プログラムが発表になってからずっと楽しみにしていた、鈴木雅明さんとN響によるシューベルト2番&4番のコンサートを、(当然のごとく)2日連続で聴きに行きました。

 

 

NHK交響楽団10月公演

(サントリーホール)

 

指揮:鈴木 雅明

 

シューベルト/交響曲第2番変ロ長調

シューベルト/交響曲第4番ハ短調「悲劇的」

 

 

 

シューベルトの交響曲は7番「未完成」と8番「グレート」が有名で、コンサートでもこの2曲がよく演奏されます。その他では、たまに5番が演奏されるくらい。

 

 

そんな中、2008年度の東京交響楽団の定期演奏会では、ユベール・スダーンさんによるシューベルト・チクルス(交響曲全曲演奏)が敢行されました!

 

まだ聴いたことのなかった番号の若い交響曲も含め、シューベルトの交響曲全曲を、ユベール・スダーン/東響の切れが良く活き活きとした素晴らしいライヴで聴くことができ(この年のミュージック・ペンクラブ音楽賞受賞)、私のシューベルト体験の白眉となっています。

 

この時にシューベルトの若い番号の交響曲にはまりましたが、今回の鈴木雅明さんとN響のコンサートは、そのチクルスのメインの2曲を並べた、何とも贅沢なプログラム。非常に楽しみです!

 

 

 

前半はシューベルト2番。久しぶりに聴く2番の第1楽章冒頭ですが、先日、鈴木雅明/N響で演奏されたばかりのモーツァルト39番にそっくり!(笑) 先日からの流れを感じ、ニンマリしました(笑)。主部が始まると、非常に切れ味の良い演奏、さすがN響です。

 

ロッシーニを思わせる旋律も出て来てとにかく楽しい!弦楽が激しく刻んで盛り上がる場面は、未だかつてなかったようなコントラバスの激しい刻みが迫力満点!

 

 

(参考)シューベルト/交響曲第2番より第1楽章。この楽章の無邪気なまでの推進力は何か心強いものがあります。序奏に続いて、1:13~のウキウキ、ワクワクの音楽が堪らない!

https://www.youtube.com/watch?v=YyFCfdzj0jk (11分)

※Academy of St Martin in the Fieldsの公式動画より

 

 

第2楽章。何か冒険者が休憩して、周りの草花に癒やされるような音楽。小動物も出て来てほっこりします。オーボエの旋律は鳥の声を思わせますね。

 

途中、短調の厳しい音楽になりますが、まるで森の掟、厳しい自然の摂理を垣間見た時の心境のよう。再び温かい音楽に戻りますが、ホルンの連呼は、いろいろなことを教えてくれるフクロウ博士なのかも?

 

 

第3楽章。大人の世界の踊りを思わせるような厳粛なメヌエット。とても立派な音楽ですが、一方で融通の利かない堅苦しい雰囲気も感じます。途中にチャーミングな第2楽章の主題に似た音楽が紛れ込みますが、まるで堅苦しい大人の世界に馴染めない少年の姿のよう。

 

 

第4楽章。勇ましく勢いの良い音楽は、ほとんど「恐れを知らない若者」による冒険譚を思われます!途中、トルコ風の音楽も聴かれて、旅や冒険の心をくすぐります。木管が印象的に上昇する旋律を聴くと、ほとんど少年が突き進んで行った後に、爽やかに虹がかかる情景を思い浮かべます。

 

最後はその少年そのものを思わせるような永遠の若人、鈴木雅明さんの気合いの入った締めが素晴らしい!鈴木雅明さんの指揮のもと、N響が存分に躍動した、見事な2番でした!

 

 

 

後半はシューベルト4番。あの7番「未完成」を差し置いて、私がシューベルトの交響曲の中で一番好きな曲です。

 

第1楽章。冒頭の力強い短調のフォルテの咆吼は、明るい雰囲気の2番の余韻を一掃する、意味深い導入!もうガラッと世界観が変わる印象を持ちます。強調を入りつつ、たっぷり歌われる序奏が素晴らし過ぎる!ここ聴くだけで、この演奏にどれだけ特別なニュアンスが込められているかが分かります。

 

主題が始まりました!スダーン/東響よりも速めのテンポで進みます。スダーン/東響の4番は「テテテテ、テテテテ♪」と刻むヴァイオリンの旋律をピアノからフォルテにしっかり高めて構築感を大いに醸し出していましたが、鈴木雅明/N響の4番は意識的に弱音を駆使して、運命には逆らえない、やるせなさや無力さを感じる演奏です。

 

また、オケを鳴らし切ることよりも、テンポを優先して、掻き立てられる切迫感を重視している印象。スダーン/東響が絵画的な演奏だったのに対して、鈴木雅明/N響は文学的な語り口の演奏にも感じました。こういう聴き比べは本当に楽しいものですね。

 

そして、この悲壮感の中に希望も感じる引き締まった音楽は、疾風怒濤期のハイドンの交響曲からベートーベンの5番を経て、シューマンの4番を展望します。クラシック音楽の偉大な曲の系統を大いに体感する瞬間!

