認知症の方が「急に不安になって落ち着かなくなる」のはなぜ?

前回の記事では、認知症の方が「何度も同じ質問をする」理由についてお伝えしました。

今回は、介護をしていると、

「さっきまで普通にしていたのに、急に不安そうになった」

「家族が少し離れただけで、落ち着かなくなる」

「何となくそわそわして、じっとしていられない」

そんな場面についてお話しします。


急に不安になるのには理由があります

認知症の方が急に不安そうになっていると、

「何がそんなに心配なの?」

「さっきまで大丈夫だったのに」

と思ってしまうことがありますよね。

でも、本人からすると、本当に「何か分からないこと」が起きているのかもしれません。

認知症では、記憶だけではなく、今いる場所や時間、人との関係などを理解することが難しくなる場合があります。

そのため、周囲から見ると何も変わっていないように見えても、本人の中では状況が分からなくなり、不安が強くなることがあります。


「ここはどこ?」という不安かもしれません

たとえば、自宅にいるのに、

「ここはどこ?」

「家に帰らないと」

と言うことがあります。

本人にとっては、今いる場所が自分の家だと分からなくなっているのかもしれません。
また、家族が少し別の部屋へ行っただけでも、

「どこに行ったの?」

「一人にしないで」

と不安になることがあります。

「すぐ戻ってくるよ」と伝えても、そのこと自体を覚えておくのが難しい場合があります。だから、
家族が離れるたびに不安になることもあります。


不安なときほど「説明」より「安心」が大切です

本人が不安になっているとき、

「ここは家ですよ」

「さっき説明したでしょう」

「大丈夫だから、落ち着いて」

と何度も説明したくなるかもしれません。
もちろん、説明することも必要です。
ただ、不安が強くなっているときは、言葉で正しく説明することだけでは安心できない場合があります。そんなときは、

「大丈夫ですよ」

「ここにいますよ」

「一緒にいますからね」

と、安心できる言葉をかけてみましょう。
本人の不安な気持ちを否定せず、まず受け止めることが大切です。


「何が不安なのか」を一緒に探してみる

不安そうにしているときは、本人の様子をよく見てみましょう。たとえば、

・トイレに行きたい

・喉が渇いている

・お腹が空いている

・暑い、寒い

・体のどこかが痛い

・眠い

・何かを探している

など、身体的な不快感や具体的な困りごとが隠れていることがあります。
言葉で「困っています」と伝えられなくても、落ち着かない行動として表れることがあります。

「何かしたいことがありますか?」

「トイレに行きますか?」

など、簡単な言葉で一つずつ確認してみるとよいでしょう。


環境の変化が不安につながることもあります

認知症の方は、ちょっとした環境の変化でも不安を感じることがあります。たとえば、

・家具の配置が変わった

・いつもいる人がいない

・知らない場所へ行った

・部屋が暗くなった

・テレビなどの大きな音がしている

などです。
私たちにとっては小さな変化でも、本人にとっては大きな変化になっていることがあります。
できるだけ慣れた環境や生活リズムを保つことも、安心につながります。


不安が強いときは、気分を変える方法もあります

不安の原因を探しても、なかなか落ち着かないことがあります。
そんなときは、無理に話を続けるのではなく、別のことへ気持ちを向けてみるのも一つの方法です。

「お茶を飲みませんか?」

「少し座って休みましょうか?」

「一緒にテレビを見ましょう」

など、本人が安心できることへ自然に誘ってみます。好きな音楽や、普段から親しんでいるものがある場合は、それを使うのもよいでしょう。


「不安にさせないこと」だけを目標にしなくても大丈夫です

介護をしていると、

「不安にさせないようにしなければ」

「いつも安心させてあげないと」

と思ってしまうことがあります。
でも、認知症の方の不安を毎回なくすことは、簡単ではありません。不安になることがあっても大丈夫です。そのときに、少しでも安心できるように寄り添う。それだけでも十分な支えになります。

介護する側が「全部解決しなければ」と背負いすぎないことも大切です。


急に強い不安が出てきたときは注意しましょう

いつもと比べて、急に落ち着かなくなった。

・急に不安が強くなった。

・いつもと明らかに様子が違う。

そんな場合は、認知症の進行だけではなく、体調不良や環境の変化などが関係している可能性もあります。

痛みや発熱、排泄の問題、睡眠不足、薬の変更など、何か変わったことがないか確認してみましょう。

急な変化が続く場合や、ほかにも体調面で気になる症状がある場合は、医師や介護職などに相談することをおすすめします。


最後に

認知症の方が急に不安になったとき、

「どうして急に?」

と思ってしまうことがあります。

でも、本人の中では、

「今どうなっているのか分からない」

「誰かにそばにいてほしい」

「何か困っているけれど、うまく伝えられない」

そんな気持ちになっているのかもしれません。

不安をなくそうとするよりも、

「大丈夫ですよ」

「ここにいますよ」

と安心できる関わりをしてあげる。
それだけでも、本人にとって大きな支えになることがあります。そして、介護する側も、毎回完璧に対応する必要はありません。

何度も不安を訴えられたり、そばを離れられなかったりすると、介護する側も疲れてしまいます。


「自分の対応が悪いのかな」と、自分を責めないでください。

本人の不安も大切。
そして、介護する側の心の余裕も大切です。
一人で抱え込まず、周りの人や介護サービスにも相談しながら、無理のない介護を続けていきましょう。

「本人の安心と、介護する側の心の余裕。」

どちらも大切にしていきたいですね。


次回は、

【認知症介護で知っておきたい専門知識㊿】
認知症の方が「急に怒ったり、興奮したりする」のはなぜ?についてお話しします。

「さっきまで穏やかだったのに、急に怒り出した」

「ちょっとしたことで強い口調になる」

「何とか落ち着かせようとしても、なかなか収まらない」

そんなとき、本人の中では何が起きているのでしょうか。

次回は、第50回です。

認知症介護で悩むことの多い「怒りや興奮」について、本人の気持ちと介護する側の対応を中心に、分かりやすくお伝えします。

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。