非常に楽しみにしていたコンサートを聴きに行きました。鈴木優人さんと児玉桃さんと読響による、メシアンの大作「峡谷から星たちへ…」です!

 

 

読売日本交響楽団

第49回サントリー音楽賞受賞記念コンサート

(サントリーホール)

 

指揮:鈴木 優人

ピアノ:児玉 桃

 

メシアン/峡谷から星たちへ…

ソロ・ピアノ、ホルン、シロリンバ、グロッケンシュピール、オーケストラのための

 

 

 

クラシック音楽の演奏会のメッカである東京で、頻繁にコンサートを楽しんでいると、このコンサートだけは絶対外してはいけない、聴きに行かないとクラシック音楽のファンとして語るに落ちる、というコンサートがあるように思います。例えば、昨年で言うと、シェーンベルク/グレの歌の3つのコンサート(読響・都響・東響)がそれに当たるでしょう。

 

今年は、この日のコンサートが正にそれ!生誕250周年のベートーベンの数々のコンサートも大事ですが、今年の東京のコンサートシーンの中でも、特筆すべきイベントがこのメシアンの1時間半にも渡る大作「峡谷から星たちへ…」の公演です。読響が2017年のサントリー音楽賞を受賞した原動力である、あのメシアン/アッシジの聖フランチェスコ、の感動よ再び!しかもメシアンを得意とする鈴木優人さんと児玉桃さん!大いに期待して行きました。

 

(参考)2017.11.19&26 シルヴァン・カンブルラン/読響のメシアン/アッシジの聖フランチェスコ

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12329807449.html

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12331622167.html

 

 

 

サントリーホールに入ると、よく距離を取りつつ、舞台に一杯に展開した大オーケストラ、そして、ヴァイオリンの位置にシロリンバとグロッケンシュピールが位置し、後ろに打楽器がズラッと並んでいて非常に壮観でした。

 

 

 

第1部

 

Ⅰ. 砂漠

ピアノによる導入の後、ウインドマシーンが砂漠に吹く厳しい風を、フルートとピッコロが人気のない神秘の砂漠を表現します。最後のホルンの虚無感と言ったら!単なる砂漠に留まらず、命のない無機質なもの、まるで宇宙の進化の過程で、まだ生命体が存在しないステージを示しているかのようです。

 

Ⅱ. ムクドリモドキ科の鳥たち

ここはピアノとシロリンバの掛け合いが楽しめます。シロリンバの演奏は、愛らしい小鳥がチョコチョコ歩き回るシーンを思わせます。ピアノが親鳥で、シロリンバが雛鳥。そして温かく包み込む弦楽の旋律は、親鳥の愛情を示しているように聴こえてきます。生命体が現れて進化して、鳥の親子にまで至って。前の楽章の砂漠との対比を思わせます。

 

Ⅲ. 星々に書かれているのは…

一転、金管主体の厳しい導入。メシアンということで、名曲「トゥーランガリラ交響曲」にも似た音楽ですが、分りやすいトゥーランガリラ交響曲に比べると、様々な主題が交錯して、何か哲学的なものを感じさせる、複雑で魅力的な音楽ですね。音の万華鏡という様相、何となく映画「2001年宇宙の旅」を観ているような気分になりました。

 

Ⅳ. マミジロツグミヒタキ

ピアノ独奏によって、マミジロツグミヒタキの鳴き声が表されます。ムクドリモドキよりもリズミカルで繰り返しが多い鳴き声。オケの照明を落として、ピアノだけにスポットライトが当たる演出も効果的でした。児玉桃さんの見事なピアノ。それにしても、まあ鳥がよく鳴くこと!(笑)

 

Ⅴ. シーダーブレイクスと畏怖の賜物

この第5楽章は第1部のフィナーレで、ユタ州のシーダーブレイクスの風景と、そこに住む鳥の声の音楽です。トランペットのマウスピースだけによる演奏は、普段聴かない「プーッ」という音がとても印象的。何か地球の鳴き声のような、超常現象のような、とても独特な音ですね。

 

途中の金管による厳しく威圧的な音楽は、あの厳しいシベリウス/交響詩「タピオラ」を思わせますが、クラリネット主体の「ソラファ~♪」のほっこりした旋律をゆっくり吹かせて、厳しさとの対比を上手く描いていた鈴木優人さんの指揮に惹き込まれました。同じく峡谷を描いた、グローフェ/グランド・キャニオンのユーモラスな音楽を思わせる場面も。素晴らしい第1部のフィナーレ!

 

 

 

第2部

 

Ⅵ. 星々のあいだを翔ける呼び声

ここはホルン独奏による楽章です。古今東西のあらゆるホルン協奏曲と比べても、極めて難しい旋律を、読響のホルン首席の日橋辰朗さんが見事に演奏します!「無数の星々に向けられる神の憐れみの表現」ということですが、悲しげなホルンの旋律から、私は生命体のいない星の寂しさを大いに感じました。そして、ひるがえって、人間や鳥を始め生命体が豊かに溢れる地球の素晴らしさを改めて認識しました!

 

そうなんです!私たちがここ地球で生を受けているのは、広い宇宙の中でも大いなる奇跡なんです!生きているだけで丸儲けなんです!

 

 

Ⅶ. ブライスキャニオンと赤橙色の岩々

この1時間半にも渡る長大な曲のハイライトとなる楽章。メシアンがアメリカ合衆国で一番に美しいものとして挙げた、ブライスキャニオンの風景が壮大な音絵巻で描かれます。ここでは途中に様々な4音の旋律が印象的に繰り返されますが、何となく映画「未知との遭遇」のラシソ↓ソ↑レ~♪を思わせます(笑)。荘厳な音楽の後は、弦楽に主導されて躍動する音楽が素晴らしい!

