先月、最高のベートーベンを聴くことのできたバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)。しかし、BCJと言えば、やはり原点はバッハです。その創立30周年の記念コンサート、鈴木優人さんの指揮によるバッハを聴きに行きました!

 

 

バッハ・コレギウム・ジャパン第138回定期演奏会

(東京オペラシティ コンサートホール)

 

指揮:鈴木 優人

 

ソプラノ:松井 亜希、澤江 衣里

カウンターテナー:青木 洋也

テノール:櫻田 亮

バス:渡辺 祐介

 

オルガン:鈴木 雅明

 

【創立30周年記念演奏会】

 

バッハ/ファンタジアとフーガ ト短調BWV542

バッハ/カンタータ第78番《イエスよ、あなたはわが魂を》BWV78

バッハ/マニフィカト ニ長調BWV243

 

合唱と管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン

 

 

(写真)本コンサートのプログラム。BCJの歴史、そしてバッハの知見がぎっしり詰まった、読み応え抜群のプログラム!

 

 

 

このコンサートはBCJ創立30周年を記念して、1990年の第1回コンサートで演奏されたカンタータとマニフィカトを演奏する特別なコンサートです。当初は5月24日に開催予定でしたが、コロナで公演日が移動となり、何とベートーベンの生誕250周年の誕生日当日の12月16日になりました!そして、ちょうどクリスマスの季節なので、マニフィカトはクリスマスの曲を入れた稿に変更して演奏されます。何という粋な趣向!

 

 

 

まずはファンタジアとフーガ。鈴木雅明さんのオルガン演奏です。短調で重厚なファンタジア、それに続くフーガは短調がめくるめく展開されるリズミカルな音楽。ともに聴き応えある素晴らしいオルガン!ファンタジア、フーガともに最後だけ長調になり、あまり余韻を残さずに終わったのも印象的でした。

 

 

続いてカンタータ。BCJと言えば、指揮は基本的に鈴木雅明さんですが、今回は鈴木優人さんです!次世代に繋げるという意味を持つ象徴的な配役。第1曲は神妙な合唱が見事。人気の第2曲はソプラノの松井亜希さんとカウンターテナーの青木洋也さんの掛け合いが本当に素敵。

 

第4曲のテノールの櫻田亮さんのアリア、第6曲のバスの渡辺祐介さんのアリアも聴かせました。どちらかと言うと、短調主体の悲壮感のある曲ですが、本当に味わい深い。そして、1曲目のオルガンと同じく、最後だけ長調になる展開には、曲の組み合わせの妙を感じました。

 

 

 

後半のマニフィカトが始まる前に、サプライズで鈴木雅明さんのオルガン曲が追加されました!その演奏前、鈴木雅明さんによる挨拶は日本語と英語。さすがは海外からも聴きに来る観客がいる、世界に名高いBCJの公演です。しかも英語の挨拶が、日本語になかった内容も含め2倍くらいの長さ!(笑) オルガン演奏は、今度は神を讃えるしっとりとした演奏が素敵。

 

 

最後はマニフィカト。祝祭的な冒頭、マリアさまを讃えるマニフィカトの喜びの音楽に心躍ります!この辺りは昨年ハンブルグで観た、クリスマス・オラトリオの冒頭を連想させますね。第2曲はソプラノの澤江衣里さんのソロが本当に素敵。澤江衣里さんの歌声は、綺麗な発声で声質が可愛らしくて、大好きなんです。

 

第3曲は松井亜希さんのこれまた素晴らしいソプラノ。BCJならではのオーボエ・ダモーレの音色にも大いに魅了されます。第6曲は櫻田亮さんと青木洋也さんの二重唱が素敵な聴きもの。第9曲はこのマニフィカトで特に好きな音楽。青木洋也さんとフラウト・トラヴェルソの掛け合いにほっこりしました!

 

最後の第12曲は祝祭的な音楽。大いに盛り上がって終わりましたが、最後の和音を鈴木優人さんが大きく伸ばさずに、短めで終えていたのが印象的。これが終わりでなく、ここから音楽がまた続いていく。BCJの新たなスタートを印象付ける終わり方、と受け取りました。

 

 

 

バッハ・コレギウム・ジャパンの創立30周年の記念コンサート、圧倒的に素晴らしかったです!指揮が鈴木雅明さんから鈴木優人さんに変わっても、比類なく高いクオリティの見事なバッハ。しかもカンタータとマニフィカトでは、通奏低音(オルガン)を鈴木雅明さんが受け持つという、何とも贅沢な布陣!

 

(ただし、鈴木優人さんは正直やりにくいのでは?だって世界的なバッハの権威にじっくり見られながら、指揮や指示をしなければいけない訳で…、笑)

 

 

終演後は大きな拍手。オケが下がった後も拍手は鳴り止まず、最後、鈴木雅明さんと鈴木優人さんが2人で出てきた時の感動と行ったら!コロナで大変な状況が続きますが、いま日本にこの傑出した2人の音楽家がいるのが何と心強いことか!BCJのみならず、今年9月~12月はこの2人が指揮するN響・読響・東響のコンサートを大いに楽しみました。本当にありがたい限りです。

 

 

私はクラシック音楽で最も得意な分野は後期ロマン派やスクリャービン&メシアン辺りなので、バッハはもともとそんなに熱心に聴いていた訳ではありません。しかし、BCJのコンサートを聴きに行って、その演奏の、そのバッハの素晴らしさにはまり、近年、定期演奏会は皆勤賞。正にBCJによって、バッハに開眼させていただきました。

 

本当に本当にお世話になったBCJ。その創立30周年の記念コンサートに参加できて、BCJを讃える記事を書くことができ、一人のクラシック音楽のファンとして、大いなる喜びを感じます。

 

 

 

さて、冒頭の写真の通り、この創立30周年のコンサートでは、それをモチーフにしたプログラムが販売されていました。いつもながらに素晴らしい鈴木雅明さんの巻頭言と鈴木優人さんの挨拶、バッハの知見がぎっしり詰まった内容にクラクラしました(笑)。

 

BCJ30周年のお祝いのメッセージも沢山載っていましたが、特に私が強い印象を持ったのは、もう一人のバッハの世界的な権威トン・コープマンさんからのメッセージ。そのメッセージをご紹介して、本記事の締めとさせていただきます。

 

 

(トン・コープマンさんのメッセージ)

 

友情、そして雅明がバッハ・コレギウム・ジャパンと勝ちえた高い評価をもって、雅明とそのアンサンブルの30周年をお祝いしたい。

 

雅明と彼のグループがなければ、古楽の世界はまったく違った様相を呈していただろう。

 

31年前、日本のアンサンブルが日本のみならず世界中にこれほど大きな影響力を持つことになるとは誰が考えただろう。鈴木雅明とバッハ・コレギウム・ジャパンはバッハの音楽を称賛に値する誠実さと技量をもって、常に天才J.S.バッハを大いに尊重しつつ演奏している。彼らの演奏とカンタータ全集の録音は、バロック音楽の演奏家たちの水準を国際的に引き上げることになった。

 

私は、雅明という人間を形作った道程の一部を占めていることに誇りをもっている。チェンバロおよびオルガン奏者として、友人としてはなおさら、誇らしい。そして、環夫人と優人くんにもお祝い申し上げたい。

 

親愛なる雅明とバッハ・コレギウム・ジャパンに:これからもよい仕事を!バッハも感謝することだろう。

 

あなたのかつての師

Ton Koopman(オルガニスト、指揮者)