新国立劇場の2020/2021シーズンのオペラの開幕公演、ベンジャミン・ブリテン/夏の夜の夢を観に行きました。

 

 

新国立劇場

ベンジャミン・ブリテン/夏の夜の夢

 

指揮:飯森 範親

演出・ムーヴメント:レア・ハウスマン

(デイヴィッド・マクヴィカーの演出に基づく)

美術・衣裳:レイ・スミス

美術・衣裳補:ウィリアム・フリッカー

照明:ベン・ピッカースギル

(ポール・コンスタブルによるオリジナルデザインに基づく)

 

オーベロン:藤木 大地

タイターニア:平井 香織

パック:河野 鉄平

シーシアス:大塚 博章

ヒポリタ:小林 由佳

ライサンダー:村上 公太

ディミートリアス:近藤 圭

ハーミア:但馬 由香

ヘレナ:大隅 智佳子

ボトム:高橋 正尚

クインス:妻屋 秀和

フルート:岸浪 愛学

スナッグ:志村 文彦

スナウト:青地 英幸

スターヴリング:吉川 健一

 

児童合唱:TOKYO FM 少年合唱団

管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

 

 

 

イギリスの作曲家ベンジャミン・ブリテン(1913-1976)のオペラは、これまでそんなに熱心に観てきた訳ではありませんが、新国立劇場で2012年に観たピーター・グライムズを始め、昨年ロンドンで観たビリー・バッド、2009年にウィーンで観たベニスに死す、など、主な作品はそれなりに楽しんできました。この夏の夜の夢は、ブリテンの幻想的な音楽が魅力的、とても楽しみです。

 

(参考)2019.4.29 ベンジャミン・ブリテン/ビリー・バッド(ロイヤル・オペラ)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12463203387.html

 

 

 

初日なので、感想はポイントのみで簡単に。

 

 

まずはブリテンの絶妙な音楽を大いに堪能できました!冒頭や途中途中で印象的に出てくる、森の音楽を表わす弦楽によるグリッサンド。パックを象徴する軽妙なトランペットとパーカッション。眠りから覚めて初めて見たものに恋をしてしまう魔法の花のシーンで出てくるチェレスタなどなど。ブリテンらしい繊細で独特な和声の音楽は非常に魅力的でした。

 

また、第1幕のライサンダーとハーミアの森の中のシーンでは、ワルキューレ第2幕のような角笛が聴こえてきて、あたかもジークムントとジークリンデを思わせたり(笑)、第2幕でタイターニアが眠るシーンでは、ジークフリート第3幕のブリュンヒルデを思わせるようなハープの音楽が聴こえたり(笑)、ニヤリとさせられるシーンもありました。第3幕冒頭はアルヴォ・ペルトの音楽にも似ていますね。

 

プログラムには、「現代音楽とベンジャミン・ブリテンのオペラ」というタイトルの、とても分りやすい解説がありました。20世紀の前衛音楽の作曲家たちがオペラへ嫌悪と不信を表明する中、ブリテンはオペラを書き続け(全16作品)、現代音楽と聴衆とのあいだに生じた亀裂に橋渡しをした、ということでしたが、第2幕に出てくる心地よい「眠りの和音」は、何と12音技法を使っているそうなんです!前衛と伝統、難解さと平易さ、複雑さと単純さ、理論と感情を共存させた、ブリテンの面目躍如ですね。

 

 

舞台は幻想的な舞台で、物語の雰囲気をよく高めていました。セットが雑多に並ぶ、まるで舞台裏のような舞台で、大きな手の形をした大木だったり、古びたタンスだったり、印象的な月だったり、トンネルリングのような装置だったり、とても幻想的な雰囲気の中で物語が展開します。箱の中にオブジェを展開する、夢をギュッと詰め込んだような、私の大好きな現代美術家のジョゼフ・コーネルの作品を思わせました。

 

 

演出も非常に良かったです。特に、河野鉄平さん演じるパックと、少年合唱団が演じる妖精たちが印象に残りました。パックは正に狂言回しの役回りで、勘違いも含めて物語を牽引。幕の開け閉めを誘導したり、ラストに終わり口上を述べたり、随所で無双していました。妖精たちはお子さんたちによる愛らしい演技。合唱の時にはしっかりとSD対応になり、見事に距離を取って並んでいたのも、何となく微笑ましくて良かったです。

 

そして、コロナの中、ライサンダーとハーミア、ディミートリアスとヘレナが、手をつなぐことすらできない演技が、逆に男女の機微を感じさせて印象的でした。夜の森で「枕は一つ、真心は一つ」と歌って一緒に眠ろうとするライサンダーに、駆け落ちまでしてきたハーミアが「離れて寝て、近寄らないで」と歌うセリフがありますが、根本的なところでは分かり合えない男女の距離感を感じさせて、却って強く印象に残りました。

 

 

歌手のみなさまも実力を発揮されていて、とても良かったです。中でもオーベロン役のカウンターテナーの藤木大地さんはやはりさすがの歌でした!平井香織さんのタイターニアも女王然とした雰囲気がとても良かったです(さらには、お楽しみのロバへのメロメロっぷりも、笑)。コロナのため、新国立劇場では珍しいオール日本人キャストでしたが、みなさん伸び伸びと歌って演技をしていて、とても楽しめました。

 

 

 

コロナ禍で、大変な状況の中での2020/2021シーズンのオープニングとなりましたが、新国立劇場、新しいシーズンは上々のスタートになったのではないでしょうか?SD仕様や客席数の制限も緩和されましたが、客席はほぼ満席で、終演後には熱心な観客から大きな拍手が湧き起こっていました。12日(月)までの残りの公演をご覧になられる方々、どうかお楽しみに!

 

 

 

(写真)Johann Heinrich Füssli/Titania liebkost Zettel mit dem Eselskopf

※チューリッヒ美術館で購入した絵葉書より

 

今年の年明けにチューリッヒ美術館で楽しんだ、ヨハン・ハインリヒ・フュースリーによる、真夏の夜の夢を主題とした絵です。ロバに首ったけのタイターニア!(笑)

 

8月に観た映画「17歳のウィーン」では、ジークムント・フロイト博士による「恋は勘違いだ」の名言(迷言?)も飛び出しましたが、若手の男女のみなさんがなかなか恋愛に発展しないと、あちこちで聞く今の日本には、もしかしてパックのいたずらが必要なのかも…?