(GWの旅行記の続き)今回のウィーン滞在で私が狙っていた公演は、今年が生誕150周年のアーノルト・シェーンベルク/13日の金曜日です!凝った新演出公演の多いアン・デア・ウィーン劇場の中でも、おそらく今シーズンのハイライトの公演。とても楽しみです!
Theater an der Wien
Ein Abend für Arnold Schönberg
von Johannes Erath und Michael Boder
FREITAG, DER DERIZEHNTE
(REAKTOR)
Musikalische Leitung: Anna Sushon
Konzept: Michael Boder
Konzept, Inszenierung und Licht: Johannes Erath
Bühne: Herbert Barz-Murauer
Kostüm: Noëlle Blancpain
Video: Bibi Abel
Dramaturgie: Anna Melcher, Christian Schröder
Christine Schäfer
Magdalena Anna Hofmann
Klangforum Wien
Arnold Schoenberg Chor
(写真)本公演の終わりの方の一場面。月に憑かれたピエロが白黒の2人登場し、ピアノを巡って対峙するシーン。
※本公演のパンフレットより
(写真)本公演の会場はナッシュマルクトそばのアン・デア・ウィーンの本劇場でなくREAKTOR。地下鉄U6のAlser Straße駅の近くです。倉庫跡のような空間を上手く使ってユニークな舞台が展開されました。会場のサインは下の写真のみ。知らなければ絶対に分りません笑。
ええっ!?フランツさん、シェーンベルクに「13日の金曜日」という作品があるんですか?シェーンベルクのオペラって、「モーゼとアロン」や「期待」など限られるのでは?
ですよね~。実はこの「13日の金曜日」はシェーンベルク生誕150周年を記念して、指揮者のミヒャエル・ボーダーさんらによって特別に創作された舞台なんです。
(なお、そのミヒャエル・ボーダーさんは本公演を前に、何と4月7日にお亡くなりになってしまいました…。ここに哀悼の意を捧げます。)
音楽はシェーンベルクのいろいろな作品を使って、マティルデ(シェーンベルクの妻)やピエロなどが登場して、シェーンベルクにまつわる象徴的な舞台が展開される、とてもユニークな舞台なんです。
「13日の金曜日」のタイトルの意味ですが、シェーンベルクが12音音楽を作ったこと、そして、その音楽が醸し出す独特な雰囲気を踏まえてのものだと思われます。
公演のHPには、12音音楽を作り出したシェーンベルクが、13恐怖症(トリスカイデカフォビア。西洋で13という数字が避けられること。)だったかどうか検証しましょう、とユーモアたっぷりに説明されていました笑。
そして、HPにはさらに以下の注意書きが…。
「13日の金曜日は臨場感あふれる劇場体験ですのでご了承ください。 REAKTOR会場内のさまざまな部屋が使用され、観客はパフォーマンス中にそこを探索します。そのため、ご利用いただける座席数には限りがございます。」
これっ、一体どういうことなんだろう?公演会場が一つでないの?「臨場感あふれる」って、NYのミュージカル「ブルーマン」のように、観客が生贄になっていじられるのか?笑 ギャー!ドイツ語で話しかけられたらどうしよう?とか、面白おかしく想像を膨らませながら観に行きました。
そして、見終った感想は?いや~!凄い!何という象徴的で雰囲気抜群の舞台!シェーンベルクの音楽に合わせて、いろいろな歌やパフォーマンスが繰り広げられて、存分に楽しめた公演でした!以下、主な感想です。
◯大きさの異なる3つの部屋を行ったり来たりしてシュールで幻想的な物語が進行します。①小物のセットのある演劇中心の部屋、②大きなスクリーンと客席があり、客席で合唱団がパフォーマンスをする部屋、③一番広くて部屋の中央に30mくらいの細長い舞台があり、その端にオーケストラが位置して、舞台でパフォーマンスが展開される部屋、の3つです。
①→②→③→②→③→…のように展開されて、観客も部屋を移動しながら観て行きます。
◯曲は全てシェーンベルクで、月に憑かれたピエロ、グレの歌、モーゼとアロン、浄夜、弦楽四重奏曲第2番などが組み合わされて展開していきます。シェーンベルクの編曲した皇帝円舞曲も演奏されました。
◯かなり象徴的な舞台だったので、演出の意味を掴むのは難しかったですが、全体的にはシェーンベルクがマティルデの不倫によっていかに精神的に追い詰められて無調音楽を書くに至ったのか?そのシェーンベルクの心境を逆にマティルデに思い知らしめるような内容、と見受けました。
マグダレーナ・アンナ・ホフマンさんがマティルデ役で、クリスティーネ・シェーファーさんはピエロ役から始まり、闇だったり扇動役だったり、さまざまな役柄を演じます。
◯冒頭、緊張したマティルデがスピーチでアルバン・ベルクの150周年のお祝いに、と言い間違えて始まりましたが、その後、グレの歌のフィナーレの音楽で開幕。これがもの凄い高揚感!客席に座った歌手の方々が唱和して極めて感動的!宗教がかっていたスクリーンの映像も素晴らしかったです!
