【転記】「秘密保護法案」の問題点と危険性 -自由法曹団の意見書- | 矯正知力〇.六

矯正知力〇.六

メモ的ブログ

【「秘密保護法案」の問題点と危険性】・・・弁護士の団体(自由法曹団)が意見書を発表しました。すべての条文を解説し、その危険性を指摘しています。お読みください。

より部分引用。

-----------------------------------------------------

■ Part1 コンメンタール 特定秘密保護法案

しかし、ここに記述されている安全保障に関する情報の「漏えいの危険性の懸念」という点について、これを裏づける立法事実は存在しない。国家公務員法など秘密保護の刑罰法規が存在し、公務員の情報漏えいに対してはこれらの法制により十分な対応がなされている。また、軍事・防衛情報については、さらに自衛隊法、刑事特別法、MDA秘密保護法などの厳しい刑罰法規が存在している。

国家秘密法案廃案から今日まで、この国はこうした法制のもとで外交活動を含むさまざまな国際活動を展開してきた。その30年近くの間、軍事情報等の「漏えいの危険性」が現実化し、そのことによって「我が国及び国民の安全」が侵害されたことなどまったくないのである。


秘密保護法が登場したのは、「漏えいの危険性」が現実化したためでも、「我が国及び国民の安全」が危うくなったためでもなく、「このままではこれ以上米国との軍事同盟を強化できない」という理由のためである。

米国との軍事同盟の強化のために、国民の知る権利が犠牲にされてよいはずはない。日本は、軍機保護法、国防保安法、治安維持法などによる政府の情報統制によって侵略戦争に突き進んだ戦前の歴史的経験をもっている。
民主主義社会において知る権利は極めて重要な人権であり、民主主義の根幹である国民の知る権利が制限されるとき、国民は国家をコントロールできなくなり、国家は往くべき道を誤るのである。


①はいわゆる「スパイ活動」、②はいわゆる「テロ」にあたるが、いずれもきわめて抽象的で曖昧な定義であり、広狭はどのようにでも操作できる。
別表は、「防衛」「外交」に加え、こうした「特定有害活動の防止」、「テロリズムの防止」まで網羅しているのであるから、極めて広範なものにならざるを得ない。

行政機関が収集した「防衛」などにかかわる情報は、「重要な情報」と言いさえすれば、どんなものでも特定秘密にできることになる。

従って、なにが指定されるかは行政機関の長の一存で決まり、他の機関が指定の適否をチェックする方法はない。国民からすれば、行政機関がどのような特定秘密にあたる情報をもっているか、その情報がいつどのような理由で特定秘密に指定されたのか、まったくわからないことになる。
秘密指定行為そのものが秘密のヴェールに包まれているのである。


本条項は、国会に対して特定秘密を提供する場合を非常に厳格に規定し、行政機関の長の判断で国会への提供を拒むことができるとしており、国権の最高機関である国会を著しく軽視したものであることは明らかである。


国民が秘密保護法違反に問われたとき、特定秘密(にあたる情報)が法廷に提出されることはなく、「特定秘密に指定されていること」だけを「根拠」に、有罪が宣告されることになる。まさしく暗黒裁判と言うほかはない。


また、自衛隊の「情報保全隊」は、現に市民運動、労働運動等を組織的・系統的・日常的に監視し、あらゆる情報を収集・保有していることが明らかになっている。

参照→【転記】自衛隊による違憲・違法の国民監視活動を告発する

政府による国民の監視体制はすでに構築されている。適性評価制度が現実のものとなれば、政府による国民の監視が、さらに大手を振って行われることになるのである。


18条1項も「統一的な運用を図るための基準を定める」とするだけで、それを公開するとは一切規定していない。
非公開であれば、「特定秘密の指定・解除」や「適性評価の実施」がどのような基準のもとで運用されているかチェックしようがなく、実際は基準が定められていなかったとしても、その事実自体を知りようがないため、この「修正」は全く意味のないものになるのである。

仮に「基準」が公開されるとしても、その下で行政機関の長が具体的にどのような情報を「特定秘密」に指定しているのか、どのように「適性」を評価しているのかは全くのブラックボックスとなっており、いくら「有識者」の意見を反映させて「統一的な運用基準」を作成しても、行政の長による恣意的な「特定秘密」の指定や「適性評価」に対する何の歯止めにもならない。


この法案は、例え国会であろうと、政令で様々な条件を付けた上、行政機関の長の判断ひとつで特定秘密の提供を拒否できるとされ、特定秘密を独占する行政機関の暴走を国会がコントロールすることが困難な仕組みとなっている。本条は、さらに行政への「白紙委任」を認めるものであり、議院内閣制をいっそう形骸化させるものである。


この種の条文は基本的人権を侵害する弾圧立法には必ずといっていいほどつけられるが、配慮を求めるだけの「訓示規定」にすぎない上、現実にもそれが全くの飾りものにすぎないことは過去の実例が示している。
軽犯罪法にも、「この法律の適用にあたっては、国民の権利を不当に侵害しないように留意し、その本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用するようなことがあってはならない」(同4条)という規定がある。しかし、現実には同法の「はり札」の禁止を口実に、政党、市民団体、労働組合のポスター張りや宣伝活動に干渉し、立てかけた看板や宣伝活動の「のぼり」が「はり札」にあたるという異常な拡張解釈によって逮捕したり、承諾をとってポスターを貼ったにもかかわらず逮捕したりすることが繰り返されてきた。また、その逮捕をきっかけに政党や労働組合の事務所を捜索し、何の関係もない文書を大量に押収するという事態も繰り返されてきた。まさに弾圧のために軽犯罪法が濫用されてきたのである。

