(GWの旅行記の続き)旅行10日目。この日もオストラヴァで夜にスメタナのオペラを観ますが、日中に観光を楽しめるまちはチェコではもう見当たりません…。オロモウツ、クロムニェジーシュ、ブルノと、オストラヴァから比較的近いまちはもう行ってしまったからです。

 

 

しかし、こういう状況こそ海外旅行での腕の見せどころと、逆に燃えるフランツ、笑。スロバキアのジリナにも行きましたが、オストラヴァはポーランドとの国境に近いことを逆手に取って、この日はポーランドを観光することとしました。

 

最初はポーランド南部でチェコに近いクラクフを検討しましたが、オストラヴァから行くには3時間以上かかるので断念。いろいろ検討したところ、リブニクという素晴らしい大聖堂のあるまちに行くことにしました。またしても地球の歩き方には載っていないまちです!笑

 

 

 

リブニクには、オストラヴァ → ブフーミン → リブニクと列車を乗り継いで行きますが、事前にネットで買えなかったので、オストラヴァ中央駅で切符を買うことに。すると、駅員さんが最初、このルートはどう取り扱ったら良いか分からない様子?

 

そして、ブフーミン → リブニク間の列車でも検札の駅員さんが「これはどういう切符なんだろう?」という不思議な顔をしていました?それだけ珍しい行程なんですね!そんなルートを見つけて、してやったりのフランツ笑。(駅員さんたち、驚かせてしまってゴメンナサイ!)

 

 

(写真)乗り換え時間に余裕があったので、朝食はブフーミン駅にて。駅舎から少し外に出たら、ブフーミンも雰囲気良さそうなまちでした。

 

(写真)リブニク駅の構内の案内表示。これこれ!この何番線のプラットホームかを示す“peron”というポーランド語が美味しそうな綴りで、前回のポーランド旅行(2010年にワルシャワとクラクフなどを旅行)でお気に入りだった記憶がよみがえります。

 

 

(写真)オストラヴァから1時間ちょっとでリブニク駅に到着。駅前の公園に地元の音楽家の像があっていい感じ。

 

(写真)まずは大聖堂を目指します。このように街路樹が綺麗な、整然とした一本道を進みます。

 

(写真)しばらく進むと、遠目に大聖堂が見えてきました!美しい尖塔にテンション上がります!

 

(写真)途中、これが教会???という建物に遭遇。中に入ると、祭壇はキリストと12使徒の木製の像に金の装飾と非常に印象的。使徒が飛翔してキリスト教を広めていくようなダイナミックな像でした。周りのカラフルなステンドグラスも素敵。

 

(写真)これ、ごみを利用したアート作品なのでしょうか?あるいは、最近流行のナッジの手法を利用したゴミ箱なのかも?

 

(写真)工科系の学校の印象的な壁画。コンテンポラリーアートの企画展で展示されていても全く違和感のない秀逸な作品だと感じました。

 

(写真)そしていよいよ大聖堂Basilica of St. Anthony of Paduaに到着しました!近くで見ると壮大さと美しさが調和して、めちゃめちゃ素晴らしい!

 

 

中に入ると、金の重厚な祭壇が特に素晴らしく、左右のマリアさまとキリストの同様の祭壇も本当に見事。マリアさまの祭壇には、受胎告知とマリア被昇天の木彫りの絵もあって魅了されます。

 

30面近くあるステンドグラスも美しく、両脇のキリストの受難を表す像も見応えありました。説教壇もとても立派で、ずっといたくなる空間。真摯に祈る方が何人かいらっしゃって感動的でした。

 

 

 

 

(写真)この大聖堂は建築物としても本当に見事で、その重厚さといい、建物が折り重なる様子といい、バランスといい、めちゃめちゃ素晴らしい!ブルックナー/交響曲第5番は教会に例えられることがありますが、正にブルックナー5番に通じるものを感じました。

 

 

 

(写真)大聖堂の敷地内には美しい花が咲いていました。教会に来られていた信者の方が愛でていたのもいい感じ。

 