 

どことなくノンビリほっこりした雰囲気だったり、ピアノがジャズっぽい演奏をしたり、古き良きアメリカを思わせる音楽もふんだんに入っているのが嬉しい。正にカデンツァとしか思えないピアノ独奏は、児玉桃さんによるたっぷりのテンポ、大きく抑揚を付けたピアノが凄まじい!

 

そして弦楽を中心にユニゾンで巨大な頂点に向かう圧巻のラスト!鈴木優人さんの明晰かつスケールの大きな指揮!ブライスキャニオン、どんだけ美しく雄大なところなんでしょう!最高の演奏でした!

 

 

(参考)ブライスキャニオンの風景

※ウィキペディアより(Photo: Luca Galuzzi - www.galuzzi.it)

 

 

 

第3部

 

Ⅷ. 復活させられた者たちとアルデバラン星の歌

ここはゆったりとした音楽、トゥーランガリラ交響曲の第6曲「愛の眠りの庭」にも似た雰囲気で、「愛の主題」に似た旋律もこだまする、癒やしの優しい音楽が本当に心地良いです。

 

しかし、オンド・マルトノが主体のトゥーランガリラ交響曲に対して、ここではアルデバランの光を思わせる、金属質のグロッケンシュピール、チューブラー・ベル、フルート、フルートが活躍するのが特長。鈴木優人さんがパウゼを大きく取っていたのも効果的。そして時折こだまするウッドブロックが何とも言えない味わい。メシアン好きには堪らない、陶酔の時間!

 

おうし座を構成するアルデバランは地球からとても近い赤色巨星で、東京の夜空でもハッキリ見えます。今度、時間があったら、じっくり夜空のアルデバランを眺めながら、このメシアンの音楽を聴いてみたいものです。

 

(参考)メシアン/峡谷から星たちへ…、より第8楽章「復活させられた者たちとアルデバラン星の歌」。疲れてほっこりしたい時に聴くと癒やされると思います。

https://www.youtube.com/watch?v=M3yqo_jc3_c (8分)

※ピアニストのAlexander Soaresさんの公式動画より

 

 

ⅠⅩ. マネシツグミ

ピアノ独奏によってマネシツグミの歌が弾かれますが、またこれがマミジロツグミヒタキより輪を掛けて、ヴァリエーション多く、よく鳴く鳥!(笑) 児玉桃さんの堂に行った超絶技巧のピアノが素晴らしかったです。そして鳥の描写だけとは思えない、壮大なエンディング!

 

Ⅹ. モリツグミ

モリツグミの鳴き声が演奏されます。ピアノによる鳴き声とともに、シロリンバによるユニークな鳴き声が繰り返され、ウインドマシーンも印象的な音楽。ジンワリと穏やかに盛り上がるラストも素敵ですね。

 

ⅩⅠ. ハワイツグミ、ソウシチョウ、ハワイヒタキ、シキチョウ

ここは様々な鳥の鳴き声が聞こえて、リズムも複雑で、さながら鳥の楽園の様相。正に「森羅万象」という感じでした。多様性の価値を大切にする、アメリカ合衆国という国を象徴するような音楽、メシアンによるアメリカ賛歌の音楽のように感じました。

 

ⅩⅡ. ザイオンパークと天の都

ザイオンパークの風景が描かれます。慈愛を感じさせる弦楽と神秘的なパーカッション。最後のガムランを思わせる独特なリズムの中での晴れ晴れしい大団円!それを巨大なフォルテで押し切って締める演奏でもいいのに、メゾフォルテ気味にして、清々しく終えた鈴木優人さんの指揮!

 

鈴木優人さんは、9月に読響で聴いたベートーベン/田園交響曲でも、第4楽章の嵐の音楽をフォルテでなく敢えて弱めて、逆に厳しさを見事に伝えた指揮に痺れましたが、今日も天の都を思わせる、第7楽章のラストとの描き分けを感じた温かみのあるラスト!お見事でした!

 

 

 

いや~、またしても読響がやってくれた!

 

今度は鈴木優人さんと児玉桃さんとの素晴らしいコラボレーション!

 

またメシアンの名演を聴けた感動!

 

 

 

全くもって素晴らしいコンサートでした!珍しい曲目ということもあり、会場はあまり埋まっていませんでしたが、それでも熱烈な拍手。最後に鈴木優人さん、児玉桃さんを始め、ソリストのみなさまが出てきて、より一層大きな拍手が送られて、とても感動的でした。

 

 

メシアンの大作「峡谷から星たちへ…」の最高の実演を聴いて思ったのは、いつの日か必ずや、ブライスキャニオン、シーダーブレイクス、ザイオンパークを訪れてみたい、ということ。私はアメリカにはニューヨークに3回行ったことはありますが、その他の場所はまだです。

 

アメリカの雄大な自然の風景をぜひ自分の目で見て実感したい。そして改めて、メシアンの大作の実演を聴いてみたい。そう強く思いました。フランツのクラシック音楽の旅はまだまだ続きます。

 

 

 

 

 

(写真)アメリカ賛歌の記念碑的な公演!ということで、終演後はお約束でアメリカならではの食事とお酒を。ハンバーガーとジンファンデル(カリフォルニア)とクラフトビール(シカゴ)。

 

クラフトビールはコクがあってほのかな苦みが美味しい。ちゃんと鳥のマークも入っています(笑)。アメリカならではのワイン、ジンファンデルは久しぶりに飲みましたが、ハンバーガーとよく合いますね。

 

 

(写真)ジョニードラム プライベートストック(バーボン)

締めはバーボンで。このバーボンは15年熟成が主体、アルコール度数は59.5℃ですが甘くてコクがあって非常に美味しい!アメリカの大地の恵みを大いに感じます。