トゥーゲンハート邸を始めブルノのまちを楽しんだ後は、オストラヴァに戻ってスメタナのオペラを観に行きました。「二人のやもめ」「口づけ」に続くスメタナの楽しいオペラ「秘密」です!
National Moravian-Silesian Theatre
Bedřich Smetana
THE SECRET
(Antonín Dvořák Theatre)
Conductor: Jakub Klecker
Stage director: Tomáš Studený
Set designer: David Janošek
Costume designer: Eva Jiřikovská
Motion cooperation: Ladislava Košíková
Chorus master: Jurij Galatenko
Dramaturg: Juraj Bajús, Eva Františáková
Malina, a councillor: Jiří Přibyl
Kalina, a councillor: Martin Bárta
Panna Róza, Malina's sister: Lucie Hilscherová
Blaženka, Malina's daughter: Jana Sibera
Vít, a huntsman, Kalina's son: Richard Samek
Bonifác, veteran soldier: Josef Kovačič
Skřivánek, a singer: Vít Šantora
An entrepreneur: Roman Vlkovič
The innkeeper: Nikola Novotná
Jirka, a bell-ringer: Petr Němec
The Ghost of Barnabáš: Petr Urbánek
Bagpipe player: Jiří Dvořák
National Moravian-Silesian Theatre’s opera chorus & orchestra and ballet
(写真)本公演のパンフレット。妖しい雰囲気の花々が印象的なデザイン。
(写真)モラヴィア・シレジア国立劇場
スメタナ/秘密は過去に一度観たことがあります。
フランツ、なぜスメタナのこんなレアなオペラを観ている!笑
はい、笑。実は2006年末にプラハを訪れた時に、たまたま観ることができたんです。
ただし、この時の本命はスメタナのもう一つのオペラ「リブシェ」。チェコの伝説の王妃リブシェが主人公の特別なオペラで、2007年の元旦1月1日にプラハ国民劇場で観ました。チェコでも特別な機会にしか上演されないので、それを狙って観に行ったんです。心の底からの感動!
しかし、その数日前に観た「秘密」の方は、当時は音源がなく予習できなかったこともあり、何だか楽しげなオペラを観たな~という感想に留まりました。今回はバッチリ準備しての観劇、とても楽しみです。
「秘密」のあらすじをごく簡単に。市会議員のカリナはライバルの市会議員マリナの妹ローザにかつて求婚しましたが、貧しさを理由に断られてしまいました…。そのことを見返すべく、マリナの家のそばに住居を構えるほど裕福になったカリナですが、実は多額の借金を抱えているのでした。
カリナは宝物のありかを記したバルナバ修道士の手紙を頼って、穴を掘り始めます。そして、遂にカリナが掘り当てたものは…、一体なんでしょうか?
第1幕。冒頭、序曲の前に、カリナがローザに花束を捧げるも、拒否されて花束を投げ捨てる…という演技が付きました。その花束を修道士バルナバが拾って手紙を忍ばせるという、このオペラの鍵となる逸話があざやかに披露されます。とても自然で分かりやすい演出!
序曲は切なさも感じる不思議な和声の、これからどんな展開になるんだろう?と興味を引く導入。その途中、幕にライトでハートが写し出されますが、明かりが印影となり、愛のうつろいを表します。しかし、ライトが消えることはなかったので、愛はしっかり残っていることも表していたと感じました。
幕が開くと、民衆が昔ながらの民族衣装での収穫祭のシーン。素晴らしい!カンコココという木のリズムが入ってめっちゃ雰囲気あります!民族衣装や民族舞踊が美しく、ほとんどこれだけで満足できるレベル!
そして酒場でのカリナとマリナの諍いのシーンに。ドキッとしますが、きっといつものことなんですね…。そこに歌手のスクリヴァネクが上手く両者とローザの昔のいきさつを含めて歌を歌って民衆から喝采を浴びます!
この歌手の歌にスメタナが何と素敵な音楽を付けていることか!昔のことを持ち出されて、カリナ、マリナ、ローザは歌をやめろ!といいますが、民衆は続けろ!と囃し立てます。
マリナの和解を拒むカリナ。ローザが修道士バルナバの手紙のことを歌いますが、秘密の事柄なのに、人から人へと次々伝えられて、すぐにみんなの知るところとなるのが楽しい!また修道士バルナバに言及する時には、みんな十字を切るポーズを入れて信心深さを感じます。
この時点では、ヴィットとブラジェンカの恋こそが秘密。若い2人の真っ直ぐな歌が本当に心地良い。第1幕途中の酒場のマスターの歌も、その真面目な性格が良く分かる全音階の歌が良かったです。
第2幕。冒頭のカリナが自分の境遇を嘆く歌に魅了されます。かつてはお金がなくローザに振られたカリナ。虚勢を張って、マリナの家の近くに住むようにまでなったものの、今もお金と借金に苦しめられているんですね…。
村のみんなが集まって宗教行事のシーン。そこに修道士バルナバが登場して死者たちを甦らせますが、民衆がマリアさまの歌を歌うと、死者たちは静かに墓に返っていきます。さりげなく感動するシーン!
