(冬の旅行記の続き) ヴィンタートゥーアの観光を大いに楽しんだ一日の締めは、チューリッヒ歌劇場でのオペラ。演目は昨日のチェネレントラに続いてロッシーニ、イタリアのトルコ人です!

 

 

Opernhaus Zürich

Gioachino Rossini

Il turco in Italia

 

Musikalische Leitung: Antonino Fogliani

Inszenierung: Jan Philipp Gloger

Szenische Einstudierung: Jodok Schweizer

Bühnenbild: Ben Baur

Kostüme: Karin Jud

Lightgestaltung: Martin Gebhardt

Video-Design: Sami Bill

Choreinstudierung: Ernst Raffelsberger

Dramaturgie: Claus Spahn

 

Selim, ein Türke: Kyle Ketelsen

Donna Fiorilla, Don Geronios Gemahlin: Rosa Feola

Don Geronio: Renato Girolami

Don Narciso, Fiorillas Verehrer: Edgardo Rocha

Prosdocimo, ein Künstler: Pietro Spagnoli

Zaida, eine Türkin: Rebeca Olvera

Albazar, Zaidas Gefährte: Leonardo Sánchez

 

Philharmonia Zürich

Zusatzchor des Opernhauses Zürich

Statistenverein am Opernhaus Zürich

Continuo Hammerklavier: Anna Hauner

 

 

 

(写真)ロッシーニ/イタリアのトルコ人の公演のプログラム

 

 

(写真)チューリッヒ歌劇場

 

 

 

新年のオペラはロッシーニ2連発!それもチェネレントラとイタリアのトルコ人という、ロッシーニの作品の中でも代表的なオペラです。さらには2018年のロッシーニ没後150周年に観る機会のなかった2つのオペラ。チューリッヒ歌劇場の公演スケジュールで見つけた時には、「これはチューリッヒに来い!と言わんばかりの演目だな~(笑)」と大いに唸りました。

 

 

 

第1幕。序曲はロッシーニの良さが感じられる、とても雰囲気のある演奏。と同時に、何度か聴いた東響のキレキレのロッシーニがいかに素晴らしいか、ということを思い出しました。

 

幕が開くと、現代的なマンションのセット。引っ越しのシーンで、ナルチーゾが部屋を出て行き、後にセリム(トルコ人)が引っ越してきます。その前の部屋がフィオリッラとジェローニオの部屋ですが、ナルチーゾはフィオリッラに相手にされなかった演技が付いていました。

 

そしてジェローニオとフィオリッラは倦怠感満載の夫婦。ザイダ(離れ離れになったセリムの元恋人)は最初浮浪者?かと思いましたが、どうやら詩人が映画監督の役柄だったので、映画のエキストラの様子。群衆も雰囲気はどことなく浮浪者ですが、エキストラのようです。その日の職を求めている様子だったので、移民や格差をテーマにしているのかも。

 

最初は眼鏡をかけて地味な印象のフィオリッラでしたが、恋愛小説の本を読む形で、結婚生活の単調さを嘆くアリアを歌い始めると、もうノリノリで歌って踊ります!お隣のセリムが入ってきての二重唱も、二人ともノリノリで、イケイケで、ラブラブ。え~!?もうここまで行っちゃうの?観客大いに湧いていました!(笑)

 

同じマンションに住む映画監督(オリジナルは詩人)は、マンションに住む一癖ある住人たちを見て、いい映画の題材が見つかった!と大喜び。ジェローニオが自分の家なのに、間男のセリムに慇懃に接するのが可笑しいのなんの(笑)。セリムが去った後にようやく怒りの表情を見せますが、それを映画監督が撮影します。映画監督はさらに、ジェローニオの演技に振り付けをしたり、インタビューしたり、とても凝った演出。

 

大好きなフィオリッラとジェローニオの緊迫した二重唱。立場的には強いはずのジェローニオが、フィオリッラに一方的に翻弄されるシーンが可笑しい!(笑) その顛末に、映画監督ももう大喜びですが、これはフェデリコ・フェリーニ監督の映画「8 1/2」を意識した演出なのかも。バックのスクリーンに、先ほど撮影したジェローニオの大げさな怒りの映像が、スローモーション付きで繰り返し流されてめっちゃ可笑しい!(笑)

 

最後はセリムには実はザイダという恋人がいて二股をかけていたことがフィオリッラにバレて、一転セリムが窮地に。そしてフィオリッラとザイダの女同士の争い、盛り上がるロッシーニの音楽!なんの騒ぎだ?と、マンションの住人たちも出てきて、最後はなぜか(笑)住人同士の喧嘩になって、ロッシーニ得意の幕のラストの大混乱!興奮のるつぼで終わりました!