◯途中、クリスティーネ・シェーファーさんが月に憑かれたピエロを歌い始めました!シェーファーさんのピエロはシュプレッヒシュティンメも含めてめちゃめちゃ素晴らしい!私の中ではシェーファーさんとナタリー・デセイさんの2人は究極の歌役者です。
◯オケの上のスクリーンに、象徴的な映像が流されていたのもポイント。満ち欠けする月だったり、皆既日食だったり。最後はシェーンベルクの顔が大きく映し出されました。
◯オペラ「モーゼとアロン」の第2幕、黄金の仔牛の踊りの音楽が始まったら、奇怪なキャラクターたちが次々と登場。特に青いキングスライムのようなキャラの男性が、被りものを楽しそうに演じていました!私、危うくモフモフに身体をボーンとぶつけて、いたずらしそうに!笑 しかし、みな舞台中央で倒れて生贄になってしまいました…。
◯皇帝円舞曲(シェーンベルク編曲)が始まったら、音楽に合わせて、群衆(合唱団)がワルツを踊り始めました。すると、観客の中からもカップルでワルツを踊り始める人たちが!ご高齢のご夫妻が見事なワルツを披露されていました。さすがウィーン!
◯マティルデの誕生祝いとしてザッハトルテのホールが贈られましたが、そのホールをそのまま食べるシーンが出てきました。これ一回やってみたい!笑 また、重厚なザッハトルテのホールに対して、何だかお気楽にシューっとスプレーから大量のクリームを出して盛り付けていたのが印象的。
◯ピエロ役のシェーファーさんがマティルデをピアノの上に乗せて縄で引いていくシーンは、まるで映画「アンダルシアの犬」のワンシーンのよう!祝!シュルレアリスム生誕100周年!
◯最後にはマティルデもピエロになり、白のピエロと黒のピエロが交互にピアノの蓋に下敷きとなり、対峙するシーンがとても印象的。光と闇、善と悪の対比。物事には表と裏がある。あるいは勝者と敗者は簡単に逆転することを表しているかのよう。冒頭の写真でもご紹介しましたが、非常に象徴的なシーンで感動しました!
うわ~、何が何だか良く分らない場面もあったけど、また凄い舞台を観た!!!
シェーンベルク生誕150周年をお祝いする、とても刺激的な舞台!!!
こんな粋な企画をやってのけるウィーンって最高!!!
ということで、もの凄い舞台に出逢えて大いに感激しましたが、言葉で書いて伝えるのは正直困難です。1分間のダイジェストの公式動画を見つけたので、ご興味のある方はぜひご覧ください。シェーンベルクならではの音楽に合わせて、象徴的なシーンのオンパレードで、大いに魅了されます!
(参考)シェーンベルク/13日の金曜日(アン・デア・ウィーン劇場)のダイジェスト
https://www.youtube.com/watch?v=-RIOGuzh79I (1分)
※アン・デア・ウィーン劇場の公式動画より
(写真)終演後のクールダウンはオッタークリンガー。シェーンベルクの自画像の公演パンフレットとともに。ここはウィーンのビール一択ですね!ウィーンというまちの素晴らしさに乾杯!
ということで、4つの記事にまとめましたが、2日間のウィーン滞在は、またしても最高の体験となりました!ウィーンって、どうしてこんなに凄いんだろう?正に音楽の都ですね!
ところが実は…。今回の私のGWの旅行、ウィーンは最初の2日間だけで、これから先が本番なんです。しかも、この後もウィーンに負けないくらい、毎日素晴らしい公演のオンパレード!
さっそく次の記事では、クラシック音楽のコアなファンの方でも、おそらく観たことも聴いたこともないオペラが登場する予定です。観光で訪れたまちも、全て本ブログで初登場のまちばかり。私ならではのGWの旅、この後の展開をどうかお楽しみに!(続く)