佐渡裕さんが新日フィルに客演するコンサートを聴きに行きました。田部京子さんのピアノも楽しみです!

 

 

新日本フィルハーモニー交響楽団定期演奏会

(すみだトリフォニーホール)

 

指揮:佐渡 裕

ピアノ:田部 京子

 

ベートーベン/交響曲第8番へ長調

モーツァルト/ピアノ協奏曲第20番ニ短調

ベートーベン/交響曲第6番へ長調「田園」

 

 

 

まずはベートーベン8番。第1楽章は後半に第1主題に戻る場面での盛り上がりが、佐渡さんらしく頼もしかったのが印象的。第2楽章は途中クラリネットがノリノリで強奏していて、とても雰囲気がありました。

 

第3楽章はユーモラスなメヌエットですが、トリオでホルンとクラリネットが意識して弱音を使っていて、うら寂しさがよく表わされていました。第4楽章は賑やかで楽しい音楽の一方、第2主題のつましさにキュンと来ました!

 

 

長調が主体で響きもゴージャスな楽しい楽しい8番ですが、あたかもハプスブルク家の栄枯盛衰を思わせるかのような、愉しさやきらびやかさの背後にある「侘しさ」をよく感じさせた、とても味わい深い8番でした!昨年のベートーベン生誕250周年で、その魅力をさらに深掘りできた8番。これからも大いに楽しめそうです。

 

 

 

続いてモーツァルト。とにかく田部京子さんのピアノが絶品過ぎる!いつまでも聴いていたくなる美しいタッチ。しっとりとして、とても真摯なモーツァルト!私はどちらかと言うと、きらびやかで遊びのあるモーツァルトの方が好きですが、田部京子さんのピアノは一音一音ピタッと決まって、説得力が半端ないです。

 

田部京子さん、昨年聴いたベートーベン(1番と3番)が最高でしたが、モーツァルトもいいですね~。ライブを聴く度に、どんどん惹かれます。そして、一番聴きたいのはシューマンのピアノ協奏曲かも知れません。佐渡さんと新日フィルもベートーベンの時とは一味違った、切れ上がりの良い演奏、好サポートでした。

 

 

 

後半はベートーベン/田園交響曲。第1楽章。中庸のテンポで穏やかながら、低弦がよく聴こえて、とても構築感のある演奏。最後に第1主題が帰るところでは、佐渡さんが両手を高く上げて指揮、広がり感のある音楽が素晴らしい!この場面、レニーとウィーン・フィルの演奏では、レニーの弾けるような喜びの表情に感動しますが、佐渡さん、師匠のそのシーンをきっと頭に浮かべていることでしょう。

 

第2楽章。ここはまるで先ほどの田部京子さんのピアノのように、しっとり瑞々しい演奏。ベートーベンが散歩したハイリゲンシュタットの小川の美しく豊かな光景が思い浮かびます。ところが…、

 

ラストのナイチンゲール(フルート)→ウズラ(オーボエ)→カッコウ(クラリネット)のシーンでこれが一変!カッコウがウズラに勢いよく割り込み重なって、まるで鳥たちの生存競争のよう!(笑) ほのぼのとしたカッコウが、実は他の鳥の巣に自分の卵を産んで、最後はカッコウの雛だけにしてしまう危険な鳥であることを思い出させました!(笑) 単なる美しさに留まらず、自然の様々な営みを感じさせた第2楽章。

 

第3楽章。ここは「田舎の人々の楽しい集い」の音楽ですが、ホルンを強奏させたり、スピードアップする場面でコントラバスの弓を大きくバチバチ叩かせたり、かなり意欲的な演奏。めっちゃ賑やかで、まるで羽目を外しているような光景に、以前に観たとある絵のことを思い出さずにはいられませんでした。

 

(写真)その絵とは、ドレスデンのアルテ・マイスター絵画館で観た、Garofalo/Der Triumph des Baccahus。人々の楽しい、というか羽目を外した、とても賑やかな情景。中でも、中央下の、太っちょの酔っ払いに乗っかられて、怒りの形相ながらも必死に耐えているライオンちゃんの表情が最高!笑

 

 

第4楽章。嵐の音楽は佐渡さんらしい迫力の音楽でしたが、特に印象に残ったのが、ティンパニがバンバン叩いていたこと。あれっ!?ここでもティンパニ入っていたっけ?と思ってしまうくらいに、強烈に聴こえてきて、とても印象に残りました。

 

第5楽章。この楽章の祈りの音楽の始まりは、フランツの涙腺に大いに作用する音楽。今日もしっかり涙涙となりました…。そして思ったのが、この楽章はロンド・ソナタ形式ですが、印象としては、ほとんど変奏曲ではないか?と思えるくらいに第1主題が繰り返し現れること。

 

ベートーベンが変奏曲にどんな思いを込めたのか?昨年、変奏曲であるピアノ・ソナタ第30番第3楽章や熱情ソナタ第2楽章を繰り返し練習して、大いに実感できたので、田園交響曲の第5楽章にも共感するところ大でした。

 

 

 

いや~、佐渡さんと新日フィルの田園交響曲、素晴らしい!とても印象的な演奏でした!一言で言うと、

 

非常に人間くささを感じた田園交響曲!

 

 

 

そうなんです。特に第3楽章の乱痴気騒ぎ一歩手前の中間部に魅了されましたが、第5楽章は集合としての人びとではなく、個々の人びとの異なる祈りの表情が、次々と見えてくるかのよう。そして第2楽章はまるでナイチンゲールとウズラとカッコウの生存競争を思わせ、ほとんど擬人化させたくなるような愉しさ。

 

そして第4楽章のティンパニは、まるでゼウスが怒り狂って雷を乱発したかのよう!ゼウスがヘラと言い争った上でやり込められ、八つ当たりに怒りの雷をバンバン落とす光景が思い浮かびます。神々まで、めっちゃ人間くさい!笑

 

 

「田園」交響曲を聴いた訳ですが、自然賛歌のみならず、そんな人の営みをより感じさせる、人の血の通った素晴らしい演奏でした!ベートーベンはこの曲について、自然そのものというよりも、その環境に置かれた人物の感情を描いた、と語ったそうですが、さらには人間賛歌をも感じさせる、目から鱗の非常に味わい深い演奏、お見事でした!