前回の記事から始まった、フランツの「家で過ごそう」シリーズ。今年が生誕100周年のフェデリコ・フェリーニ監督の映画をご案内していきますが、今回はフェリーニの最高傑作の呼び声も高いアマルコルドです!

 

 

アマルコルド

(1973年製作・公開)

 

監督・脚本:フェデリコ・フェリーニ

製作:フランコ・クリスタルディ

脚本:トニーノ・グエッラ

撮影:ジュゼッペ・ロトゥンノ

音楽:ニーノ・ロータ

 

チッタ:ブルーノ・ザニン

グラディスカ:マガリ・ノエル

ミランダ・ビオンディ(チッタのお母さん):プペラ・マッジョ

アウレリオ・ビオンディ(チッタのお父さん):アルマンド・ブランチャ

チッタのおじいさん:ジュゼッペ・イアニグロ

テオ(チッタのおじさん):チッチョ・イングラッシア

オリーヴァ(チッタの弟):ステファノ・プロイエッティ ほか

 

 

 

(写真)アマルコルドのポスター。まちのみんなが主人公というような、映画の雰囲気をよく伝えています。

 

(参考)アマルコルドのダイジェスト

https://www.youtube.com/watch?v=BtG9ZM-ZHnY (4分)

※Janasfilmsの公式動画より

 

 

 

この映画は本当に好き。フェリーニの映画で一番好きなくらいです。「アマルコルド」とは「私は覚えている」という意味。ノスタルジックな感傷にたっぷりひたることができる映画で、懐かしさの点では、ジュゼッペ・トルナトーレ監督の名作「ニュー・シネマ・パラダイス」と双璧かも。

 

特に明確な物語がある訳でなく、1930年代のイタリアの港町、フェリーニの故郷のリミニを舞台に、フェリーニが子供の頃の思い出を象徴的に描いた作品です。少年チッタのビオンディ一家やチッタの学校の友達たちを中心に、まちの様々な人たちとの交流や出来事を描いた群像劇のような映画です。

 

 

 

まず春を告げる冒頭の綿毛のシーンが印象的。魔女の人形を燃やして春を祝いますが、その魔女の人形の表情の可愛いこと(笑)。まち中の人々が賑やかに集い、ピアッツァ(広場)がイタリア人にとっていかに大切な場所なのかがよく分かるシーンです。

 

学校での集合写真のシーン。愛しの女の子にハンサムなボーイフレンドがいることが分かり、意気消沈する男の子の表情と言ったら!(笑) 授業では熱弁を振るう先生、ビスケットとお茶で優雅に進める先生など、先生たちもとても個性的。「プ」の発音で口から舌が出てしまって、ギリシャ語の「エマルプサメン」を上手く発音できない男の子の表情が可愛いのなんの!

 

レンガ職人たちが浜辺で働くシーン。チッタのお父さんはレンガ職人たちを仕切っています。一人の職人が詩才を発揮。「じい様はレンガを作った。おやじも俺もレンガを作った。だが、我が家はどこだ?」 みなで爆笑して、賑やかな仕事風景ですが、その一方、侘しさや厳しさも感じさせます。

 

チッタの家の食事のシーン。キャンティの大きな麦わらボトルが登場していい感じ。お父さんの「美味しいサンジョベーゼだ」というセリフもありました。お父さんはあれこれとうるさく子供たちを叱りますが、賑やかでとことん楽しい食卓。始まってしまったお父さんとお母さんの喧嘩、またか!と避難するおじいさんがめちゃめちゃ面白い!(笑)

 

チッタ少年の憧れは、年上の美貌の女性グラディスカです。グラディスカが映画館で映画を尋ねるシーンが出てきましたが、これは私がリミニで見かけた映画館では!?チッタにグラディスカと映画館で二人きりになるチャンス到来!積極的にアプローチして、ひざに手を置くまで頑張りますが、グラディスカの「探しもの?」の優雅な切り返しが素敵すぎる!(笑)

 

 

ほっこりした展開が続きますが、途中にムッソリーニ礼賛のファシストのシーンが出てきて緊張感を高めます。そんな式典に参加するも、頭の中では好きな女の子のことを妄想する男の子!(笑) まるでファシズムをコケにしているかのよう。チッタのお父さんはファシストには荷担せず気骨を示しますが、逆に拷問を受けてしまいます…。

 

 

みんなで船で沖に出て、豪華客船レックス号を見に行くシーン。豪華客船を待つ間に、グラディスカが「長く続く恋がしたい。一生続くような。家族が欲しいの、愛する夫と子供。」と述懐するのが印象的。華やかでまちのみんなから賞賛されるグラディスカですが、しんみりする素敵なシーン。そして悠然と現れるレックス号は迫力があって感動的!ここは映画館の大きなスクリーンで観たいシーンですね。

 

タバコ屋の立派過ぎる体格の女主人とチッタのシーンは、大柄でぽっちゃりした女性を好んで映画に登場させたフェリーニらしいシーン。珍しい大雪の中での男の子たちとグラディスカとの雪合戦、そしてどこからか飛来した美しいクジャクのシーンと、象徴的なシーンが続きます。

 

最後はチッタのお母さんが病気で亡くなってしまい、お葬式のシーンとなりますが、チッタが気分を換えに港に行くと、再び綿毛が舞って春が到来します。ラストはその綿毛が舞う中、グラディスカの屋外の結婚パーティの楽しいシーンでさりげなく終わるのも本当に素敵。

 

 

 

いや~、アマルコルド、久しぶりに観ましたが、やはり懐かしさ一杯の素敵な映画でした!決してドラマティックな展開がある訳ではないのですが、何だろう、このじんわりくる温かさ、そして観た後の清々しさは。ニーノ・ロータの甘く切ない、ノスタルジックな音楽も絶品です!

 

物や情報が溢れる中で暮らす現代人が失ってしまったかも知れない、人と人との触れ合い、ささやかな幸せ、原始的な喜び。忘れてはいけない、大切なものを、よく伝えている映画だと思います。

 

 

そして、私は一昨年にこの映画の舞台、リミニを訪れました。フェリーニの故郷だとはつゆ知らず、ロッシーニ音楽祭のまちペーザロから近かったから、ただそれだけで訪れましたが、目抜き通りにあった映画館に、このアマルコルドのポスターがあったのを見かけました。

 

その時は「さすがフェリーニ、イタリアで人気あるな~」としか思いませんでしたが、フェリーニの故郷だったんですね。いつの日か、リミニの映画館でアマルコルドを観ることができたらいいなと思っていますが、まずはイタリアが今の危機的な状況から早く脱することを切に祈っています。

 

 

 

(写真)そのリミニのまちで見かけた映画館。「アマルコルド」と「甘い生活」をやっていました。

 

(参考)2018.8.14 リミニ観光(モザイク&カラフルなまち&フェデリコ・フェリーニ&ジェラート)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12412620581.html

 

 

 

アマルコルド、自宅にいる時間が長くなる中、じっくり向き合うのにお勧めの、とても素敵な映画です。フェデリコ・フェリーニが大切に想ってきた世界が見事に描かれた秀作、良かったらご覧いただければ幸いです。(ただし、今はネットでご覧ください~!)

 

最後に、懸命に治療に当たられている医療関係者みなさまに心から感謝するとともに、新型コロナウイルスの早期の終息を強く願っております。