今年の国内のオーケストラの公演の中で、一番楽しみにしていた、と言っても過言ではないコンサートを聴きに行きました。鈴木雅明さんとバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)によるオール・ベートーベン・プロです!

 

 

バッハ・コレギウム・ジャパン第140回定期演奏会

(東京オペラシティ コンサートホール)

 

指揮:鈴木 雅明

 

ソプラノ:中江 早希

アルト:布施 奈緒子

テノール:櫻田 亮

バス:加耒 徹

 

ベートーベン生誕250周年記念

 

ベートーベン/交響曲第5番ハ短調「運命」

ベートーベン/ミサ曲ハ長調

 

合唱と管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン

 

 

 

前半は運命。第1楽章。冒頭の有名な出だしは、BCJの古楽の音色にさっそく魅了されます。いつもの現代のオケとは異なる、古(いにしえ)の響き。曲の印象も変わってきますね。鈴木雅明さんの指揮はごく普通のテンポ、木管や金管をハッキリ出して意識させる指揮のように感じました。

 

ホルンはN響でもお馴染みの福川伸陽さんがトップでしたが、扱うのは輪っかの中がシンプルな昔のホルンです。魅惑の音色のホルンは強い入りだけでなく、その後の弱音の持続も見事な演奏でした。最後の力強い和音の余韻がホール中に響き渡って素晴らしい瞬間!

 

第2楽章。先日聴いた美しい読響の演奏に比べると、BCJの演奏では古のセピア色の情景を思い浮かべます。独特な音色を持つBCJの木管群が大活躍して、大いに魅了されました。

 

第3楽章。冒頭のチェロのやるせない響きがしみじみ心を打ちます。中間部は歯切れ良く軽快に聴こえてきて、第4楽章を先取りした魂の飛翔を、この段階で強く感じました。

 

そして迎える第4楽章。満を持してテンポを上げて走りました!これが大いなる感動!第3楽章までは比較的普通のテンポだったのに、あざとい!(笑) いやいや計算し尽くされた見事な指揮。もはや感動の涙を流すしかありません…。

 

第4楽章は改めて素晴らしい音楽ですね。BCJのキレがありつつ、懐かしい響きの独特な音楽。そのめくるめく展開に、大いに魅了されます。そして後半の主題が帰ってくるところでは、主題の直前で絶妙なリタルダント!うわぁ!って声が出そうになりました。その前の第3楽章の回顧を余裕で吹っ切って、頼もしさを感じました。最後まで活き活きとしたエネルギッシュな演奏でフィニッシュ!

 

 

私は運命の実演では、2013年のクリスティアン・ティーレマン/ウィーン・フィルの来日公演が壮絶な演奏で、頂点の体験となっていますが、その演奏を思い出させた、鈴木雅明さんとBCJによる最高の運命でした!

 

 

 

後半はミサ曲ハ長調。実は、あの傑作の誉れ高いミサ・ソレムニスよりも個人的に好きなミサ曲です。1993年にクラウス・ペーター・フロール/N響のコンサートで一度聴いたことがありますが、予習なしで聴きに行っても、大いに魅了された思い出があります。

 

 

キリエ。冒頭は、運命の第4楽章から引き続きハ長調で始まる流れが本当に心地良い!運命のハ短調→ハ長調、それに引き続くハ長調のミサ曲。本当によく考えられたプログラミングです。BCJのキリエの素敵な歌声の積み重ねに、最初からうっとり。

 

グローリア。誠に輝かしい音楽でグローリアのイメージにぴったりです。一転、クイ・トリス・ペッカータ・ムンディはアルトの布施奈緒子さんによる厳しい短調の歌に惹き込まれます。クム・サンクト・スピリトゥのフーガはBCJの構築感のある歌が見事!

 

クレドはこれぞクレド!という力強い音楽。ベートーベンのミサ曲への音楽の付け方は絶妙です。マリアさまのシーンは神聖な音楽、ピラトの場面はあざけるような音楽なのが印象的。キリストの復活の後、生ける人と死せる人とを裁きたもう、では決然とした音楽。キリストの生涯を見事に描く音楽にぐっと惹き込まれます。

 

サンクトゥスは意外にもしっとり入りますが、その後に突然、輝かしい音楽に移行していく展開がいい!そしてラストのオザンナのフーガが本当に晴れやかで心地良いです。ベネディクトゥスはソリスト4人による重唱が慈愛に満ちた素晴らしい歌!何という絶妙な音楽!そして現れるラストのオザンナのフーガに再び魅了されます。

 

アニュス・デイ。長調の流れから一変して厳しい短調に。エグモント序曲に似た音楽を体感します。そしてラストのドナ・ノーヴィス・パーチェは晴れやかに。コリオラン序曲の第2主題に通じる広がり感のある音楽が素晴らしい!静かに終わるラストも余韻があっていいですね。

 

 

 

何この素晴らし過ぎる音楽と歌と演奏!!!

 

ベートーベン生誕250周年における、BCJからの最高の贈り物!!!

 

 

 

いや~凄い!凄すぎた!控えめに言って最高!!!ベートーベンがミサ曲のキリエ~アニュス・デイのそれぞれの章に、これしかない!という絶妙な音楽を書いていて、しかもシンプルな音で見事に描き切っていることに驚嘆しながら、演奏を心ゆくまで楽しむことができました。ミサ曲ハ長調、私にはベートーベンの声楽曲の最高傑作に思えます。

 

そして、それをまた見事に演奏したBCJに大いなる拍手を!!!オーケストラも合唱もソリストのみなさんもどれだけ素晴らしいことか!鈴木雅明さんの指揮のもと、よくまとまって感動の演奏&歌。最高の音楽を本当にありがとうございました!

 

 

 

(写真)バッハ・コレギウム・ジャパンは今年が創立30周年。加えてベートーベン生誕250周年の記念に相応しい最高のコンサートでした!

 

ちなみに、この週は火曜に鈴木優人さん(右)と読響による運命、この日に鈴木雅明さん(左)とBCJによる運命の両方を聴いた形となりました。シューベルト4番に続いて、運命までも親子対決!(笑) どちらも見事な運命でしたが、シューベルト4番とはお互いに真逆のスタイルの演奏だったのが本当に興味深いです。曲によってアプローチが違うんですね~。

 

日本を代表する音楽家である、お2人のご活躍には今後も目が離せません!これからも楽しみに聴きに行きます!