ある犬のおはなし

つい、
うっかり、
また観てしまった。

これを観てしまうと、
必ず泣いてしまうから、
観ちゃいけないんだ。
そう、わかっているのに。





子どもの頃、
両親と過ごせない時期があり、
幾つかの親戚の家に預けられていた。
(たらい回しにされてた)

その一件、
祖父、祖母の家に、
ペス
という犬が居た。

ペスとは仲良しだった。
沢山散歩に行ったし、
一人で留守番していても、
ペスが居たらさみしくなかった。

ペスは吠える犬だった。
人の気配でやたらと吠えた。
私が小学校から帰ってきても、
その気配で吠えていたんだけど、
私の姿を認めると、
耳が垂れて、
尻尾をぶんぶん振っていた。
それがとても可愛く思えた。

中学生になり、
長期入院生活の父が退院し、
両親と過ごすために、
離れた土地に引っ越すことになった。

私は、
自転車で、
可能な限りペスに会いに行った。
ペスも私を忘れることはなかった。

中学二年のとき、
祖母が体調を崩し、
入院することになった。
祖父はその時既に病院にて療養していた。

祖母は身辺整理をしていた。
家財、
衣服など。

父から聞いた。

ペスは保健所に連れていくそうだ

私は反対した。

自分が面倒を見るから
そんなことはしないで欲しい

と。

父は言った。

それは無理だよ
通って世話をするのは無理だ

と。

私は祖母の家に行った。
だが、
近くに行っても、
いつもの吠える声がしない。

ペスは居なかった。

私は祖母の顔も見ずに、
走って家に帰った。

祖母は入院から二週間程で、
脳の血管が切れ、
意思表示の出来ない状態になり、
四ヶ月後に逝った。

思うと、
祖母は、
自らの死期を悟っていたのかも知れない。


孤独
の意味さえ、
その頃は知らなかったが、
子どもの頃の私は、
孤独だった。

それを支えてくれたのは、
ペスだった。


犬は人を裏切らない。
ずっと一緒に居てくれる。

それでいて、
人より早く、
命の炎が燃え尽きてしまう。

だからこそ、
最後まで看取ってやるべきだった。


あの時、
ペスを救えなかったのは、
私はが子どもだったから。

それは言い訳。


いつか、
別の世界で、
ペスに会えたなら、
心から詫びようと思う。

ずっと、
ありがとう。
そして、
ごめん。

と。


その時、
ペスは、
耳を垂らして、
尻尾を振ってくれるだろうか。