字だ。それにしても読み方が長すぎるだろう。



象形文字だって漢字

せい

二部6画(8) 音:セイ 訓:ととの-える :意味:ととのえる。等しい

美しすぎる。いったい、これが本当に漢字なのだろうか。どう見ても、何かの絵かデザインとしか思えない。これは「斉」の篆字(てんじ)である。そう、「斉藤」というポピュラーな姓に用いる漢字だ。


セイ

?部?画(?) 音:セイ 訓:ほし 意味:星

「星」の古代文字。見ての通り、曲線が多く素朴なアートのようだ。私たちが現在使っている漢字がすべてこんな感じだったら、どんなにデタラメで楽しかっただろうか。



何かの暗号か?のような漢字


ちゅう

丨部7画(8) 音:チュウ 訓:なか 意味:なか。あたる

これは「中」の古字である。あまりにグラフィカルでかっこいいと言わざるをえない。もともと「中」は「軍の中央に立てる旗」をかたどったものとも言われている。


ほつ

戈部12画(16) 音:ホツ 意味:乱す

怪しすぎる。「或」をひっくり返して、2つ重ねた文字。何かの暗号か象徴的な記号のように見える。意味は「乱す」。


どんぶと

石部4画(9) 訓:どんぶと 意味:井戸に石を落とした音

冗談のような漢字。「井(いど)」の中に石を投げ入れた図で、「どんぶと」と読む。もちろん、そのときに響く音のことである。問題は、なぜ「どんぶと」と読むのかということだ。「ぽっちゃん」とか「ぴっちょん」はだめなのか。



ムカデの背中のような漢字


ふう

阜部8画(16) 音:フウ・ブ 意味:2つの丘の間

なにやら込み入った字だ。まるでムカデの背中のようにも見える。レントゲンで胸部を写した姿にも見える。


さい

巛部1画(4) 音:サイ 訓:わざわ-い 意味:災い

まるでサンマの骨のようである。しかし本当はそんな暢気な字ではなく、「災」の古文である。「巛」(川の本字)に一を加え、川がふさがり、氾濫を起こしている状況を描いているのだ。中国の文明は川べりから始まったというから、古代人にとっては、災害というものはすなわち川の氾濫だったのだろう。



魚が4つでギョギョギョギョ?


ぎょう

魚部33画(44) 音:ギョウ・ゴウ 意味:魚が盛んなさま

これは誰でも「ギョギョギョギョ!」と読んでしまうだろう。しかし、魚を4匹も集めたのだから、意味は「魚が盛んなさま」でなければならない。


さ

止部6画(9) 音:サ・スイ 意味:疑う

これは「惢」 の俗字である。「疑う」という意味だ。心が3つ集まっているから「疑う」という意味になるという。しかし逆に、3つ集まるから「信じる」という意味にはならないのだろうか。少し寂しくなる漢字である。

今から4000年ほど前に黄河流域に甲骨文字が出現して以来、おびただしい数の漢字が地球上にあふれました。なかには普段あまり見かけることはない、奇妙な漢字が多数存在します。なぜそういった漢字が存在するのでしょうか。次のような理由が考えられます。



奇妙な漢字が存在する理由

(1)辞書の編纂者のコレクター欲

現在、もっとも多くの漢字を収録している辞典は中国の『中華字海』だといわれています。これには8万5568もの親字が掲載されていますが、実はほとんどが実際に使われた形跡のない「死字」なのです。

(2)個人が勝手に作った漢字がある

個人が勝手に作った漢字でも、それらがたまたま何かの書物に載ってしまうと、なかなか無視できない存在になってしまいます。

(3)方言漢字の存在

ある地域でしか使われない漢字があります。

(4)異体字の存在



漢字には正字のほかに、俗字、誤字、譌か字(間違った字)などと称する異体字があり、それらを取り上げていくと膨大なものになります。

(5)忘れられた個人や地名の漢字がある

(6)見慣れないものは変に見える

最後に大前提を述べておきましょう。それは「見慣れないものは奇妙に見える」という単純な事実です。考えてみたら、漢字のことをまったく知らない人々から見たら、すべての漢字は奇怪で不気味に見えるに違いありません。奇妙とか珍しいという感覚は、ほとんどにおいては、ただの不慣れから来ているのです。