新日フィルのコンサートを聴きに行きました。何よりもヴォーン・ウィリアムズの珍しいテューバ協奏曲、そしてベートーベンの田園が楽しみです!

 

 

新日本フィルハーモニー交響楽団第621回定期演奏会

(サントリーホール)

 

指揮:下野 竜也

テューバ:佐藤 和彦

 

フィンジ/弦楽オーケストラのための前奏曲

ヴォーン・ウィリアムズ/テューバ協奏曲へ短調

ベートーベン/交響曲第6番へ長調「田園」

 

 

 

まずはフィンジ。冒頭からのおっとり進む新日フィルの弦楽の音色が沁みる!まるでイギリスの天気を思わせるような、穏やかな中にも独特な、不協和音一歩手前の短調が差し込むフィンジの音楽に魅了されます。

 

会社の尊敬する先輩がフィンジを愛聴していると聞いて、前から興味がありましたが、フィンジ、とてもいいですね!ラストの長調がサントリーホールにこだまする、その消えゆく残響に感動!やっぱりコンサートホールで聴くライブは圧倒的に素晴らしい!

 

 

続いてお目当てのヴォーン・ウィリアムズ/テューバ協奏曲。テューバの佐藤和彦さんは何と(客席から見て)指揮者の右側に陣取ります。ソリストが左側でなく右側にくるのは、長らくコンサートを聴きに行っていますが初めての経験!テューバは楽器が大きくて、かつ演奏者の体の左側に来るので、おそらく指揮者が見やすいように、ポジションは指揮者の右側に来るんだと思いました。

 

第1楽章。冒頭から、まるで日本の時代劇のような音楽!(笑) 「ユーモアのある悲壮感」とも言うような、テューバのソロがとてもいい感じ。何だか、NHKの大河ドラマ「真田丸」で、優柔不断な上杉景勝に「親方さま…」と困り果てていた、低音ヴォイスが素敵だった村上新悟さんの直江兼続のような?(笑) ラス前のテューバのカデンツァも見事、最後の突然の長調による解決もいい!

 

第2楽章。テューバの佐藤和彦さんもプログラムの解説で語っていたような、美しい音楽!細かい下降旋律を吹くテューバにはキュンと来ます。寂しげでどこか諦念を感じさせる旋律。

 

第3楽章はとにかくカッコイイ音楽!この楽章はホルスト/惑星の第1曲「火星」を思わせる和声と緊迫感を感じます。この日のコンサートの当初のプログラムでは、後半がそのホルスト/惑星でしたが、組み立ての妙を感じました。テューバのカデンツァも決まった!念願のヴォーン・ウィリアムズのテューバ協奏曲、遂に実演を聴けて大いなる感動!

 

 

後半はベートーベンの田園交響曲。おそらく、当初のプログラムのホルスト/惑星が規模の大きなオーケストラとなるので断念した中、フィンジの曲想と、テューバ協奏曲の第3楽章がドイツ舞曲であることを意識しての代替の選曲なのでしょう。

 

下野さんと新日フィルはオーソドックスに進めます。コンサートのない4ヶ月間、オケの動画配信もCDも敢えて一切聴かなかった「お腹ペコペコ作戦」(笑)を敢行した身に、ベートーベンの音楽が何と沁みることか!

 

今日の演奏では、特に第1楽章と第2楽章をよく描き分けていたと感じました。楽しい第1楽章に対して、下野さんは第2楽章で、時折、思い切った弱音を使います。美しい自然の中、一人ぼっちのベートーベンの寂しさや闇を感じさせました。

 

最後のナイチンゲール、ウズラ、カッコウの場面は、その寂しいベートーベンに鳥たちが鳴き寄ってくるかのよう。ワーグナー/ジークフリート第2幕の、同じく一人ぼっちのジークフリートと森の小鳥のシーンをも思わせました。

 

第3楽章は田舎の人々の楽しい集いの音楽。農民たちを温かい目で見て描いた、ブリューゲルの絵画を連想させます。そして久しぶりに聴いた田園の第4楽章、嵐の音楽には戦慄を感じてゾクゾクしました!何という衝撃的な音型と和声!これ、初演を聴いた聴衆は、きっと度肝を抜かれたでしょうね!

 

私はいま毎日のようにベートーベン/熱情ソナタを弾いています。第1楽章の展開部の激情の場面では、右手がダカダカダカダカ♪と23と5の指で低音のトレモロを弾く中、左手は大きく上下に振ってダダダダン!とフォルテッシモで「運命の動機」を弾きます。その場面に相通じるものを感じる、ベートーベンの劇的でスリリングな音楽、今日の4楽章を聴いて痛感しました。

 

第5楽章。私はコンサートに行って、必ず涙を流す曲&ツボがありますが、その一つが田園の第5楽章の冒頭。フルートが軽やかに高まって、クラリネット→ホルンとつないだ後、ヴァイオリンの主題が静かに始まる冒頭。今日も感涙でした!

 

下野さんはこの場面を、明らかに意識してごく弱音で始めて、だんだんと大きくなります。嵐の後、一人の敬虔な羊飼いが跪いて神に祈り、仲間が次々と続いて、輪になる光景が見えるよう。この楽章はレニー(レナード・バーンスタイン)がウィーン・フィルを振った時の映像で、ブルックナーのように壮大と語った、極めてスケールの大きな感動的な音楽です。今日も堪能し尽くしました!

 

 

 

下野竜也さんと佐藤和彦さんと新日フィルのコンサート、大いに楽しんだ、とても感動的なコンサートでした!アンコールはバッハ/G線上のアリアでしたが、このご時世で、何と心に響くことか…。やはりライブは鉄板に素晴らしい。お腹ペコペコ作戦(笑)も継続中ですが、非常に効果的。

 

会場はSD仕様でしっかり対策がなされていました。オーケストラのライブにかける想いは相当なもの。それに対して、市松模様ですが、よく埋まったサントリーホールの観客からは大きな拍手。引き続き、生のコンサートを楽しめることを心より祈っております。