二十代の頃に一度上高地に行ったことがある。

日帰りだったので河童橋周辺だけ散策したのだけれど、山々の美しさ、梓川の清らかな流れ、空気の透明感、もう何もかもが特別なものとして深く心に刻み込まれている。

 

その後結婚して出産・育児を経て、後に大きく体調を崩した時にパニック症候群のようになり、長距離の移動不自由人になった。

その後に少しずつ回復してきて、電車にも乗れるようになったし、仕事にも行けるようになった。

時折河童橋周辺の混雑の映像を見ては、あんなに混んでるし、遠いからもう二度と行けないけど、普通に生活できるだけで十分ありがたいし、バラのお世話も楽しいし、上高地に行けなくても特に支障はないと考えていた。

 

昨年、広島に住む娘に子どもが生まれた。

長時間新幹線に乗るのは怖かったのだが、娘のそばで手伝ってあげたいと思い、フラワーエッセンスや電磁波防止グッズを駆使して、無事に行くことができた。

 

二度目に広島に行った時は、娘と婿殿の勧めで厳島神社に行った。

厳島神社の本殿で手を合わせたら、娘と孫のために何かしなければ!という激しい衝動が私を突き抜け、訳もなく涙が溢れてきた。

具体的に何をすればいいのかは全くわからなかったが、その次に厳島神社に行った時に、頂上に不思議な巨大石がある弥山に登る決意をした。

決意というのは、私は高所恐怖症でもあるのでロープウェイは恐怖だったのだが、並木さんから教わった統合の手法で、乗っている間に冷たく震える手でずっと統合をしていた。

登山は思ったよりきつかったが、山頂の眺めは素晴らしく、神の山の名に相応しい、素晴らしいエネルギーが流れていた。

そして、下りのロープウェイでは全く怖さを感じなかった。

不思議な体験である。

 

 

 

一度行けたので、その後も何度か娘の家と宮島に行くうちに、私の中に眠っていた旅に行きたい精神がむくむくと大きくなっていった。

「お母さん、直島って知ってる?」と娘が私に聞いたのをきっかけに、別の人からも直島の話を二回聞くに至り、これは直島にも行かなければ!と思うようになった。

便利な世の中になったもので、YouTubeで直島の旅紹介動画を見ていたら、上高地の動画が候補に上がってきた。

 

ああ、私の憧れの地、上高地!

 

動画は若い女性の一人旅で、夜行バスで上高地に行って河童橋近くのホテルに一泊するというもの。

バスターミナルに早朝到着し、梓川沿いを散策しながら紹介しておられた。

早朝の上高地の神々しさは格別で、夢中になって見入った。

そして、新緑の美しい明神岳が画面に映し出された時、なんとも言えない感覚になり、涙が溢れてきた。

 

上高地に行きたい!

 

急に思い立ったので、ホテルの手配や、旅の工程組みや、特急の手配や、バスの予約や、仕事の休みの調整に手間がかかったが、何とか10月に一泊で行けることになった。

熊鈴も買った。

レインウエアもトレッキングシューズも買った。

突貫工事で色々な準備をした。

あとはお天気だった。

 

出発の朝、天気は曇り。

朝6時に家を出る。

松本から高速バスに乗り、上高地へ。

少し色づき始めた木々を車窓から眺めながら、隣に乗り合わせた女性と話が弾んだ。

私は明神岳まで行くコースを想定していたが、その先の徳沢までほぼ平坦で歩いていけると彼女から聞いた。

途中で雨が降り出した。

 

上高地のバスターミナルに到着。

河童橋まで歩いていく。

お焼きとマロンパイを買って昼食とする。

雨が降っていても梓川は澄んでいて美しい。

ホテルに荷物を預けてから、河童橋周辺の散策をしよう。

ついに来た。

憧れの地、上高地。

 

だんだん雨が強くなってきたので、ホテルのチェックイン時刻まで五千尺ホテルのラウンジで休憩することにした。

雨降りで大勢が避難してどこのカフェも混み合っている。

暫く並んでから窓を眺める席に座ることができた。

シャインマスカットのショートケーキとコーヒーをいただく。

清らかな上高地の水で淹れたせいか、コーヒーがとても美味しい。

 

ザパークロッジホテルにチェックイン。

部屋はリニューアルされていて、シンプルで綺麗。

トイレはあるがバスルームはない。

大浴場に行くと、上高地の澄んだお水で沸かしたお湯はとても心地よかった。

夕食はブッフェ形式。

どのお料理もとても美味しかったが、食べ過ぎ注意(笑)

 

夜の景色を見たり、瞑想したりして時間を過ごした後に早めの就寝。

だが、午後に飲んだコーヒーのせいか、夜中に目が覚めてしまった。

なかなか寝付けない。

夜中に雨が止む予報だったが、雨垂れの音がしている。

まだ降っているの?

そう思って窓を開けると、空にはこぼれんばかりの星、星、星。

 

急いで着替えて、ホテルの懐中電灯と熊鈴を持って外へ。

外に出ると木々の向こうは暗黒の世界。

みな寝静まっている時刻なので、熊鈴を鳴らして歩くのも憚られるし、熊鈴を鳴らさずに歩くのは恐怖である。

 

というわけで、すぐに部屋に戻った。

部屋に戻って寝巻きに着替え、窓から星空を観察していたら、明るい流れ星がすーっと流れて、一際明るくなってから消えていくのが見えた。

 

明日はお天気になるかな。