(夏の旅行記の続き)日本でほとんど上演のない珍しいオペレッタ作曲家。それはロベルト・シュトルツです!行進曲が賑やかなオペレッタ「春のパレード」を観に行きました!

 

 

BÜHNE BADEN

(Sommerarena)

Robert Stolz/FRÜHJAHRSPARADE

 

Musikalische Leitung: Michael Zehetner

Dirigent: Victor Petrov

Inszenierung: Michael Lakner

Bühne: Erich Uiberlacker

Kostüme: Friederike Friedrich

Choreografie: Anna Vita

 

Hansi Gruber, Sängerin: Miriam Portmann

Marika: Verena Barth-Jurca

Gustl von Laudegg, Oberleutnant: Clemens Kerschbaumer

Willi Sedlmaier, Korporal: Ricardo Frenzel Baudisch

Therese Hübner, Bäckermeisterin: Kerstin Grotrian

Hofrat Arthur Neuwirth: Oliver Baier

Fritz, Bäckerlehrling: Jonas Zeiler

Friedrich Pankratius von Laudegg, Oberhofmeister: Roman Frankl

Klothilde von Laudegg, seine Gattin: Gerald Pichowetz

Swoboda, Friseur / Ketterl, Kammerdiener: Beppo Binder

Der Kaiser: Günter Tolar

Mittermeier, Feldwebel: Mario Fancovic

Schmiedl/Wirt/Lakai: Branimir Agovi

Losverkäufer/Erster geheimer Staatspolizist: Daniel Greabu

 

Orchester, Chor und Ballett der Bühne Baden

 

 

(写真)本公演のパンフレット。主人公マリカ(右)と、おばのテレーゼ。ウィーンで逞しく生きていく2人。

 

 

(参考)ロベルト・シュトルツ/春のパレードのダイジェスト。私が観てきたバーデン市立劇場の公演です。冒頭の音楽が、劇中でヴィリが作曲するテーマ曲。この1分間の動画だけで、どれだけ楽しい舞台だったのか、きっと感じていただけると思います。

https://www.youtube.com/watch?v=vmk_UnSbc64 (1分)

※バーデン市立劇場の公式動画より

 

 

 

 

 

ロベルト・シュトルツ(1880-1975)!オペレッタの作曲家(オーストリア)として名前はたまに見かけ、「21世紀のヨハン・シュトラウス」とも称されているようですが、日本ではオペレッタの上演のほとんどない、私にとって謎の作曲家でした。今回、初めて観る機会を得ることができ、めちゃめちゃ楽しみです!

 

 

 

(写真)バーデンの中心ハウプト広場のペスト塔と市庁舎。この広場に来るたびに、寒くて凍りそうになった大晦日にクリスマス・マーケットでいただいたグリューワインの温かさに救われたこと思い出します。

 

(参考)2019.12.31 フランツ・フォン・スッペ/ファティニッツァ(バーデン市立劇場)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12575443544.html

 

 

(写真)まち中でぶどうの実がなっているのを見つけました!この辺りはワインの産地で有名です。

 

(写真)まちの各所で公演ポスターを見かけます。

 

(写真)今回ゾマーアレーナのあるクーアパークでは、自然をテーマとした写真展をやっていました。特にこの迫力満点なペリカンの写真が印象的。

 

(写真)クーアパークにあるランナー&シュトラウスの像。以前にドイツのワイマールに行った時、ドイツ文学と精神を伝えるゲーテ&シラーの像を見て大いに感動しましたが、このウィンナ・ワルツの魅力や粋を伝える2人の像も胸熱ものです。

 

(写真)ゾマーアレーナ近くにある綺麗な花時計。オーストリアはどこも花が豊かに植えられて飾ってあって、本当にロマンティック。

 

(写真)オペレッタの会場のゾマーアレーナ。屋根が開いて開放的な空間でオペレッタを楽しめますが、今回は2晩とも閉まっていました。お天気が微妙だったこともありますが、おそらく気温が低いのが理由と思われます。この日のウィーンは最低気温11℃、バーデンはもうちょい低いかと…。

 

 

 

 

 

春のパレードのあらすじをごく簡単に。パン屋さんを営むおばのテレーゼを頼って、ハンガリーからウィーンにやってきた明るく元気なマリカ。ウィーンで最初に出逢った男性が運命の人になると占いが出ますが、軍楽隊の作曲家ヴィリと出逢って恋に落ちます。

 

ヴィリの作曲した行進曲のお披露目がトラブってしまい、二度演奏してはいけないルールによりお蔵入りになりますが、マリカは行進曲の楽譜をパンに入れて、皇帝陛下に届けるという奇策に出ます。

 

皇帝陛下に謁見できたマリカは、このユニークな出来事に興味を覚えた皇帝陛下からヴィリの行進曲を再度披露する許しを得ることに成功。再演は大成功、マリカとヴィリも結ばれる、というハッピーな物語です。

 

 

 

第1幕。冒頭はマリカがウィーンに来て、プラーターで占いをするシーン。勢いよくヨイママンが歌われ、チャールダーシュの手を耳に当てる踊りが雰囲気抜群です。

 

続いて、歌手ハンジの楽屋。ハンジと恋人グステルのとろとろのワルツが素敵。ヴィリが作曲を温めている本オペレッタのテーマ曲を披露しますが、何とワルツのリズム!もとから行進曲でなく、スタートはワルツの曲なんですね!

 

(注)このオペレッタは残念ながらCDも全曲のYouTubeもなく、事前の予習が限られたので、実際に舞台を観て分かったり、初めて聴く歌もいろいろありました。

 

舞台はマリカのおばテレーゼが営むベケライ(パン屋さん)に移ります。ここはマリカのチャーミングな歌“Ich freu' mich wenn die Sonne lacht”が本当に素敵!マリカ、何とタップダンスまで披露しました!

