最も好きで大いに尊敬するピアニスト、クリスチャン・ツィメルマンさんのピアノ・リサイタルを2回聴きに行きました。特に至宝とも言うべき、ショパン/ピアノ・ソナタ第3番がとても楽しみです!

 

 

クリスチャン・ツィメルマン ピアノ・リサイタル

(サントリーホール)

 

J.S.バッハ/パルティータ第1番変ロ長調BWV 825

J.S.バッハ/パルティータ第2番ハ短調BWV 826

ブラームス/3つの間奏曲Op. 117

ショパン/ピアノ・ソナタ第3番ロ短調

 

 

(写真)本公演のパンフレット。その最高のピアノだけでなく、見れば見るほど素敵な方です。

 

 

 

クリスチャン・ツィメルマンさんは大大大好きなポーランドのピアニスト。2019年のショパン/スケルツォ全曲を中心としたリサイタルでは、概ね同じプログラムなのに3回聴きに行きました!笑 今回は全く同じプログラムで2回。特別なピアニストによる、特別なリサイタルです。

 

(参考)2019.2.28 クリスチャン・ツィメルマンさんのピアノ・リサイタル(ショパン/スケルツォ全曲)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12443512178.html

 

(参考)2019.3.5 クリスチャン・ツィメルマンさんのピアノ・リサイタル(2回目)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12444693044.html

 

(参考)2019.3.16 クリスチャン・ツィメルマンさんのピアノ・リサイタル(3回目)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12447466482.html

 

 

 

(以下、バッハとブラームスは全く初めて聴きましたが、感じたことをそのまま書きます。的外れかもですが、そこはシロウトのブログゆえ、どうかご容赦を。)

 

 

 

前半はバッハのパルティータ。舞曲を集めた曲です。第1番。プレルーディウムはトリルが多用されますが、温かく、ぬくもりを感じる演奏。ニュアンスが随所に込められたツィメルマンさんのピアノにうっとりします。アルマンドは仲の良い恋人たちが、ぺちゃくちゃおしゃべりをしているよう。速いテンポの曲ですが、軽やかな弱音が本当に見事。コレンテも速い音楽ですが、寂しさや黄昏を感じました。

 

サラバンドはツィメルマンさん、指揮の手振りやハミングまで入って、感情を大きく込めます。美しく豊かな人生を感じさせます。メヌエットのⅠとⅡはそれぞれ、トルストイ/アンナ・カレーニナに出てくる、可愛らしいキチイと力強いリョービンの踊りのよう!笑 最後、流れるようなジーグで締まりました。

 

 

続いて、第2番。シンフォニアは劇的でありながら美しい!フーガから、めくるめく速い展開となったのが印象的。5分くらいの曲なのに、まるで大小説を読んだかのような充実感です。アルマンドは舞台転換の音楽のように感じました。情熱的で流れるようなクーラントも見事。

 

サラバンドは、先ほどのシンフォニアの物語が、まるで時代を経て口頭で語り継がれた、その語り部の声を聴いているよう。ロンドーはユニークなアクセントが入り、ジャズを感じさせます。最後のカプリッチョは、ヴェルディ/ファルスタッフでの音楽と言葉の追いかけっこを思わせるような音楽。ツィメルマンさんの名人芸のピアノに大いに痺れました!

 

 

 

後半はブラームス/3つの間奏曲から。第1曲。優しくチャーミングな子守唄ですが、途中の短調が、この子の将来が必ずしも幸せだけではない人生の厳しさ、そしてブラームスその人の人生をも彷彿させるかのよう。2回目の主題に重なる、鐘の音のような高音が印象的ですね。

 

第2曲は喜怒哀楽、様々な感情が聴こえてきて、一筋縄ではいかない曲という印象。解決しないロマンを随所に感じ、間奏曲というよりは幻想曲風。まるで人生のようです。

 

この曲を聴いている時に、ビビビッと閃いて、今回のバッハ→ブラームス→ショパンのプログラミングの趣旨はこうではないか?と自分なりに理解しました!

 

第3曲はオクターブやユニゾンの多用が聴こえてくる曲。まるで夏には豊かな葉を付けていた木が、冬になり葉が落ちて幹だけになったかのよう。しかし途中の長調からは、その寂しげな幹の中に宿るロマンを感じさせます。

 

ブラームスの間奏曲、人生の様々なステージを感じさせる、とても味わい深い曲、そして演奏でした。

 

 

 

ラストはお楽しみのショパン。ピアノ・ソナタ第3番ロ短調は、以前に第1楽章と第4楽章を弾いたことがあります。特に第4楽章はかなり追い込んで、自分としてはまずまずの完成度に仕上げた思い出の曲。私のショパン体験の一つの頂点です。

 

さらに、クリスチャン・ツィメルマンさんのソナタ第3番の演奏は、2010年のショパン生誕200周年に、ロンドン・東京・横浜と3回聴きました。11年ぶりとなるツィメルマンさんの3番、とても楽しみです。

 

 

第1楽章。左手が半音ずつ上がっていく前のレード♯、ミーレ、ファーミ、シ♭ーラをルバート。その後、第2主題の前の左手のラシ♭ー、ラシ♭ーの印象的な強調。11年前と同じ演奏で、既視感を強く感じます。

 

