今年はアルゼンチンのタンゴの作曲家アストル・ピアソラの生誕100周年。様々な記念公演がありましたが、その中でも目玉中の目玉、ピアソラのオペラ「ブエノスアイレスのマリア」の公演を観てきました。

 

 

Tango Querido主催

アストル・ピアソラ作曲

オラシオ・フェレール作詞

歌劇「ブエノスアイレスのマリア」

(座・高円寺2)

 

 

【第1部】

第1場 アレバーレ(開始の合図)

第2場 マリアのテーマ

第3場 いかれたオルガニートへのバラード

第4場 カリエーゴ風のミロンガ

第5場 フーガと神秘

第6場 ワルツによる詩

第7場 罪深いトッカータ

第8場 ミゼレーレ・カンジェンゲ

 

【第2部】

第9場 葬送のコントラミロンガ

第10場 暁のタンガータ

第11場 街路樹と暖炉に寄せる手紙

第12場 精神分析医のアリア

第13場 ドゥエンデのロマンス

第14場 アングロ・タンガービレ

第15場 受胎告知のミロンガ

第16場 タングス・デイ(神のタンゴ)

 

 

総合プロデュース・音楽監督:柴田 奈穂

演出:飯塚 励生

 

マリア(マリアの影)(歌手):小島 りち子

カントール5役(パジャドールの声、夢見る雀のポルテーニョ、古き大盗賊、第1精神分析医、その日曜日の声)(歌手):KaZZma

ドゥエンデ(朗読):西村 秀人

バンドネオン:早川 純

 

ダンス・群読:鍬本 知津子、坂田 美帆子、ゴンサロ・クエッショ、ダニエル・ウルキーシャ、レアンドロ・ハエダー

 

バイオリン:柴田 奈穂、会田 桃子

チェロ:橋本 歩

ビオラ:田中 景子

フルート:赤木 りえ

ギター:田中 庸介

ピアノ:宮沢 由美

コントラバス:田辺 和弘

ビブラフォン・シロフォン:相川 瞳

パーカッション:海沼 正利

 

 

(写真)本公演のパンフレット。象徴的なマリアを思わせる、素敵なデザインです。

 

 

 

このアストル・ピアソラによるオペリータ(小さなオペラの意)は、ピアソラが詩人のオラシオ・フェレールと組んで1968年に初演された作品です。ピアソラがアーティストとしての地位を不動のものとした傑作です。

 

あらすじは、田舎から出てきたマリアが、やがて地獄に落ちて死んでしまうが、その影は街をさまよい続け、やがて子を身ごもる、という象徴的なもの。これに、ピアソラのタンゴの躍動的な音楽、オラシオ・フェレールの象徴的な詩が相まって、極めて感動的な舞台でした!

 

 

 

第1部。第1場(アレバーレ)はマリアを弔う場面から始まります。西村秀人さんによる聖職者風のドゥレンデの詩的な朗読に、のっけから魅了されます!バラの花からマリアが復活する演出。第2場(マリアのテーマ)では、小島りち子さんのマリアのシンプルな歌に合わせて、様々な登場人物が出てきて、ブエノスアイレスのまちを思わせます。

 

第3場(いかれたオルガニートへのバラード)はピアソラによるワルツの音楽が素晴らしい!第4場(カリエーゴ風のミロンガ)では、ポルテーニョがマリアへの愛を歌いますが、マリアは「私のことは捕まえられない」と応じます。マリアだけでなく、男女という存在そのものの切なさを感じる場面。

 

第5場(フーガと神秘)は5人のダンサーによるタンゴがめっちゃカッコイイ!第6場(ワルツによる詩)は温かい雰囲気の音楽が本当にいいですね。第7場(罪深いトッカータ)では男性ダンサー1人によるイスを使った踊りが印象的。

 

第8場(ミゼレーレ・カンジェンゲ)はマリアが下水道に降りて、古き娼婦や盗賊の声を聴きます。まるでミサ曲の重唱を聴いているよう。ピアソラの痺れる和声の音楽が素晴らしく、ピアノのソロにも大いに魅了されました!

 

 

 

第2部。第9場(葬送のコントラミロンガ)では、マリアは黒い衣装となり、第1部で死んで「マリアの影」になったことを表わします。第10場(暁のタンガータ)はピアソラの「ブエノスアイレスの冬」を思わせる音楽。ダンサーによる足が絡み合うキレッキレのタンゴが素晴らしい!