そもそもこうした規定をおかざるをえないこと自体が、拡張解釈の危険を自ら自認しているものと言わねばならない。「言い訳まがいの解釈規定」を置くことによって、国民の基本的人権を侵害する法律を作ろうとすること自体、許されるものではない。


「人を欺き」から「不正アクセス行為」までの行為は、それらを包括した「特定秘密を保有する者の管理を害する行為」の例示にすぎず、処罰されるのはこれらの行為に限られない。「不正アクセス行為」に、「その他の特定秘密を保有する者の管理を害する行為」が続いているのは、そのことを示している。この「その他」にどんな行為が含まれるかは、まったく不明であって基準はないに等しい。
公表されていない情報を取材し調査するには、ねばり強い訪問活動や説得などの努力が不可欠であるが、こうした通常行われている活動も「特定秘密を保有する者の管理を害する」とされれば処罰対象とされる。つまり、警察が「管理を害する」と判断すれば、様々な活動に拡大することができるのである。
いかなる行為が処罰対象とされるのかが極めて不明確な上、そもそも国民はどのような情報が「特定秘密」とされているのかも認識できないのであり、どのような言動が処罰されるのか全く予測不能である。しかも、最高懲役10年および罰金1000万円という重罰である。


刑法では犯罪が実行されて結果が発生した場合(既遂)に処罰するのが原則で、未遂の場合にはこれを処罰するという特別の規定がなければ処罰されない(刑法44条)。

これまで見た「共謀」、「教唆」、「扇動」の処罰規定は、犯罪の実行を処罰するという刑法の原則からみて、極めて異常なものである。


上記のとおり、罰則規定が刑法などに比べて異常に重くなっているなかで、なぜ「自首」による減軽・免除にかかる点だけ刑法より軽くしているのであろうか。
 それは24条の規定する「共謀、教唆、扇動」のうち、「共謀」についてだけ本条の対象としている点に端的に表れている。「共謀」した者のうち、誰かが自首すれば、それを契機として残りの者を一網打尽にできるからである。つまり「減軽・免除」は「密告のすすめ」なのである。

この「減軽・免除」の恩典は、政党、市民団体、労働組合の切り崩しに活用される危険性が高い。誰か一人に目をつけて、活動内容を洗いざらい話させて、「秘密保護法」違反を作り上げる。その本人が関与していたとしても、「自首」したから罪は「免除」。一方で「調査活動の企画がある」などとウソの自白をさせて事件のフレーム・アップ(でっちあげ)を行うことも容易である。


平和運動も弾圧の対象とされうる。例えば、自衛隊イラク派兵差止め訴訟では、弁護団はイラクでの航空自衛隊の違法、違憲の活動を立証するために、クウェートに駐留しそこを拠点としてイラク国内へ空輸活動を行っていた航空自衛隊輸送機C130Hの空輸実績を情報公開請求したが、国はすべて黒塗りにして隠した。後に開示された結果、米軍兵士と軍用物資を輸送していたことが判明し、憲法9条とイラク特措法に違反するものであったことが明らかとなったが、特定秘密と指定されれば、こうした弁護団による情報収集活動自体も、「管理を害する取得」の「共謀」や漏えいの「扇動」とされかねない。


例えば、陸上自衛隊情報保全隊が2003年から2004年にかけてイラクへの自衛隊派兵に反対する国民の行動を組織的に監視し、個人の情報を収集していたことが自衛隊の内部文書により発覚し、2012年3月26日、仙台地裁は5名の監視行為を違法として国に慰謝料の支払を命じた事件がある。イラク派兵に反対する国民の行動を、自衛隊が特定有害活動の防止のために監視しているのだとして、監視行動を特定秘密に指定すれば、内部告発者のみならず、どのような監視を行っていたのかを追及する者も処罰されるおそれがある。その結果、行政機関による違法な情報収集活動を告発することが著しく困難となる。


テロ対策の名の下に行政機関(多くは警察、公安調査庁、自衛隊)が行うあらゆる活動及びその結果収集された情報が特定秘密として隠されるおそれがある。
例えば、公安警察は、日本共産党について暴力主義的活動を行う団体であると決めつけ、これを監視対象として盗聴等の違法行為を行っており、裁判所においても組織的に行われた違法行為であることが認定されている(緒方宅盗聴事件・東京高裁平成9年6月26日付判決)。また、警視庁のテロ捜査情報がインターネット上に流出した事件(2010年)では、日本に住むイスラム教徒を無差別にテロリスト扱いし、徹底した個人情報の収集や尾行で人権侵害を重ねていた。このような公安警察の活動自体が特定秘密とされることになり、権力犯罪を摘発することは著しく困難になる。


-----------------------------------------------------

■ 発行にあたって


ふたたび登場した「秘密法制」=秘密保護法案は
①政府機関の一存で軍事や外交にかかわる情報を特定秘密に指定し
②特定秘密の保有・取扱いや提供を厳しく制約して国会や裁判所からも秘匿し
③特定秘密の漏えいや「管理を害する方法での取得」等を重罪に処する


-----------------------------------------------------

参照
【転記】秘密保護法の危険性