 

 

第2楽章。久しぶりに第2楽章を聴いて、「そうだったのか!」と大いに受けました!先ほど聴いた2番の第2楽章にめっちゃ似ている!(笑) しかし2番の第2楽章が冒険者の休息の癒やしの音楽ならば、4番の第2楽章は恋人による安らぎを感じます。と同時に、物語の主人公の成長も。こういうプログラミングの妙って、本当にいいですね。

 

第2主題に入る前の変容する音楽の1フレーズ1フレーズに、毎回違うニュアンスを付けていて、鈴木雅明さんの考え抜かれた指揮に大いに唸らされました!まるで、若い恋人がはにかみながら、ためらいながら、距離を近づける時のやりとりのようで、2人の心臓の高鳴りが聞こえてきます。

 

続く第2主題の広がり感と希望の音楽は本当に素晴らしいですね。ささやかながら気宇壮大。シューベルト、つくづく名曲だと思う。

 

 

第3楽章。ユニークな入りはメヌエットというよりはスケルツォの印象を持ちます。そして踊りの音楽になりますが、その途中、「ドミファソ~、レファソラ~♪」とせり上がっていく旋律がたまらなく好き!シューベルトのロマンティックな音楽にただただ魅了されます。

 

 

第4楽章。嬉しいことに第3楽章からアタッカで入りました。いよいよ来た!というワクワクの展開。最速のテンポ、そしてオケが鳴り切らない上滑り感(特に1日目)は、何かに追い立てられているような印象を強く持ちます。いや~、こういう演奏は雰囲気出ますね~。

 

第2主題の場面は、スダーンさんの「ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!」という掛け声の入った東響の節拍感のある演奏が、私たまらなく好きなんですが、鈴木雅明/N響は速くて軽快なテンポの中での、N響のみなさんによるめくるめく楽器の明滅が見事。そして2日目の方がより立体的な響きに感じました。最後に突然訪れる終結は、鈴木雅明さんの渾身の指揮でスケールの大きなラスト!

 

(参考)シューベルト/交響曲第4番より第4楽章。悲壮感と切迫感と慰めの音楽の対比が素晴らしい!フランツの大好きな第2主題は1:13~1:52。

https://www.youtube.com/watch?v=MWGubmQUNHs (10分)

※Academy of St Martin in the Fieldsの公式動画より

 

 

 

鈴木雅明さんとN響のシューベルトのコンサート、聴く前からただただ期待しかありませんでしたが、圧倒的な素晴らしさでした!!!こんなに見事なシューベルトを聴けて感無量!!!曲の魅力を十二分に伝えた、最高の演奏でした!!!

 

いや~、本ブログにて、「大いに期待します!」と2回予告して、楽しみでならなかったコンサートでしたが、めちゃめちゃ感動しました!!!特に、1日目を聴いた後の、2日目(10月29日(木))の幸せ感と言ったら!!!だって、サントリーホールに無事に辿り着きさえすれば、大いなる感動が約束されていますからね。

 

 

SDにより半分くらいの入りでしたが、観客のみなさまも大いに盛り上がって、2日ともオケが下がった後も熱のこもった拍手は鳴り止まず、鈴木雅明さんのいわゆる一般参賀となりました。燃焼し尽くした感のある、鈴木雅明さんの笑顔と見事な白髪が本当にカッコイイ!バッハ・コレギウム・ジャパンのコンサートも毎回感動しますが、N響の3公演も全くもって見事でした!

 

 

 

そして、演奏も本当に見事でしたが、この2番と4番のプログラムの流れも本当に素晴らしい!恐れを知らない少年(2番)が、苦悩や挫折を経て、悩み多き青年(4番)に成長した、そんな成長の軌跡を大いに実感しました。

 

第2楽章が韻を踏んでいたことも含め、これこそプログラミングの妙!東京で長らくコンサートを楽しませていただいている者として、こういうオケの企画の方々の意欲的な仕掛けやチャレンジには、しっかり反応できればと思います。コロナ禍の今年の中で、特筆すべき最高のコンサートでした!

 

 

 

 

 

(写真)オール・シューベルト・プロということで、終演後はオーストリア料理を楽しみました。ウィーン風ジャガイモのスープとグリューナーフェルトリナー。だんだん寒くなってきたので、カルトッフェル・ズッペの温かさが本当にありがたい。そしてスープとゼンメルは最強のコンビ!

 

(写真)仔牛の挽き肉と野菜のフライシュクヌーデル ポルチーニのクリームソースとグリューナーフェルトリナー。秋が深まって、ポルチーニの美味しい季節になりましたね。

 

(写真)マローネントルテ。栗好きには堪らないデザート。以前にウィーンで食べた栗のトルテに雰囲気が似ていて、何だか嬉しい。