 

 

(写真)そして大聖堂の前にはヨハネ・パウロ2世の像がありました!威厳と温かさを感じて、大いなる感動!未だに献花が絶えないところにポーランド国民のみなさまの尊敬の念を大いに感じました。像の前に広がるのはヨハネ・パウロ2世広場。

 

 

 

 

 

いや~、リブニクの大聖堂Basilica of St. Anthony of Padua、ヨハネ・パウロ2世像も含めて、めちゃめちゃ素晴らしかったです!ほとんどこの大聖堂のみを目当てにリブニクに来たようなものでしたが、それだけの価値のある大聖堂だと感じました。

 

 

 

さて、目的を果たしたので、後はまち歩きを楽しめばOKと思っていたら、リブニクというまちの素晴らしさは大聖堂だけではありませんでした!

 

 

(写真)大聖堂の前の広場から、通りを歩こうとしたら、何だか路上で何か売っています???これは一体?以下はその様子の写真です。

 

 

 

 

 

 

 

どうやら、リブニクはこのような青空市をやっているようなんです。私が訪れたのはたまたま土曜日だったので、こんなに大規模にやっていたもよう。

 

青空市で売っているものは、骨董品、絵画、おもちゃ、時計、グラス、宝飾品、本、香水、縫いぐるみ、ゲーム(モノポリーなど)、レコード、かばん、くつ、服、リボン、金細工、刺繍、プレートなど。もうありとあらゆるものを売っていて、それらを見回るのが本当に楽しい!

 

リブニクの目抜き通りにおよそ500m以上、道沿いに100店以上と大々的に出店されていた青空市は壮観でした!

 

 

 

(写真)中にはユニークな商品も。これはカエルの置物でしょうか?東京五輪でボクシングで金メダルを取った入江聖奈さんに教えてあげたいくらい笑。

 

(写真)青空市を楽しみながら、通りから眺める大聖堂がまた美しい!

 

 

 

(写真)通り沿いに現れた綺麗な広場。噴水も雰囲気あっていい感じ。リブニクはとてもセンスの良さを感じるまちでした。

 

 

 

 

 

さて、そろそろランチと行きましょう!今回の旅では、そのまちの広場のテラス席でランチ&ビールを楽しむ、というのが流れでお約束になっていますが、リブニクの場合、青空市がとても楽しいので、その様子を見渡せるテラス席のあるお店でランチを取ることにしました。

 

 

 

(写真)こんな感じで、青空市の様子がよく見える席を選択しました。

 

(写真)Browar Rybnikのピルス。苦味が心地よく、ほのかに甘味もあって美味しい!リブニクのクラフトビールなんですね。

 

(写真)プロシュートとアスパラガスのパスタとポーランドの白ワイン!がっつりポーランドの肉料理も考えましたが、ワインリストに珍しいポーランドのワインがあったのでパスタにしました。

 

ポーランドのワインはフランスの白ワインにはないタイプで、イタリアの白ワインに似た雰囲気、美味しかったです!

 

 

 

青空市で賑わう人たちの楽しげな声や風情を感じながらの屋外でのランチは最高!ゆっくり1時間くらい楽しめました。どこからともなくロドリーゴ/アランフェス協奏曲第2楽章の音楽が聞こえてきて、ノスタルジックな雰囲気に大いに浸ることができました。(続く)

 

 

 

 

 

 

 

(追伸)さて、ポーランドつながりですが、この4月から7月にかけて新国立劇場にて、ポーランドの映画監督クシシトフ・キェシロフスキ原作の演劇の舞台「デカローグ」が上演されて大きな話題となりました。

 

私は昨年、新国立劇場で上演された演劇「レオポルトシュタット」を観て大いに感動したのと、クシシトフ・キェシロフスキ監督の映画は「ふたりのベロニカ」も「トリコロール3部作」も大好きなので、デカローグ1からデカローグ10まで、全部で10の舞台を全て観に行きました。

 

 

