(GWの旅行記の続き)今回の海外旅行の観劇のスタートは、ウィーン国立歌劇場のワーグナー/ローエングリンです。指揮はワーグナーを振って当代最高、クリスティアン・ティーレマンさんです!

 

 

 

WIENER STAATSOPER

RICHARD WAGNER

LOHENGRIN

 

Musikalische Leitung: Christian Thielemann

Inszenierung: Jossi Wieler, Sergio Morabito

Bühne & Kostüme: Anna Viebrock

Licht: Sebastian Alphons

Ko-Bühnenbildner: Torsten Köpf

 

Heinrich der Vogler: Georg Zeppenfeld

Lohengrin: David Butt Philip

Elsa von Brabant: Malin Byström

Friedrich von Telramund: Martin Gantner

Ortrud: Anja Kampe

Der Heerrufer des Königs: Attila Mokus

 

Orchester der Wiener Staatsoper

Chor der Wiener Staatsoper

Bühnenorchester der Wiener Staatsoper

Extrachor der der Wiener Staatsoper

Kinder der Opernschule der Wiener Staatsoper

Komparserie der Wiener Staatsoper

 

 

 

(写真)ウィーン国立歌劇場。昼間の光景なので、観光バスが丸かぶり笑。

 

 

(写真)本公演のパンフレット。

 

 

 

前回記事の最後に予告しましたが、初演から11年後に、ここウィーンで初めて自作のオペラを観ることができた作曲家はワーグナー、その作品はローエングリンでした。

 

 

ローエングリンを作曲した後、ワーグナーはドレスデン革命に加担したため、ドイツで指名手配となりスイスに亡命していました。なので、ワイマールでのローエングリンの初演(フランツ・リスト指揮)には立ち会えませんでした。

 

その後、ワーグナーはトリスタンとイゾルデを作曲してウィーンでの上演を検討しましたが実現せず。しかしウィーン当地で初めてローエングリンを観ることができたんです。

 

 

このためか、ウィーンはこの作品をとても大切にしています。ワーグナー生誕200周年となる2013年のウィーン・フィルのニューイヤーコンサート(フランツ・ウェルザー=メスト指揮)でも、ローエングリン/第3幕への前奏曲を取り上げていましたね。

 

 

 

 

 

さて、オペラです。第1幕。前奏曲が透明感といい後半の盛り上がりといい、めちゃめちゃ素晴らしい!バイロイトで聴くワーグナーは最高ですが、ウィーンもまた最高!

 

前奏曲ではずっとエルザが張り裂けそうな表情で、悩み苦しむ演技が付きました?そして、途中、水中のような地下から誰かが出てきたのを助けようとして断念したような動きがありました?その一部始終を背後から目撃して、どうして?という表情をするオルトルート。

 

 

前奏曲が終わると、進駐軍がまちにやってきて、住民たちを武器で脅すような演技。また、再度登場したエルザは、ずっと何かに取り憑かれたような、思い詰めたような演技です。マリン・ビストレムさんのエルザは声はややメゾ寄りかな?と感じましたが、とにかく演技の凄みが素晴らしい!

 

ローエングリン登場のシーンは、舞台が揺れてライトが明滅して、何か怪奇現象が起きているような素晴らしい効果!ローエングリンは騎士の姿で出てきますが、洞窟から出て来たように見えました。

 

 

ハインリッヒ王が歌い合唱が盛り上がる大好きな場面では、そのハインリッヒ王の歌の始まる前のオケをゆっくりたっぷり鳴らして、いよいよ感が半端ない!ティーレマンさん、さすが!もう千両役者!おなじみゲオルク・ツェッペンフェルトさんによる立派なハインリッヒ王の歌も見事!