 

 

 

第2幕。ジェローニオとセリムの交渉の場面。奥さんがいても飽きるだろう?とセリムに言われて、実はそうなんだよ…と共感するジェローニオ!こら~!しかし、その後に「いい方法がある」とセリムが提案したのは、何と「奥さんを売ること」!そのセリフに観客も大受けでしたが、劇場内に高らかにこだましたのは、スイスの奥様方の大笑いの声!(笑)

 

ジェローニオはもちろん断りますが、その後にセリムにワインを差し出します。セリムは「いえ結構」のポーズ、ジェローニオは「おっと、そうでしたよね~」のポーズ。これ、イスラムの方がお酒を飲めないのを知っていて、わざとやったんですよね?奥さんを取られたジェローニオの抵抗が、ささやか過ぎてもう可笑しいのなんの!(笑) 最後は武器を持つものの、セリムに取り上げられてタジタジに。ダメだこりゃ…。

 

フィオリッラとザイダがマンションのランドリールームにいるところにセリム登場。ザイダがドアの後ろになって、フィオリッラしかいないと勘違いし、セリムはさっそくフィオリッラに言い寄りますが、ザイダに見つかって修羅場に(笑)。ナルチーゾのアリアは政治のポスターを貼りながら、ハイEを見事に歌っていました。

 

パーティの場面はマンションの住民の親睦会。”FEST DER FREUNDSCHAFT”の横断幕が掲げられていたので、移民との交流の催しのようでした。ナルチーゾがセリムに、ザイダがフィオリッラに変装して、フィオリッラとセリムを上手く騙します。ザイダが髪を撫でてフィオリッラに成り切る演技が見事!しかし、ジェローニオが2組のごまかしを見破って、それぞれの計画は頓挫してしまいます。

 

そんなこんなでいろいろありましたが、ジェローニオはとうとう我慢の限界が来て、フィオリッラに別れの手紙を書きます。弱気な夫からのまさかの一撃!家から出て行け!と言われ、フィオリッラは打ちひしがれますが、その悲しみの心情を歌う大アリアが素晴らしい!映画監督もシナリオ通り、いい映画が撮れると満足ですが、次の瞬間、映画監督の意に反して、ジェローニオが寛大にも悲しむフィオリッラを赦します!

 

映画監督は何てことをするんだ!と慌てますが、あとの祭り。フィオリッラはジェローニオの寛大な心に感動し、愛情を思い出します。映画監督は目論見が外れて、やれやれのポーズ。最後はジェローニオとフィオリッラ、セリムとザイダが元サヤで仲直りして、丸く収まりました。

 

 

 

ということで最後はまとまってメデタシメデタシ。通常はこれでおしまいなのですが、何やら黒いスクリーンが降りてきて舞台を隠しました???そして、スクリーンの前で、映画監督が出来た映像のDVDをエージェントに渡してお金をもらうシーンに。あれっ!?ジェローニオがフィオリッラを赦してしまったので、映画はオシャカになったのでは?

 

と思ったら、何と!スクリーンに、これまで映画監督が映像に撮ったシーン、例えば、ジェローニオが言葉で罵るシーン、セリムが武器で攻撃するシーン、セリムがフィオリッラとエッチなことをするシーンが流され、それぞれのシーンの最後に、太くて大きなバッテン、×の字が付きました!これ、一体何が起こったのか、分りますか?

 

 

つまり、最後のシーンでジェローニオがフィオリッラを赦してしまい、シナリオが狂ってしまったため、映画監督は撮影した映像で映画を作ることは諦めたものの、それをオシャカにするのはもったいない、ということで、撮った映像を転用して、マナーや規則を守りましょう!という啓発映像を作った、ということなんです!

 

 

きた~!!!何という洒落ていて、気の利いた演出!!!

 

 

そしてややもすれば不道徳な、このイタリアのトルコ人というオペラの物語に、ユーモアを持ちつつ大切なメッセージを込めた素晴らし過ぎるエンディング!こういう小粋で楽しくて、かつメッセージ性のあるオペラを観たくて、はるばる海外にまで観に行くんです。若手の実力派の歌手のみなさんは歌も演技もみな素晴らしかった!屈託なく楽しいロッシーニでした!

 

 

 

(参考)ロッシーニ/イタリアのトルコ人(ダイジェスト)。これ、私が観た公演のダイジェストです!青い服を着た男性がジェローニオですが、ダメ亭主っぷりが笑いを誘い見事でした。

https://www.youtube.com/watch?v=w5Y8KRaaCNk (3分)

Opernhaus Zürichの公式動画より

 

 

 

 

 

(写真)公演後のチューリッヒ歌劇場界隈。印象的な光は、よくよく見れば小さな教会をイメージしているのかも。

 

 

 

(追伸)ということで、とても楽しい公演で、今でも思い出し笑いが出てきますが、何でも、笑うと免疫力がアップするそうです。みなさま、どんどん笑って免疫力を上げて、新型コロナウイルスに負けないようにしましょう!