これがめちゃめちゃ素晴らしい舞台だった!!!以下、その感想をごく簡単に。

 

 

(参考)デカローグ1~10のそれぞれのあらすじは以下をご参照ください。

https://www.nntt.jac.go.jp/play/dekalog/

※新国立劇場の公式HPより

 

 

 

4月27日(土)

 

デカローグ1 「ある運命に関する物語」

 

人生と思い出、宗教と神様、人間とコンピューター。運命に関連のたる様々なことを考えさせられる、ひっそり心を打つ物語。氷は大丈夫だと自分でOKを出したのに、息子のパヴェルがスケート中に氷が割れて亡くなったことが分かった後のクシシュトフの慟哭…。八つ当たりして、マドンナの肖像の灯りを壊しますが、最後に姉の抱擁を受けるシーンは宗教の世界だけではないマリアさまを感じて感動しました。

 

デカローグ3 「あるクリスマス・イヴに関する物語」 

 

ヤヌシュとエヴァの複雑で難しい関係、両者の感情の移ろいに惹き付けられた舞台!とにかく、千葉哲也さんの温かく正義感のあるタクシードライバー役のヤヌシュが素晴らしい!昔の恋人エヴァにさんざん振り回された挙句に商売道具の車をおしゃかにされてしまっても「楽しかった」と言い放つヤヌシュ。どんだけカッコいいか!最後、ヤヌシュが家に帰って奥さんから許しを得たと見受けられたラストシーンにもジーンとしました。

 

 

 

4月27日(土) ※この日はダブルヘッダー

 

デカローグ2 「ある選択に関する物語」

 

運命とは何と残酷なことか!しかし見終わった爽快感すら感じるのは、どのような形にせよ、子供が生まれてくる喜びが残ったからなのでしょう。NHK大河ドラマ「光る君へ」の左大臣さまが絶品だった益岡徹さんが、ここでも苦悩の院長役を務めて絶品!ドロタに夫の死を宣告する院長はまるで神の宣告のよう!その神の宣告を覆す重病のアンジェイが起こした奇跡は、人間の生命力の限りなさや希望を感じました!

 

デカローグ4 「ある父と娘に関する物語」

 

最後の方の20分間の父親と娘の緊迫感のあるやりとりが素晴らしい!父親の実の娘ではないことが分かって、一人の女性として父親に迫る娘。あくまでも父親だと言いつつ、娘に親としてではない愛情を持っていることも否定しない父親。ラストのどんでん返しの連続には、「知りたい」という人間の根源的な欲求の深さを感じました。途中に出てくる絶対に蓋が閉まらないゴミ箱が、まるでパンドラの箱のよう!

 

 

 

5月30日(木)

 

デカローグ5 「ある殺人に関する物語」

 

凍り付いた舞台!何のために殺すのかすら分かっていない軽い気持ちからの人殺し(ドストエフスキー「罪と罰」のよう)、死刑制度に反対なのに最初の裁判で死刑を避けられず苦悩を極める弁護士。死刑執行シーンの粛々淡々と進む感じが本当に怖かった…。一方、デカローグ2で死にそうだったアンジェイが元気になって子供が生まれる喜びを表わしていて救いを感じました。デカローグは同じマンションに住む住人のさりげない日常の物語と聞いていましたが、ここまで一つ一つの物語が本当に重い!

 

デカローグ6 「ある愛に関する物語」

 

自分の行ったおかしなことまで素直に話してしまうトメクはまるで無垢な魂のキリスト、あるいはドストエフスキー「白痴」のムイシュキン公爵のよう。そのトメクに好意を寄せられるマグダは、正に名前通りマグダラのマリアを思わせます。トメクの母親はいつもテレビの前で眠っているけど、たまに話す時は一言一言が金言なのが凄い!愛には本当にいろいろな形があることが分ります。

 

 

 

6月30日(日)

 

デカローグ7 「ある告白に関する物語」

 

どんなに影響が大きいからと言っても、そのために偽りの人生を送ると後で後悔する。そのことを説得力を持って伝える名舞台。複雑な親子の関係、それぞれに理由がある。厳しさにしか自分の存在意義を見出せない悲しい母親。冴えないけど優しい父親。困難な人生となったヴォイテクが真っ当で心洗われ、途中で詩を語るシーンも素敵。出演者の演技力がみな素晴らしく、特にラストの子役の子の表情が見事!