 

ローエングリンとテルラムントの対決では、テルラムントがローエングリンに切り掛かろうとすると、心臓発作を起こして地に伏してあえなく敗北…。これまで観たローエングリンの中でも最もしょぼいテルラムントで、会場からは失笑が漏れていましたが、ローエングリンが何か不思議な力を使った印象を強く残しました。

 

 

フィナーレの音楽が大盛り上がりの場面の途中、オルトルートが出現すると、伝令やまちの人たちが大いに反応していたのが印象的。オルトルートの異教や異端が強調されていたと感じました。ウィーン国立歌劇場のオケは特にホルンとオーボエの独特な音色に大いに魅了されました!素晴らしい第1幕!

 

 

 

 

 

第2幕。私、ローエングリンでは第2幕がかなり好きですが、これが最高の第2幕!特にオルトルートをまるでモーツァルトのように軽々と歌うアニヤ・カンペさんと、ドラマをこれでもか!と盛り上げまくるティーレマンさんの指揮が最高でした!

 

冒頭からテルラムントとオルトルートの迫真のやりとり!マーティン・ガントナーさんのテルラムントも見事!ガントナーさんは2005年の新国立劇場のベックメッサー(ニュルンベルクのマイスタージンガー)から何度も観ていますが、年々スケールが大きくなって、特に眉をひそめて厳しい表情で歌う役柄が良く合います。(逆に笑ったところを見たことない笑)

 

 

オルトルートの前に現れたエルザ。第2幕のエルザは、人の良さ(軽率さ)と傲慢さが演技に良く出ていました。オルトルートに、同じ神を讃えましょう、と語りかける時の、エルザの大きく十字を切るポーズが印象的。後でまちの人たちも同じポーズを取っていました。

 

大好きな第2幕でも特に好きなエルザとオルトルートの二重唱。これが信じられないくらいにたっぷり!ティーレマンさんの指揮は今まで経験したことのないような大きな高揚感を生み出しますが、同時にそれが大いに説得力を持って聴こえてくるところが凄い!

 

 

人びとが出てくると、エルザの結婚に向けて、様々な飾り付けをして行きますが、印象的だったのが、背後でペルシャ絨毯を広げたその上から、十字架の旗を次々重ねていたシーン。宗教間の対立を思わせます。また、舞台を度々柵で仕切るのはゲットーを思わせ、様々な対立構造が持ち込まれていることが実感できる舞台です。

 

ローエングリンとエルザの結婚式の高まりをテルラムントとオルトルートがそれぞれぶち壊す、長調の盛り上がり→短調への転換の場面が最高!また、行進で既に舞台袖に去ったにも関わらず、オルトルートの問いかけにいちいち戻ってきて反論するエルザの演技には、プライドや執着心、翻っての不安や怯えを感じました。演出や演技の妙を大いに感じます。

 

 

最後にオルトルートたちの主題が大きく鳴らされる場面では、もはや勝者(胸を張るオルトルートとテルラムント)と敗者(不安に苛まれてたたずむエルザ)の逆転っぷりが強烈に印象付けられます。いや~、凄い!最高の第2幕!

 

 

 

 

 

第3幕。前奏曲がスペクタクルで聴き応え抜群!特にウィンナ・ホルンの音色に魅了されます。2013年のウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートでの演奏も素晴らしかったことを思い出しました。

 

結婚行進曲に移ると、ハインリッヒ王が指揮をして、民衆が歌う演技が付いていました。王様が歌を通じて民衆を扇動している描写なのかな?と感じたところです。

 

 

ローエングリンとエルザの寝室での場面。素直にローエングリンの胸に飛び込めないエルザ。第2幕でのテルラムントとオルトルートの言葉が引っ掛かり、遂には禁じられていたローエングリンの素性について質問をしてしまいます…。

 

一方、これに対するローエングリンの対応にも、相手の気持ちを尊重しない自分勝手な部分を感じました。このシーンでの2人の歌も演技も素晴らしかったです!途中、テルラムントが侵入しますが、ほとんど何もせずに殺されてしまいました。

 

 

