先々週の鈴木雅明/バッハ・コレギウム・ジャパンによるメンデルスゾーン/エリアスは最高でしたが、そこで素晴らしいオルガンを披露したのが鈴木優人さん。その鈴木優人さんが、今度は指揮者としてN響に客演するコンサートを2日間とも聴きに行きました。バッハにベートーベン、ブラームスと、クラシック音楽の王道のプログラムです!

 

 

NHK交響楽団1月公演

(サントリーホール)

 

指揮・チェンバロ:鈴木優人

 

バッハ/ブランデンブルグ協奏曲第1番ヘ長調

ベートーベン/序曲「コリオラン」

ブラームス/交響曲第1番ハ短調

 

 

 

前半はバッハ。鈴木優人さんが身体を大きく動かしてチェンバロを弾きつつ、指揮をします。雅だったり、しっとり物憂げだったり、ウキウキ楽しかったり、音楽の喜びに溢れたバッハ!N響のみなさまは全員立って演奏。ノリノリで、まるでジャズを聴いているかのよう。

 

特にホルンとファゴットが踊るようにコラボしていて、抜群の雰囲気でした!福川さんのホルンは第1楽章の印象的な合いの手だったり、第4楽章の速いパッセージの場面だったり、完璧で本当に凄い!終演後は喝采に応えて、ホルンを高く掲げてカッコイイ!

 

 

 

後半はベートーベンから。速いテンポでメリハリよくグイグイ進みますが、第2主題の温かさに溢れた音楽にじんわり来ます。旋律を繰り返す場面では、副旋律を浮き立たせたり、だんだん音を強めたり、とても雰囲気のある演奏。ラストも名残り惜しくたっぷり、N響の弦楽が美しい!

 

 

 

最後はブラームス。全く弛緩することのない、とても引き締まった1番でした!その中に才気煥発な表現を随所に感じて、まるでカール・シューリヒトの1番を聴いたような素晴らしいブラームス。N響もいつもながらの充実の響き、素晴らしかったです!(なお、フランツは、シューリヒトはウィーン・フィルとの2番が愛聴盤ですが、1番は聴いたことがないので、あくまでもイメージです。)

 

 

第1楽章は楽器をよく鳴らして構築感たっぷり。反復する場面の強烈なティンパニ、対旋律を随所でよく聴かせて、後半の激しく盛り上がる場面をインテンポで押し切った迫力に大いに魅了されました。

 

第2楽章はゆったり目で伸びやか、弱音をよく効かせて優しさに包まれる音楽。オーボエやマロさんのヴァイオリンのソロが瑞々しかったです。

 

第3楽章は秋を感じさせる晩夏のうら寂しさも感じますが、リズミカルな場面では心の高揚感を大いに感じます。まるでブラームスがバーデン・バーデンのリヒテンターラー・アレーを闊歩するかのようなイメージを持ちました。

 

(写真)バーデン・バーデンのリヒテンターラー・アレー。オース川沿いのそぞろ歩きが楽しく、この先にブラームスが夏を過ごしたブラームスハウスがあります。

 

 

第4楽章は、主題が始まったら意外にも速いテンポで突き進む、若さが弾けるような演奏だったのが印象的。

 

私はもっと山あり谷ありで、テンポや強弱を大きく揺らした濃厚な味付けの第4楽章が好みですが(なにしろ愛聴盤がレナード・バーンスタイン/ウィーン・フィルなので、笑)、まるで、その前に演奏されたベートーベンとの繋がりを意識させるかのような、ベートーベンのフィナーレのように突き進む一気呵成の演奏。大いに聴き応えありました!

 

(なお、2日目の方がよりゆっくり目で、より抑揚を付け、よりブラームス寄りだったような印象です。こういう初日と2日目の聴き比べも楽しいものです。)

 

 

 

鈴木優人さんとN響の王道のコンサート、素晴らしかったです!演奏も素晴らしかったですが、私はこのプログラムを公演パンフレットで見た時点でかなり唸りました。公演パンフレットに書いてあった、演奏時間と休憩のタイミング入りのプログラムは以下の通りです。

 

 

バッハ/ブランデンブルグ協奏曲第1番ヘ長調(20分)

- 休憩 -

ベートーベン/序曲「コリオラン」(8分)

ブラームス/交響曲第1番ハ短調(45分)

 

 

私、これを見て(曲目自体はオーソドックスですが)「いや~、よく考えられたプログラミング!」と唸りました!普通、コリオランは時間のバランスから、前半に置きますよね?それを敢えて後半に持ってきたのは、ブラームスと同じハ短調の繋がり、そして悲劇的な短調で終わるベートーベンと、同じく厳粛な短調で始まるブラームスに、一連の流れを感じたからです。

 

コリオランの美しい第2主題がすぐに短調になってしまう儚さの一方、ブラームスの第4楽章の主題が大いなる憧れを持って展開され、長調でフィニッシュするところに、このプログラミングの物語性を感じます。実際にN響の演奏で聴いて、真に感動的でした!

 

なので、実は聴く前は、ベートーベンの後、アタッカでブラームスを始めるのではないか?とすら思っていました。実際はしませんでしたが、鈴木優人さん、アタッカにして、大いに若気の至りでも良かったのかも?(笑)

 

 

さらには前半のバッハの後にベートーベンやブラームスを聴くと、フーガだったり、対位法だったり、バッハの影響を随所に感じました。正に「バッハは小川(バッハ)ではなく大海」ですね。もともとはトゥガン・ソヒエフさんが振る予定のコンサートでしたが、バッハを得意とする鈴木優人さんによって、そのことを強く印象付けられたコンサート。素晴らしかったです!