昨日、東京都交響楽団の定期演奏会を聴きに行ってきました。フィンランドの天才ヴァイオリニスト、ペッカ・クーシストさんのシベリウス、そして大変珍しいマデトヤの交響曲が楽しみです!

 

 

東京都交響楽団第966回定期演奏会Aシリーズ

(東京文化会館大ホール)

 

指揮:ヨーン・ストルゴーズ

ヴァイオリン:ペッカ・クーシスト

 

シベリウス/カレリア序曲

シベリウス/ヴァイオリン協奏曲ニ短調

マデトヤ/交響曲第2番変ホ長調

 

 

 

うわ~、東京のオーケストラのコンサートの感想記事を書くのは一年ぶりです!何だかドキドキしますね~笑。

 

 

 

実は近頃あまり書かないのは、私がよく聴きに行く東京のオーケストラ(N響・都響・読響・東響・日フィル・新日フィル・紀尾井ホール室内管弦楽団・BCJ(バッハ・コレギウム・ジャパン))のコンサートは、正直どれを聴きに行っても、一言で言うと「素晴らしかった!感動した!」となってしまい、いい意味でブログの書き応えがないから(笑)なんです。

 

各オーケストラとも、演奏のレベルがとても高く、曲目も工夫を凝らしていて、本当に心強く、ありがたい限りです。サントリーホールを中心に週2~3回ペースで聴きに行っていますが、毎回素晴らしい演奏に感動して、ドーパミンを沢山出して多幸感を感じて。それが翌日の仕事の原動力になって、本当にいいサイクルになっています。

 

 

 

そんな中、今回記事を書くのは、大好きな天才ヴァイオリニスト、類い稀なる表現力を持つペッカ・クーシストさんが登場するから。そしてフィンランドの知られざる作曲家マデトヤの交響曲が演奏されるからなんです。本当に楽しみなコンサートです。

 

 

 

まずはシベリウス/カレリア序曲。東京文化会館で聴く都響の響きにうっとり。サントリーホールでのゴージャスな都響とはまた異なる、木質の温もりのある響きを感じ、フィンランドのルーテル派の素朴な教会を思い浮かべます。途中の楽しげなパートはゆっくりノスタルジックではなく、リズミカルで賑やかに!東京文化会館で聴く都響のシベリウス、とてもいいですね!

 

 

 

続いて、楽しみにしていたペッカ・クーシストさんのシベリウス/ヴァイオリン協奏曲。クーシストさんのヴァイオリンでこの曲を聴くのは今回が3回目。前回はインキネン/日フィルとでしたが、自由奔放でスリリング、表現力の極みでめちゃめちゃ素晴らしかったです!今回も本当に楽しみ。

 

(参考)2019.6.15 ピエタリ・インキネン/ペッカ・クーシスト/日フィルのオール・シベリウス・プロ

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12482236232.html

 

 

と思っていたら、いや~、クーシストさん、もう驚きの演奏でした!何が驚いたかって、4年前と別人?ええっ!?もしかして同姓同名のヴァイオリニスト?と思ったほど、全く違う演奏だったんです!

 

全般的にフォルテなしの弱音で、テンポもあまり揺らさないで、ひたすらシベリウスの音楽だけが聴こえてくる繊細な演奏。むしろ、ストルゴーズさん指揮のオケの方が対照的にとても雄弁でした。これは一体どういうことなのでしょうか?

 

 

私が感じたのは、ロシアのウクライナ侵攻とコロナの後の世界。このような状況の中で、ただシベリウスの音楽が聴けることがどれだけ幸せなことか!あるいは、この間、亡くなられた方々への鎮魂歌。このバッハのような、レクイエムのようなシベリウスからはそんな印象を持ちます。驚くとともに、1音1音丁寧に奏でられる音楽に、涙が溢れて溢れて大変でした…。会場からもすすり泣きが聞こえてきましたね。

 

 

アンコールはフィンランドの民族音楽2曲(+途中からバッハ)でしたが、こちらも弱音主体。いつものクーシストさんなら、もっと抑揚を付けて盛り上げるところ、抑えに抑えた演奏です。

 

フィンランドは隣がロシアで、ロシアの侵略や支配を受けた歴史を持つ国です。どんなに虐げられても脅されても尽きることのない民族の魂。そんな想いが伝わってくるかのような、極めて印象的で心に刺さるアンコールでした!

 

 

この日の観客のみなさまがまた凄い!そんな尋常でないクーシストさんのヴァイオリンを察知して心揺さぶられてか、共感の想いが込められた雰囲気の温かい拍手でした!これは東京の観客の感受性の豊かさを示す、胸の熱くなる光景です。クーシストさんにも十分伝わっていましたね。この感動の現場に立ち会えて、本当に嬉しかったです。

 

 

 

ペッカ・クーシストさん。1人のヴァイオリニストであるとともに、正に1人の「アーティスト」という呼び方が相応しい。これからもずっと聴いていきたいです!