間奏曲では出陣する兵士たちが舞台の左から右に走って行きます。躍動的な音楽に合って、とても見応え聴き応えのする舞台です。

 

 

そして、いよいよ素性を明かすローエングリン。このシーンは現代最高のローエングリン、クラウス・フロリアン・フォークトさんで何度も観たことがあり、その高貴で神々しいローエングリンに魅了されましたが、今回のデイヴィッド・バット・フィリップさんは神々しいというよりは悩みながら切々と語っていく感じで、とても人間らしいローエングリンの独白。こちらも味わいがありました。

 

ラストに向けて、オルトルートが雄叫びを上げるシーンのど迫力!このシーンは以前、バイエルン国立歌劇場の来日公演でのワルトラウト・マイヤーさんのオルトルートの印象が強烈に残っていますが、アニヤ・カンペさん、そのマイヤーさんと双璧で抜群の存在感がありました!

 

 

最後のシーンでは、ゴットフリートが水中から出てきました!ローエングリンと似た出立ちですが、何と言うか、顔を見せずに軟体動物のような動きで不気味な印象?

 

そして、最後は何と~!!!エルザがゴットフリートに剣を渡すと、ゴットフリートは姉であるエルザをその剣で刺して終わりました!これまでいろいろな演出でローエングリンを観ましたが、このパターンは初めて!うわ~!凍り付いたラスト!!!

 

 

 

つまり、これっ、第1幕への前奏曲の場面での演出を踏まえると、おそらくエルザが弟のゴットフリートを湖に沈めた、というオルトルートの目撃談は真実だった。実はエルザこそ悪役だった、という演出なんですね!!!(あるいは、悪役までは至らないまでも、水の中に落ちたゴットフリートを敢えて助けなかった、などの線も)

 

ローエングリンの演出では特にエルザをどのように描くかがポイントで、エルザを妄想癖のある女性に描く演出もありました。しかし、エルザを悪役として描いた演出を観たのは初めて。もうビックリしましたが、そんな複雑な立ち位置のエルザを演じ切ったマリン・ビストレムさん、本当にお見事でした!

 

 

(なお、エルザがどうしてゴットフリートを沈める(あるいは助けなかった)に至ったのか?その理由は舞台上のヒントから何となく分り、共感すらできますが、記事への掲載は控えようと思います。)

 

 

 

 

 

カーテンコールも盛り上がりました!特にクリスティアン・ティーレマンさんには万雷の拍手とブラボー!オペラが始まる前、出てきただけで歓声が飛びましたが、ティーレマンさん、ウィーンで人気ありますね~!その大胆かつ確信的な指揮、最高に素晴らしかったです!

 

 

 

 

 

ということでめちゃめちゃ感動した素晴らしい公演でしたが、この公演、実は棚ぼたで観ることのできた公演だったんです!

 

 

ええっ!?それってどういうこと?

 

 

はい。実は行きのフライトのオーストリア航空の便を当初は5月2日で取ったところ(=本公演は観れない)、何と欠便となり、5月3日に振り替えてほしいとのメールが来たんです。翌日の5月3日の「とある公演」(後日記事にする予定)の方がウィーンでの本命だったので、それが観れなくなってしまうので困りました…。

 

しかし、確認したところ、5月1日の便もあることが分りました。職場の方は、「いや~、不可抗力なので、もう1日追加でお休みしま~す(てへぺろ笑)」で切り抜け、1日早くウィーン入りできることとなったため、5月2日の本公演を観ることができたんです。超ラッキー!

 

 

いやはや、本当に何が幸いするか分りません。棚ぼたで観ることのできた公演でしたが最高!クリスティアン・ティーレマンさんの指揮は、とんでもない世界に連れて行ってくれる!アニヤ・カンペさんの全く見事なオルトルート!若手の新しい歌手に出会えたのも嬉しい!ウィーン初日、最高のローエングリンでした!(続く)