 

第11場(街路樹と暖炉に寄せる手紙)を経て、第12場(精神分析医のアリア)では、3人の男性のダンサーがマリアの影を診断するコミカルな精神分析医の格好で登場。KaZZmaさんによる第1精神科医の歌は、アディオス・ノニーノの第2主題を思わせる(コード進行が同じ)歌が素晴らしい!

 

第13場(ドゥエンデのロマンス)はピアノ独奏のジャズの音楽がめっちゃいい!あやつり人形も登場する酒場での出来事、ドゥレンデ誕生のいきさつは、まるでオラシオ・フェレール自身の詩人としての誕生を物語るよう!音楽と誌の融合が素晴らしい!

 

第14場(アングロ・タンガービレ)はオケだけによる間奏曲、ラストにつながる期待感のある音楽。第15場(受胎告知のミロンガ)は出産に向けた「マリア、頑張れ!」のセリフが印象的。

 

 

最後の第16場(タングス・デイ)。マリアの影は女の子を生みます。途中、男の子を期待していた3人の博士が、女の子が生まれて意気消沈した、というセリフが出てきたと捉えましたが(詩がかなり象徴的で難しい…)、その一方、沢山の女性たちが女の子を産んだ、というセリフも見られました。

 

ここは、男の子(キリスト)が生まれなかった代わりに、女の子(タンゴを象徴)が生まれて、多くの人々に広がっていくイメージを持ちました。祝祭的ではなく、悲しげに名残惜しく終わっていくラストも非常に印象的。とても味わいがありました。

 

 

 

何この素晴らし過ぎる舞台!音楽と詩と歌と踊りの融合!

 

アストル・ピアソラ生誕100周年における、最高のクリスマス・プレゼント!!!

 

 

 

いや~、めちゃめちゃ魅了されました!ピアソラのタンゴの音楽、オラシオ・フェレールの象徴的な詩、それを素晴らしい歌と踊りにより、高い次元で融合させて、これこそオペラ!これこそ総合芸術です!

 

 

 

まずはピアソラの音楽の素晴らしさ!自分が今年ずっとアディオス・ノニーノのピアノ版を弾いているので、十分理解しているつもりでしたが、タンゴ、ジャズ、ワルツ、ミサ曲など、場面に応じたピアソラの音楽が絶妙!まるでピアソラの音楽の見本市、総決算のようでした。オリジナル編成の楽器のみなさんの素晴らしい演奏が、その魅力をこれでもかと高めていました。

 

そして、初めて触れたオラシオ・フェレールの象徴的な詩がめっちゃ凄い!ボードレール、ヴェルレーヌ、ランボーなどの詩集は以前に一通り読みましたが、その上で、オラシオ・フェレールの詩は半端なく素晴らしいという印象です!象徴的で幻想的で、時に猥雑な詩は、タンゴやブエノスアイレスの雰囲気を見事に伝えていました!西村秀人さんの低音の魅力的な声による朗読が、またそのことを増長していました。

 

 

 

このピアソア/ブエノスアイレスのマリアの、フルキャストでのオペラ形式での上演は、日本初、アジア初なんだそうです!客席は見事に満席。終演後、まっ先にスタンディングされたのは、おそらく駐日アルゼンチン大使ではないでしょうか?会場は盛大な拍手に包まれ、最後は多くの方が立ち上がって熱烈な拍手を送っていました。

 

今回の素晴らしい公演を通じて、タンゴの音楽、そしてブエノスアイレスというまちがどれだけ魅力的で素晴らしいか、大いに実感しました。時に猥雑であることがいかに美しいか!いつの日か、ブエノスアイレスを訪れて、タンゴの音楽を聴いてみたい、タンゴの踊りを観てみたい、まちのエネルギーを体感したい。強く思いました。

 

 

 

最後に、この公演は総合プロデュース・音楽監督の柴田奈穂さんを始め、ピアソラを愛する方々の多くのご努力により実現しました。10月に藝大奏楽堂でピアソラ企画のコンサートを実現させて感無量とおっしゃっていた吉田篤さんもそうですが、ピアソラの音楽って、どうしてこうも人々を虜にするんでしょうか?そんなピアソラの音楽に、生誕100周年に沢山触れることができて、私にとっても素晴らしい一年になりました!

 

 

(参考)2021.7.24 ピアソラ100年の旅路「ピアソラを語る、ピアソラを聴く」(藝大プロジェクト)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12688357887.html

 

(参考)2021.10.24 ピアソラ100年の旅路第3回「Live in 藝大」(藝大プロジェクト)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12707553362.html

 

 

 

 

 

(追伸)そして、この公演を観たことにより、フランツ、とある偉業(なのかも?笑)を成し遂げました!一体それは何?次の記事で。乞うご期待!