先週の3連休に観に行った素晴らしいオペラとは、日本とベトナムの外交関係樹立50周年を記念して新制作されたオペラ、「アニオー姫」です。日本とベトナムとつなぐ感動の物語、ベトナムと日本の音楽を基調とした魅力的な歌がてんこ盛りの、極めて感動的なオペラです!

 

 

 

日ベトナム外交関係樹立50周年記念

新作オペラ「アニオー姫」

(昭和女子大学 人見記念講堂)

 

総監督・指揮:本名 徹次

作曲:チャン・マィン・フン

演出・戯曲・作詞(日本語):大山 大輔

作詞(ベトナム語):ハー・クアン・ミン

漆画キービジュアル:安藤 彩英子

総括プロデューサー:古川 直正

 

アニオー姫:ダオ・トー・ロアン

荒木宗太郎:小堀 勇介

占い師(特別出演):ファム・カイン・ゴック

グエン王:ダオ・マック

お妃:グエン・トゥ・クイン

大臣:グエン・フイ・ドゥック

長崎奉行:斉木 健詞

家須:川越 未晴

通事:グエン・チュオン・リン

連隊長:グエン・アイン・ヴー

 

ベトナム国立交響楽団

 

 

(写真)本公演のパンフレット。「あなたは、17世紀初頭にあったベトナムのお姫様と日本の商人との愛の物語をご存知ですか」の文言に引き込まれます。

 

 

 

 

 

第1幕。冒頭からスペクタクルな映像が素晴らしい嵐の海のシーン。2013年にジェノヴァ歌劇場で観たヴェルディ/オテロの冒頭を思い出します。南シナ海の大しけの海に朱印船の船長として毅然として振る舞う荒木宗太郎役の小堀勇介さんが素晴らしい!

 

嵐が収まると、朱印船の一行は漂流している小舟を見つけて助けますが、乗っていたのは何とダンチョン(江戸時代のベトナム)の子供たち4人のみ!お粥を上げると元気になり、「アリガト!」のお礼のやりとりが微笑ましい。

 

 

 

第2幕。ダンチョンの国王が娘の玉華姫(後のアニオー姫)を外国に嫁がせて良いかどうか、悩める胸中を臣下に歌います。公演パンフレットに書いてありましたが、ベトナム語でオペラを歌うのって、本当に難しそう。というのも、ベトナム語は中国語の4声よりも多い6声の声調(イントネーション)で、口を閉じて話す言葉もあるからです。

 

 

江戸時代に日本人街もあったホイアンの港では、宗太郎はダンチョンの人たちにモテモテ、笑。そこに暴れ像がやってきます!象のアニメが怖いようで可愛い!元武士でダンチョンの人たちに剣術を教える宗太郎も、暴れ像には為す術なく、踏みつけられてしまいそうなピンチ!

 

しかし、そこに謎の女性が現われて笛を吹き、暴れ像を一発で静めます。難を逃れた宗太郎。その謎の女性は、騒ぎで倒れた占い師の女性を助け起こしますが、その占い師はお礼に花占いをします。

 

その占い師の歌が、「自分の道を信じて進んで!」という趣旨の、極めて感動的なアリア!まるで、ミュージカル/サウンド・オブ・ミュージックの修道院長の「自分の山に登れ!」のような盛り上がり!特別出演のファム・カイン・ゴックさんの素晴らしい歌に、もう涙でボロボロ…。

 

 

宗太郎は助けてもらったお礼に、謎の女性を小舟で家まで送ります。背景が満天の夜空のロマンティックな雰囲気の中、2人は打ち解けて語らいます。2人の美しい2重唱「星影の舟」が極めて感動的!

 

謎の女性の正体はダンチョンの王女、玉華姫でした。そして宗太郎は実は国王に呼ばれていて、何と玉華姫とお見合いをすることになっているのでした!何という奇遇!そして、玉華姫は見ず知らずの男性とのお見合いは嫌だけど、宗太郎となら喜んで、とめでたく結ばれました。

 

 

第2幕のラストは2人の結婚式。玉華姫の母親の王妃は、また小舟に乗るような無茶をしちゃダメよとアドバイス。子供の頃の宗太郎との秘密だったのに、玉華姫のお母さま知ってたの?、あらまあ!のポーズが可笑しい!笑 最後は大勢の人たちに見送られる中、朱印船で日本に向かうシーンで大いに盛り上がりました!

 

 

 

第3幕。長崎に嫁いできた玉華姫。見るもの全てが目新しく、宗太郎に話しかける「アイン、オーイ!」(愛するあなた)を連発します。これが長崎での「アニオーさん」という愛称になったんですね~。アニオー姫の誕生です。

 

子供も生まれて、長崎の人たちから親しまれるアニオー姫。歌ってほしいとリクエストされてのベトナムの民族楽器に合わせての「一弦琴のアリア」にまた涙…。ダオ・トー・ロアンさんは明るく元気なアニオー姫を歌も演技も見事に演じていました。

 

 

長崎奉行に急に呼び出された宗太郎。悲しいかな、幕府の方針で鎖国を告げられ、再びダンチョンに行くことができなくなってしまいました…。2人の「滅私奉公」「是非も無し」の言葉が哀れ…。

 

宗太郎はダンチョンの国王に孫の顔を見せることができないと悲しみますが、その後の宗太郎の挫けない前向きなアリア「独り海に揺らぐ国」には大いに感動しました!小堀勇介さん、さすが日本のプリモ・ハイ・テノール!