 

デカローグ8 「ある過去に関する物語」

 

静かながら心を打つ名作!主に教授ゾフィアと大学教員エルジュビェタの2人の女性による対話劇ですが、そのやりとりの一つ一つが何と深いことか!宗教や神のことは否定していたゾフィアが、ラストシーンでエルジュビェタを温かく見守る様子は、まるでマリアさまのよう。

 

エルジュビェタから真相を知って、ゾフィアはその時はそうするしかない状況だったのに、自分の過ちを素直に認める姿勢が本当に素敵。歳を重ねて経験を積んできたのに、狭量でがっかりな高齢者が散見される中、ゾフィアの真摯で寛容な姿勢には本当に心洗われました。

 

 

 

7月7日(日)

 

デカローグ9 「ある孤独に関する物語」

 

悲しい展開ですが、最後に救いを感じられる素晴らしい物語!ロマンとハンカがどれだけお互いのことを愛していることか!ロマンが盗聴したり、隠れて部屋にいたのは決して覗き見や追求でなく、やるせなさや孤独感、どうしようもない気持ちからだと感じました。ロマン役とハンカ役の役者さんが素晴らしい!心臓病の手術をする女性も光っていました。流れるような演出も見事でした!

 

デカローグ10 「ある希望に関する物語」

 

ここまで9つの舞台を観てきましたが、最後に人生の悲喜交々を示した、素敵なプレゼントのような舞台!父親の残した価値ある切手はなくなってしまったけど、残された兄弟愛は一生。兄弟で得意分野がそれぞれ違うのもいい感じ。途中、目的がお金から、親父の果たせなかった夢を追いかけることに変わっていったのが本当に痛快でした。

 

ラストシーンの前に今回の10の物語の舞台となったマンションが背景に大きく写されたシーンには、(罪はもちろん犯しちゃダメですが)小さなものも含めて、ついつい罪を犯してしまう人間たちが置かれた厳しい生活や人生、運命。そして、そんな人間たちに対する温かい目線、人間讃歌を感じました。

 

 

 

 

 

以上、デカローグ1~10を全て観て、大いなる感動、そして達成感を得ました!旧約聖書のモーセの十戒がテーマの演劇ですが、十戒があっても、それがいけないことが分っていても、人間とは大なり小なり罪を犯してしまう弱い存在。そこへの戒めとともに、そんな人間への温かい眼差しや希望もほんのり加えられていて、とても素敵な舞台だと感じました。

 

 

そしてこの画期的で見事な出来映えの舞台を繰り返し観ながら実感したのは、新国立劇場で最も「国立劇場らしい上演」をしているのは、実はこの演劇部門ではないか?ということ。

 

もちろん、オペラ部門もバレエ部門も素晴らしい上演があることは知っていますが、昨年のレオポルトシュタットのように知られざる傑作の演劇だったり、今回のデカローグのような大型の企画の演劇だったり、リスクがあって民間ベースではなかなか上演できないような優れた舞台を上演、敢行してくれるところに、国立劇場としての矜持や存在感を大いに感じたところです。

 

(さらに私が観に行った回は毎回満席で、個人的に国立劇場の場合は必ずしもそこが最も重視されるべきポイントとは思いませんが、集客面でも成功していると感じました。)

 

 

最後に素晴らしかった俳優さんたちを始め、このデカローグに携わられた全ての方々に大きな拍手を!特に今回の企画を立てられて、5作品の演出も手掛けられた新国立劇場の演劇部門の小川絵梨子芸術監督には最大限の拍手を送らせていただきます!最高の企画の演劇を本当にありがとうございました!