第2主題はそんなには歌わず、比較的インテンポであっさり目。ここを弾く時、私は独学のアマチュアをいいことに、たっぷり歌ってルバートを入れます…汗。だって、どう考えても、音型がそれを求めているように感じるから。

 

しかし、ツィメルマンさんの演奏を聴くと、ポーランドの正統派のショパン弾きの演奏も感じつつ、わずかに前のめりで気品を感じる右手には、ツィメルマンさんの「解釈」を感じます。

 

(参考)ショパン/ピアノ・ソナタ第3番第1楽章第2主題。ショパンの曲で1、2を争う美しい主題ですが、左手がオクターブを超えて飛び飛びで弾く必要があり難しい。左手の跳躍は、その後スクリャービン先生の曲でかなり鍛えられたので、いつか弾き返す時が楽しみです。

 

 

第2楽章。弱音で軽快に展開するスケルツォが本当に素敵。中間部の素朴さと、差し込む厳しい鐘の音の対比も見事です。

 

第3楽章。崇高な雰囲気で進みます。この楽章もツィメルマンさんはたっぷりというよりは、凛として端正に進めます。そんな中、後半の主題が戻る前の、右手と左手が上下に発散する場面だけはたっぷり!

 

とあるシーンを思い浮かべます。さらに、以前に観たハンブルク・バレエ団の「椿姫」で、ジョン・ノイマイヤーさんがこの楽章を効果的に使っていたのは、改めて慧眼の選曲だなと思い返しました。

 

(参考)2018.2.2 椿姫(ハンブルク・バレエ団/振付:ジョン・ノイマイヤー/音楽:ショパン)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12350178758.html

 

 

第4楽章。最終楽章ということで、頭からガツンとフォルテで入る演奏もありますが(そもそも楽譜はフォルテ→クレシェンド)、ツィメルマンさんは最初ごくごく弱音から入り、大きくして行きます。ここも既視感あり。

 

そして、主題に戻る前の右手が長く下降する場面では、この曲を通して最も大きな表現付け!11年前に初めて聴いた時には、驚きのあまり、「うわ~!」と声を出しそうになったのを思い出しました。

 

(参考)ショパン/ピアノ・ソナタ第3番第4楽章の主題に戻る前の場面。私はここでの、とある大きな表現付けに、ツィメルマンさんがこの曲に思い描いているイメージを強く感じます。と同時に、極めて効果的な表現だと大いに感嘆します!

 

 

3回目の主題は巨大な入り。この辺りの迫力のピアノには圧倒されます!最後の半音ずつ上がっていく場面は、速く入って、何とさらにアッチェレランドをかけました!凄すぎる!最後も抜群に追い込んで終わりました!ブラヴォー!!!

 

 

 

いや~、またもの凄いものを聴いた!!!

クリスティアン・ツィメルマンさんのソナタ第3番、今回も圧巻のピアノでした!!!

 

 

 

もうめちゃめちゃ凄かったですが、さらに恐れ入ったのは、1日目(8日)と2日目(13日)で表現が結構異なっていたんです!1日目は比較的端正なピアノでしたが、2日目はよりたっぷりという印象。

 

特に、第1楽章の第2主題をより歌っていて(3回目の第2主題の右手の3連符×2を2音遅れて入ったのにはズキュン!と来ました!)、第3楽章もよりニュアンス盛り沢山で、後半の主題が戻る前はラスト右手と左手を何と完全にずらして弾きました!第4楽章ラストもアッチェレランドをかける位置が最初/終わりと違っていて、印象がかなり異なりました。

 

 

つまり、ツィメルマンさんは、その時その場の感情や雰囲気により、表現を変えている、ということなんです。2019年のスケルツォ全曲の時にも感じましたが、今回も大いに実感しました。パンフレットにはツィメルマンさんの言葉「最後に芸術を仕上げるものは、コンサートホールにある」が載っていました。正にその通りです。

 

そして、これはやはりライブを重んじたレナード・バーンスタイン(レニー)の芸術に繋がるものを感じます。パンフレットには、バーンスタイン生誕100周年は3年前のことにも関わらず、レニーとの交流やレニーの曲「不安の時代」を演奏したことが大きく書かれていました。ツィメルマンさんもレニーも大好きな私としては、本当に嬉しくなりました。

 

 

 

ツィメルマンさんの今回の来日ツアーは11月半ばから始まりましたが、もし半月ずれていたら、オミクロン株の入国制限で実現しなかったんですよね。何という幸運!正に一期一会の最高のリサイタルでした!

 

 

 

 

 

(写真)ツィメルマンさんの最高のショパンの後は、両者の故郷ポーランドに敬意を表して、ポーランドが誇るウォッカのズブロッカで参りましょう!

 

まずはズブロッカ・トニック。カクテルでは初めていただきましたが、美味しい!ウォッカ・トニックに、ズブロッカ特有の桜餅の香りがほのかに漂っていい感じ。

 

 

(写真)締めはズブロッカのロック。こちらの方がズブロッカの桜餅の香りと味わい、後味の若干の苦味をよく感じます。桜餅ということで、ポーランドと日本のご縁、そしてツィメルマンさんと日本のご縁を強く感じました。

 

 

 

(追伸)多くの方に本記事を読んでいただき、本当にありがとうございました!