 

 

 

第4幕。年月が過ぎ、宗太郎は死の時を迎えます。宗太郎とアニオー姫の別れのシーンが泣ける…。その後にはハミングの合唱が展開されます。これって、同じ長崎が舞台のプッチーニ/蝶々夫人のハミングコーラスへのオマージュですね?何という粋な舞台!

 

アニオー姫と娘の家須の二重唱も素敵。アニオー姫の死のシーンは、なれそめと同じ満天の星空の下、家須に見送られながら、アニオー姫は宗太郎のもとへと旅立って行きました。とても美しいシーン。

 

 

ああ、一人残された娘が不憫…と思いきや、家須は、二人を出会いをお祭りにして語り継ごうと、未来を切り拓くような感動的な歌!家須役の川越末晴さんの歌には前向きなたくましさを感じました!

 

朱印船が出てきて、その祭りである「長崎くんち」の場面に。最後は登場人物みんなが出てきて合唱で盛り上がって大団円!めちゃめちゃ感動しました!ブラボー!!!

 

 

 

 

 

いやはや、新作オペラということで、観ることさえできればそれでOKくらいの心持ちで観に行きましたが、めちゃめちゃ良かったです!物語自体とても感動的ですが、何よりも音楽が歌が本当に素晴らしい!現代のオペラでここまで心を打つ音楽の作品は初めてかも知れません。

 

このオペラは必ずや今後も上演されていくと思います。10年後、20年後…の60周年、70周年…の機会にぜひ再演してほしい。そのアニオー姫の輿入れの朱印船の登場する「長崎くんち」も見に行ってみたいです。7年に一度登場するそうなので、次は2030年でしょうか?とても楽しみです!

 

 

 

 

 

 

 

さて、私はどうしてここまで、このオペラに感動したのでしょう?それは、作品や出演者が抜群で、関係者の意欲と熱意がヒシヒシと伝わってきた記念の舞台はもちろんですが、私は以前、仕事でベトナムに関わったことがあるからです。

 

ベトナム人の方と頻繁にやりとりして、ベトナム現地へも何度か出張して、すっかりベトナムのファンになりました。特に現地の素朴で温かい人びと、美味しいベトナム料理、発展していくまちのエネルギーに満ちた雰囲気が大好きでした。カウンターパートのベトナム人の方が東京に来た時には、能の舞台を案内したこともあります。

 

 

(なお、海外出張は単に誰かのアレンジに乗っかって付いていくとかでなく、ロジからサブまで全て自分で一から組み立てて、さらに出張時は上司、果てはトップと一緒だったので、めちゃめちゃ大変でしたが…、おかげでかなり鍛えられました。そこで培われたスキルやノウハウは、プライベートの海外旅行で大いに役立っています、笑。)

 

 

 

私くらいの年代だと、フランシス・コッポラ監督の映画「地獄の黙示録」のインパクトもあって、ベトナムというとアメリカと戦争して勝った国、というイメージが強いのかも知れません?

 

しかし、ベトナムの歴史は1,000年以上の長い年月に渡る中国との戦いの歴史です。ハノイのタンロン水上人形劇場(とてもお勧め!)で観た、明を退けたベトナム独立の英雄レ・ロイが、ホアンキエム湖の金の亀に宝剣を返す伝説のシーンは極めて感動的でした。

 

 

 

日本とベトナムの歴史の中で一つご紹介したいのが、「ドンズー運動」。これは1900年代のベトナムで、フランスからの民族独立運動の一環で、人材育成のためにベトナムから日本に留学生を派遣した活動です。しかし、日本とフランスが協約を結び、ベトナム人の留学生たちは国外追放となってしまったのでした…。

 

そんな不幸な歴史を乗り越えて、ベトナムは近年再び日本に学ぼうと、日本のシステムを積極的に取り入れています。裏切られた過去があるにも関わらず、再び日本をお手本として学んでくれるベトナム。私たち日本人はベトナムのことを大切にしなければなりません。

 

 

個人的には、コンビニにベトナム人の店員さんがよくいるので、お店が空いている時は「いつもありがとう!」と声を掛けたり、ケアするようにしています。日本に東京に働きに来て良かった。そんな風に思ってもらえたら嬉しい。

 

 

 

以上、日ベトナム外交関係樹立50周年記念新作オペラ「アニオー姫」と、私のベトナムへの想いの記事でした!

 

 

 

 

 

 

 

(写真)オペラの記念に配られた美味しそうなハオハオ・トムチュアカイ味(ベトナムのインスタント麺)。今度、休日のランチで食べてみよう。ベトナム現地で楽しんだ美味しいフォーや焼き春巻もまた食べてみたいですね~。いつの日か、ホイアン、フエ、ニャチャン、ダナンなど、いろいろなまちに行ってみたい。