藤原歌劇団のオペラ公演、グノー/ファウストを観に行きました。砂川涼子さんのマルグリートが楽しみです!
藤原歌劇団
(東京文化会館大ホール)
グノー/ファウスト
指揮:阿部 加奈子
演出:ダヴィデ・ガラッティーニ・ライモンディ
美術・衣裳:ドメニコ・フランキ
照明:西田 俊郎
振付:伊藤 範子
ファウスト:村上 敏明
メフィストフェレス:アレッシオ・カッチャマーニ
マルグリート:砂川 涼子
ヴァランタン:岡 昭宏
シーベル:向野 由美子
ワグネル:大槻 聡之介
マルト:山川 真奈
合唱:藤原歌劇団合唱部
バレエ:NNIバレエアンサンブル
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
オペラの前に、午前中はこの日から東京都美術館で始まった、印象派 モネからアメリカへ-ウスター美術館所蔵-をさっそく観てきました。印象派の美術展なのでグノーの音楽やフランス語の歌詞と相性が良さそうなのと、同じ上野なので一石二鳥というアイデアです。
特に印象に残ったのは、アメリカの画家が印象派に影響を受けた絵画で、以下の通りです。
(写真)チャイルド・ハッサム/シルフズ・ロック、アップルドア島
※印象派展で購入した絵葉書より
昨年のブルターニュ展でモネによる似た雰囲気の絵画に魅了されましたが、この絵も非常に魅力的な絵でした。
(写真)ジョゼフ・H・グリーンウッド/リンゴ園
ウスター美術館のあるウスター(アメリカはマサチューセッツ州第2の都市)は市内にリンゴの木が沢山あるそうです。そのためか、リンゴの木の絵が3作品ありました。その中の1枚。
(写真)チャイルド・ハッサム/コロンバス大通り、雨の日
ボストン市内を描いたこの絵は、柔らかい背景の中、中央の馬車だけをくっきり描いていて、実物を見ると馬車が浮き上がっているように見えます。
(写真)ジョゼフ・H・グリーンウッド/雪どけ
冬の小川の情景ですが、明るい光のきらめきが印象的。これから春を迎える、とてもポジティブな印象を持つ素敵な絵でした。
(写真)デウィット・パーシャル/ハーミット・クリーク・キャニオン
この絵は見た瞬間にうわ~!と声を上げそうになるくらいにスケール感に心踊らされる絵。グランド・キャニオンの雄大さを大いに感じます。まばゆいばかりの光には、筆致こそ異なりますが、フェルディナント・ホドラーのアルプスの絵に通じるものを感じました。
ウスター美術館は、美術館として世界で初めてモネの《睡蓮》の連作のうち1点を購入するなど、早い時点から印象派の作品への目利きをしたそうです。それもあって、印象派の優れた絵画が多くあり、大変見応えのある企画展でした!4月7日(日)まで上野の東京都美術館で開催中です。
(写真)印象派展のお土産はサブレミシェルのヴォヤージュサブレ。印象派展とのコラボ商品で、こういう特別な商品に弱い私はイチコロでした、笑。
さて、午後からはいよいよオペラです。グノー/ファウストは、前回は2019年にロンドンでデーヴィッド・マクヴィカーさん演出の素晴らしい舞台を観ました。最後のシーンに、死したヴァランタンが登場して妹のマルグリートを守る、という感動的な演出!その後にロイヤル・オペラの来日公演もあったので、ご覧になられた方もいらっしゃるかも知れませんね。
(参考)2019.4.30 シャルル・グノー/ファウスト(ロイヤル・オペラ)
https://ameblo.jp/franz2013/entry-12465448923.html
第1幕。ファウストの後ろにはレオナルド・ダ・ヴィンチを思わせる人体や宇宙の観察記録の映像。人生を研究のみに費やして老いたことに後悔するファウストですが、ダ・ヴィンチのような歴史に名を残す人物にも起こりうる物語であることを想起させます。メフィストフェレスと契約して若さを取り戻すファウスト。
第2幕。群衆が黒い重厚な衣裳を着けて、まるでヴェルディ/ドン・カルロの舞台のよう。序曲にも旋律が出てくるヴァランタンの美しいアリアは本当に好き!「神に召されても妹を守る」のセリフが、ロイヤル・オペラの感動のフィナーレを思い出させます。ヴァランタンの歌の間、マルグリートを登場させる演出もいいですね~。
メフィストフェレスはアレッシオ・カッチャマーニさん。今回の出演者の中で群を抜く巨体で、歌も迫力があって無双していました!金の仔牛の歌が本当に見事。してやられたヴァランタンやシベールたちは、剣を十字架に見立ててメフィストフェレスを退けます。ここの聖なる合唱はさすが藤原歌劇団で迫力があって素晴らしい!しかし、十字架にも涼しい顔のメフィストフェレス、笑。
第3幕。冒頭のシベールの歌は向野由美子さんの胸のトキメキが伝わってくる素晴らしい歌!いよいよ砂川涼子さんのマルグリートが活躍するシーンです。トゥーレの王の歌をしめやかに歌った後、注目の宝石の歌。超絶技巧の難しい歌ですが、丁寧な歌唱で見事に歌いこなします!