そんなみんなの宗教行事をよそに、若い恋人のヴィットとブラジェンカは2人だけの時間を謳歌しますが、遂にみんなに見つかってしまいます!ロッシーニばりの軽やかな歌で、犬猿の仲の両家の子息なのに、付き合うとは一体どういうことか!と責められる2人…。
それにひるまずに、ヴィットは立派にブラジェンカへの愛を大勢の前で告白します!それに心を動かされて引き続く民衆による感動的な合唱!周りのみんなが胸に帽子を当てたり、祈りのポーズを取ったり、感動の歌のシーンをさらに盛り上げる演出がもう最高!私も涙涙…。
しかし、そこは折り合いの悪い両親のカリナとマリナ。2人は引き離されてしまいます…。最後はいよいよこの境遇を打開するために、宝探しを決心したカリナが穴を掘って地面に入っていって第2幕が終わりました。
第3幕。ブラジェンカの当てつけの悲しい歌。マリナ、ローザ、マスターがそれぞれの思いを早口言葉で歌うのは楽しいですが、英語の字幕があっという間に替わっていってキャッチアップできなくて厳し~い!笑
ヴィットがまたしても立派な歌!それに乗じて退役軍人ボニファクもローザに告白しますがあっさり袖にされます。ボニファク、本当に嫌な奴なので、むべなるかな、という感じですが、それでもフォローする歌手スクリヴァネクがまたしてもいい役どころ。
そこに床下から音がして、みな悪魔が来た!とか大騒ぎになりますが、マリナの家の暖炉から出てきたのは、何と宝を探すために穴を掘って暖炉に行き着いたカリナでした!
つまり、カリナが探していた宝物とはローザのことだったんですね〜!そのことを教えられたカリナはローザに愛を告白して、ローザも喜んでこれを受けます。
(写真)スメタナ/秘密の第3幕の舞台。暖炉から出てきたカリナ(左)とローザ。修道士バルナバの手紙にあった宝物とは、ローザのことでした。
※モラヴィア・シレジア国立劇場で配布されていた絵葉書より
最後はマリナが若い2人のことも認めて、カリナとローザ、ヴィットとブラジェンカの2組のカップルができてハッピーエンド!幸せなエンディングに、観客総立ちとなって大盛り上がりでした!
いや~、スメタナのレアなオペラ「秘密」、素晴らしい舞台でした!またしてもスメタナの音楽が最高!そして民族衣装だったり、演技だったり、雰囲気たっぷりの舞台も楽しかった!
さらには、私がこのオペラの魅力として特に感じるのは、そのストーリーの素晴らしさです。
つまり、幸せは身近なところにある。すぐに気付けないこともあるけど、結果的に身近なところで幸せを掴んだり、見出したりするのは良くあること。これは一つの確かな教訓なんだと思います。
このことから、私が思い出したのは、2019年にフランクフルトで観た、フランツ・シュレーカーのオペラ「はるかなる響き」。主人公フリッツが長年かけて世界を周わって探し求めた「はるかなる響き」とは、故郷の恋人のグレーテのことだったという物語。
傑出していたダミアーノ・ミキエレットさんの演出も含めて、そのストーリーや示唆に大いに共感したところですが、スメタナ/秘密にも相通じるものを感じたところです。
(参考)2019.5.4 フランツ・シュレーカー/はるかなる響き(フランクフルト歌劇場)
https://ameblo.jp/franz2013/entry-12491498112.html
なお、このオペラは宗教行事のシーンだったり子役が沢山出てきますが、一番小さい5歳くらいの女の子が活躍していて、まるでサウンド・オブ・ミュージックのグレーテル的な存在。カーテンコールでバルナバ役の方が出てきたら手を振ったり(もしかしてお父さん?笑)、舞台の上なのにリンゴをかじったり、何をしでかすか分らない自然児っぷりが面白かったです!笑
満員の観客でしたが、子供たちも沢山観に来ていました。スメタナのバッジを付けたおしゃまな女の子が記念撮影をしていて、ほっこりしました。チェコのみなさんはスメタナの素敵なオペラがあっていいですね!
(追伸)ということで、チェコでスメタナのオペラを楽しんで来た記事が続いていますが、一昨日7月9日(火)は仕事を早めに切り上げて群馬県の高崎芸術劇場に行って、ペトル・ポペルカ/プラハ放送交響楽団のスメタナ/連作交響詩「わが祖国」(全曲)のコンサートを聴いてきました。
これがめちゃめちゃ楽しかった!ポペルカさんの指揮はかなり抑揚やアクセントを付けて、それにオケがしっかり応えて、聴き応え抜群の素晴らしい演奏でした!特にスメタナの音楽の特徴の一つのピッコロが鳴りまくって、「わが祖国って、ピッコロ協奏曲だったのか!笑」と思ってしまうくらい。
既に旅行記に書いたように、プラハでヴィシェフラト→ヴルタヴァ川→ディヴォカー・シャールカと巡って来たので、曲をより良くイメージできて、とても感慨深かったです。私のスメタナ生誕200周年はまだまだ続きます!
(写真)何と高崎駅が7月の1ヶ月期間限定で、「ぐんまちゃん駅」になっていました!ぐんまちゃん活動30周年と高崎駅開業140周年の特別企画だそうです。今年はスメタナ生誕200周年だけではなかったんだ!笑