 

その後のヴィリがマリカといい感じに踊るバラードっぽい歌“Wenn sich zwei wie wir gegenübersteh'n”も本当に素晴らしい!ドラムの刻みやミュートのトランペットが効いていて、ロベルト・シュトルツの作曲の妙を大いに感じます。

 

ヴィリはマリカが日傘で床をトントントントンと叩くリズムにヒントを得て、自分のワルツの曲を行進曲にアレンジすることを思い付きます。何とマリカとの共同作業で、この曲が生まれるんですね!これには感動しました!

 

そして、いよいよヴィリの曲がパレードで披露されますが、首尾よくいかず、没になってしまいました…。マリカは事態を打開するため、すかさずパン屋の見習いフリッツに、ヴィリの曲の楽譜をパンに混ぜることを依頼します。軍人たちによる賑やかな“Jung san ma, fesch san ma”の行進曲で前半終了。

 

 

 

第2幕。舞台はグリンツィングのホイリゲ。ハンジによるグリンツィングを歌うノスタルジックな歌“Im Frühling, im Mondschein, in Grinzing, in Wien”が泣かせる…。後半はハミングが入って観客も唱和して、その後に舞台のみんなで歌って大いに盛り上がりました!

 

この場面に遭遇して私は、現代のオーストリアの方々の、古き良きウィーンへの郷愁や憧れには、絶大なものがあるんだなと、改めて感じたしだいです。

 

ホイリゲでは、軍人たちが恋人を相手にワインを飲んだり、ワルツを踊ったり、楽しそうな光景が続きますが、ヴィリが軍の規則を破ったことを理由に連行されて幕となりました。(ヴィリは単に他の軍人たちと同じように楽しんでいただけに見えましたが、なぜヴィリだけ?とポカンとするフランツ?ドイツ語のヒアリング能力をもっと上げないと…泣)

 

 

 

第3幕。シェーンブルン宮殿の前。皇帝に供したパンの中に紙が入っていた失態で、カー・ウント・カー(皇室御用達)の称号を剥奪され嘆くテレーゼ…。直接、宮殿に訴えようとしますが、衛兵に全く相手にされません…。

 

しかし、すぐにへこたれずに立ち上がる歌を力強く歌います。本当にたくましいですね!テレーゼ役のKerstin Grotrianさんは私の好きなダニエラ・ファリーさんに雰囲気が似ていてとても良かったです。

 

一方、ハンジが登場して歌い始めると、それまでテレーゼの訴えに微動だにしなかったシェーンブルン宮殿の衛兵2人が音楽に合わせて揺れたり、手をムーディーに動かす演技が付きました!これ、きっとウィーンの人たちがどれだけ音楽を愛しているかを示唆しているんですね!心憎いばかりの素敵な演出。

 

そして、おばとヴィリの窮地を何とかしようと、シェーンブルン宮殿に忍び込んだマリカが皇帝陛下に遭遇するシーンに。

 

 

ええっ!?

シェーンブルン宮殿にあっさり忍び込めちゃったの???

そして、アポもないのに、皇帝陛下に会えちゃうの???

 

 

こら~!そんな簡単に忍び込んで皇帝陛下に会えるなんて、一体どうなってるんだ~笑!と、突っ込みどころ満載なシーンですが、それはさておき、マリカと皇帝フランツ・ヨーゼフⅠ世のやりとりの歌がいい感じ。ヴィリの曲を再度演奏してほしいなどのマリカの願いを皇帝陛下が聞き入れる度に、マリカがチャーミングにスカートを広げてお礼のポーズをするのが本当に絵になります。

 

オペレッタではオーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフⅠ世が出てくる作品がたまにあります。総じて白く豊かな髭を頬に蓄えて立派で風格のある役柄。私が観た作品では、皇帝陛下はみな思いやりがあって思慮深く、ユーモアもある素晴らしい皇帝として描かれています。これ、権力者におもねって、とかではなく、フランツ・ヨーゼフⅠ世が本当に愛されていたからこそだと思います。

 

ということで、マリカが皇帝陛下に働きかけて、ヴィリの行進曲が再度演奏してもらえることになりました!全て解決して、最後は皇帝陛下の御前にみんなが揃って、ヴィリの指揮で行進曲を賑やかに演奏するシーンで幕。いや~、盛り上がりました!!!

 

 

 

 

 

ロベルト・シュトルツのオペレッタ、初めて観ることができて感無量!まだ1作品観ただけなので、どの辺りが「20世紀のヨハン・シュトラウス」なのかは分りませんが、ついついハミングで歌いたくなるような親しみやすい佳曲が多く、音楽の傾向はカールマンに似ているところもありつつ、よりウィーン寄りな印象。他の作品もいろいろ観ていきたいです!

 

 

 

 

 

さて、私は海外にオペラやコンサートに行くと、隣の席の方からよく話しかけられる、という特技が?あります。今回も休憩時間に隣の席のマダムから話かけられました。マダムはバーデン在住で、今回久しぶりにバーデン市立劇場の夏の公演を観に来られたそうです。私が、毎年のように東京からバーデンに観に来ているオペレッタ・ラヴァーです、と話したら驚いていました!笑

 

そのマダム、行進曲では歌って、最後は感激して涙を流されていました。オーストリアでロベルト・シュトルツの音楽がどれだけ心を掴む音楽なのか、愛されているのか、大いに実感したしだいです。終演後、楽しかったですね、またバーデンでお会いしましょう、と声をかけてお別れしました。旅の良き思い出となりました。(続く)