この宝石の歌は森麻季さんの十八番です。コロラトゥーラを得意とする森麻季さんにより合った歌で、それはもう完璧に歌われますが、砂川涼子さんの歌や演技は、一度も宝石を付けたことのないマルグリートの憧れや背伸びの気持ちがよく出ていて、普段は清楚なマルグリートの人となりをよく表わしていました。役作りが本当に素晴らしい!
ファウストとマルグリート、メフィストフェレスとマルトを舞台の左右に分けて、それぞれのやりとりのシーンを照明の明滅で切り替えていた演出もスマートでとても良かったです。またメフィストフェレスがマルトを手名付けるのが上手いこと!ラストの高笑いも含めて、正にメフィスト無双の舞台です。
第4幕。最初にオルガンが聴こえてマルグリートの教会のシーンから始まる幕と記憶していましたが、今回はヴァランタン帰還のシーンからでした。マルグリートの悲しみの歌がとても良い!メフィストフェレスの揶揄する歌は憎ったらしいけど、カッチャマーニさんは本当に上手い。
メフィストフェレスの助けを得たファウストに殺されるヴァランタンは、妹のマルグリートを呪いながら死んでいきます。このシーンは何度観ても、怒りの矛先はそこじゃないだろ!と理不尽さを覚えるシーン…。収めようとした剣を十字架にしてヴァランタンを弔い、シベール本当にいい人。
そして、教会のシーンに。教会で祈るマルグリート。敬虔な修道女と思った6人が突如、魔女に変わってマルグリートに襲いかかります!天(神)と悪魔の言葉が交差するシーンは、6人の魔女の踊りも含めて見事に演出されていて見応えありました!
そしてラストはマルグリートが聖女となる瞬間を感じさせるような砂川涼子さんの魂の歌!!!突き抜ける感動!!!もう涙涙で何も見せません…。
第5幕。ワルプルギスの夜のシーンですが、ファウストとマルグリートの出会いから別れをバレエが再現します。ファウストだけでなく、理解のないまちの女性たちがマルグリートを追い詰めたことをよく視覚化していて唸りました!
伊藤範子さんのバレエの振付にはいつも魅了されます。ご自身が踊られた、2009年のR.シュトラウス/カプリッチョの月光の音楽での感動のバレエは一生忘れないことでしょう。
マルグリートを救おうとするファウスト。しかし、マルグリートはファウストに従うことはせず。すると、おやっ!?マルグリートを追い詰めたはずのまちの女性たちが出てきて、マルグリートのことを見直したような表情で取り囲みます?
すると、ラストのシーンはまるで受難の末に復活したキリストにマルグリートを見立てたような感動の演出!砂川涼子さんの清らかな歌、神々しい姿、その聖女っぷりがめちゃめちゃ素晴らしい!
そして、ファウストはメフィストフェレスにマントで捕捉されて、ファウスト第2部を予感させるラスト!昨年12月にはN響の2000回目の定期公演でマーラー8番が演奏されましたが、この後に紆余曲折を経て、ファウスト第2部の最後のシーンにつながる訳ですね。驚きの演出ですが、めちゃめちゃ感動しました!!!
(参考)2023.12.16&17 ファビオ・ルイージ/N響のマーラー8番(祝!定期公演2000回!)
https://ameblo.jp/franz2013/entry-12833087121.html
藤原歌劇団のグノー/ファウスト、センスのある演出に途中もいいなと思いましたが、特に第4幕と第5幕、砂川涼子さんの聖女っぷりに心の底から感動しました!!!カルメンのミカエラ、トゥーランドットのリューも含めて、悲しみを湛えた女性が真を貫く役柄を演じられて、砂川涼子さんは天下一品!今回もマルグリートもめちゃめちゃ素晴らしかったです!!!
(なお、いつも完成度の高い公演を楽しんでいる藤原歌劇団ですが、今回はカッチャマーニさんを除く男性陣の歌が正直厳しかったです…。コロナやインフルが流行っていて、オペラの上演には難しいタイミングだというのは十分分りますが、女性の歌手陣がこれだけ充実しているので、男性陣ももっと層を厚くして、代役も含めて考えてほしいと思いました。)
(追伸)さて、ファウストの舞台、グノーの美しい音楽を大いに楽しんだので、終演後はビストロにでも食べに行こうかな?と思い、久しぶりにレカンのブラスリーに行きました。
すると、何と!印象派展にちなんだコースがあったので、迷わずそれを頼みました。
(写真)アミューズはウスターソースを漬け込んだカヌレ。アメリカのウスターにあるウスター美術館ですが、地名の元となったイギリスのウスターがウスターソース発祥の地です。
(写真)前菜はジャガイモと自家製ロースハムのサラダ仕立て。シャンパンと合わせて。私、シャンパンを普通のグラスでいただくのも結構好きです。
(写真)魚料理は真鯛のポアレ スープ仕立て。ワインは2021年のコート・デュ・ローヌ白(マルサンヌなど)。
(写真)肉料理はウスターソースと塩麺でマリネしたローストビーフ。ワインは2020年のコート・デュ・ローヌ赤(グルナッシュなど)。さすがは万能ワインのシャトー・ヌッフ・デュ・パプを擁するローヌ赤。お肉と抜群に合いますね。
(写真)デザートはクリーム・キャニオン。上記のグランド・キャニオンの絵画にちなんだ一品です!リンゴの木が沢山あるウスターに敬意を表して、食後酒はカルヴァドス(リンゴのブランデー)にしました。クリーム・キャニオンとよく合いました!