 

 

 

 

 

後半はこれまた楽しみなマデトヤ/交響曲第2番。フィンランドの作曲家レーヴェ・マデトヤ(1887-1947)はシベリウスの後の世代の作曲家で、シベリウスに作曲を学んでいます。交響曲を実演で聴くのは初めて。とても楽しみです。

 

 

第1楽章。冒頭はシベリウス/テンペストのミランダを思わせる、あるいはブルックナー6番のようなリズミカルな音楽。オーロラを感じさせる神秘的な和声の音楽に魅了されます。まるで妖精の住むフィンランドの森のようですね。

 

途中、カリンニコフ1番の第4楽章に似た旋律でコントラバスが進行していくのも印象的。様々に展開する音楽に魅了されますが、全体的には、何となく原始のカレワラの世界を思い浮かべました。

 

 

第2楽章。素朴なオーボエとホルンのソロが印象的。シベリウスを思わせる調性の悲しげな弦楽と木管の浮遊、そしてふっと立ち昇るささやかな長調が本当に心地良い。

 

途中、オーロラや宇宙を感じさせるスケール感で盛り上がる、めくるめく中間部に痺れますが、そこに軍隊調のティンパニが差し込むところが象徴的。何か普段は素朴な人びとが狂気に転じる瞬間を見るような気がします。

 

 

第3楽章。一転、冒頭から闘争的な音楽が続きます。複雑な音楽をピタッと奏でる都響が痺れるほど上手い!勇ましい音楽ですが、どこか空回りやアイロニーのニュアンスも感じます。

 

第4楽章に入る前の、まるでシベリウスのエンディングのように和声が一瞬解決しそうになって、さらに展開する場面にゾクゾク来ます!

 

 

穏やかな、しかし謎めいた余韻を残す短い第4楽章で静かに終わりました。和声やリズムが複雑な、レアな曲を見事に演奏する都響!ストルゴーズさんも満面の笑み!フィンランドをこよなく愛する者として、マデトヤを聴けて感無量!!!

 

 

 

ヨーン・ストルゴーズさんとペッカ・クーシストさんと都響のフィンランド・プロ。ただただ期待しかないコンサートでしたが、やはり最高でした!!!

 

 

 

(写真)ちなみにマデトヤはオペラも書いています。写真のCDは代表作のオペラ「ポホヤの人々(オストロボスニアの人々)」。1924年の初演時に恩師シベリウスから祝福された民族的なオペラです。ユッカ・ペッカ・サラステ/フィンランド放送交響楽団の素晴らしい演奏。主人公ユッシ役は大好きなバリトン、ヨルマ・ヒュンニネンさん(以前にオール・シベリウスのバリトン・リサイタルを聴いたことがあります)。

 

 

 

マデトヤの実演を聴けて本当に幸せでしたが、一点、とても気になったのが、マデトヤがフィンランド北部のオストロボスニア地方の中心都市オウルの出身であること。

 

オウルは観光地として、地球の歩き方に載っている訳ではありませんが、フィンランドで6番目の都市で、「北欧のシリコンバレー」と言われていたり、マルッティ・アハティサーリ元大統領(2008年にノーベル平和賞受賞)などフィンランドの偉人を多く輩出していたり、実はかなり有力なまちなんです。

 

 

フィンランドは、ヘルシンキやヤルヴェンパー(シベリウスの聖地アイノラ)、ハメーンリンナ(シベリウスの生誕地)、ラハティ、カレリア地方(ヨエンスー&コリ国立公園)などは旅したことがありますが、フィンランド北部はまだ行ったことがなく興味津々です。

 

サンタクロースやアルヴォ・アアルトの都市計画で有名なロヴァニエミだけでなく、観光地としてはあまり知られていないオウルを含めて、フィンランドの北部をいつか旅をしてみたい。心からそんな気持ちになりました。ストルゴーズさん、都響のみなさん、貴重なマデトヤの実演を聴かせていただいて、本当にありがとうございます!

 

 

 

 

 

(追伸)実は都響のコンサートを聴くのは今年2回目です。1月12日(木)には、サントリーホールで小泉和裕さんとのシェーンベルク尽くしのコンサートも大いに楽しんできました。

 

特に前半のシェーンベルク/浄夜が最高!何と心に響く浄夜!もともと大大大好きな曲ですが、都響の艶かしさすら感じさせる魅惑の弦楽が、リヒャルト・デーメルの幻想的で切ない詩の世界を見事に描いて圧巻でした!小泉さんの本格派の指揮、程良いニュアンス付けも絶妙でしたね。

 

 

私、都響の弦楽に聴き惚れながら、その響きに対して、今年最初に試したばかりのシャトー・コス・デストゥルネル2003のことを思い浮かべていました。熟成により旨味で一杯となった絶品のワインですが、その味わいの雰囲気とよく似ていたんです。

 

(参考)2023.1.7 シャトー・コス・デストゥルネル2003(新年最初のワイン)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12783258583.html

 

 

私はサントリーホールで聴く都響の特別感を何度もブログに書いてきましたが、その秘密を少し垣間見ることができた気のした、特別な時間でした。

 

 

 

都響は来季2023年度シーズンも、日程順に、大野和士さんとのマーラー7番、尾高忠明さんとのエルガー2番、マルク・ミンコフスキさんとのブルックナー5番、サッシャ・ゲッツェルさんとのコルンゴルト/シンフォニエッタ、小泉和裕さんとのブルックナー2番、オスモ・ヴァンスカさんとのシベリウス5番&6番&7番、アントニ・ヴィトさんとのペンデレツキ/クリスマス・シンフォニー、ジョン・アダムズさんとのオール・ジョン・アダムズ・プロ、エリアフ・インバルさんとのバーンスタイン/カディッシュとマーラー10番などなど、見事なまでに意欲的な曲目のコンサートが目白押し。今からとっても楽しみにしています!