(新型コロナウイルスへの対応として、文化イベントの中止や学校休校の要請があってから、1週間が経ちました。ご対応に当たられた方々、難しい選択を迫られた方々、影響を受けながらも前向きに進まれている方々など、本当に頭が下がるとともに敬意を表します。
感染拡大が早く収まり、感染された方々が早く回復され、早々に終息することを心より祈っております。今回の記事も冬の旅行記の続きですが、素晴らしい絵画の数々が出てきます。これらを観て、癒やされたり魅せられたり、少しでも明るい気持ちになっていただければ幸いです。)
旅行8日目。最高気温5℃、最低気温0℃。この日は観劇は夜に一つあるだけなので、日中にエクスカーションを入れるチャンス到来です。どこに行こうか?いろいろ考えましたが、チューリッヒから北東に列車で30分、美術館が沢山あるまちで有名なヴィータートゥーアに行きました。
ヴィンタートゥーアに着いたら、まずはまち歩きを楽しみましたが、それは後にして、本記事で真っ先にご紹介するのは、ヴィンタートゥーア、いやスイスを代表する珠玉の美術館、レーマーホルツ美術館です!
(写真)Pieter Bruegel/Die Anbetung der Hheiligen Drei Koenige im Schnee, 1563
レーマーホルツ美術館の至宝、ブリューゲル/雪の中の東方三博士の来訪。詳しい感想は後ほど。
レーマーホルツ美術館は、スイスの実業家で資産家、世界的に有名な美術蒐集家のオスカー・ラインハルトのコレクションがそのまま残っている美術館です。駅から少し離れたところにあり、まち中からバスで少し行って、Spitalというバス停から徒歩15分です。
(写真)バス停で降りて、Haldenstrasseを登っていきます。まずはいい感じの住宅が続きますが、雰囲気のある大きな木やHaldengutのビール工場がありました。
(写真)この辺りからだんだん森の中の雰囲気となります。途中でフテニャンコを発見!この子がずっとそっぽを向いていて、なかなかこっちを向いてくれないので、ここで5分費やしました(笑)
(写真)いよいよレーマーホルツ美術館に到着。入口も雰囲気があります。サインが3つ並んでいるのは、おそらく東方三博士をイメージしていて、世界中からの来訪者を歓迎する意味が込められているのかも知れません。。
(写真)レーマーホルツ美術館。レーマーホルツの個人邸宅が美術館となったものです。雰囲気があって、とても素敵な邸宅。裏にはいい感じの散歩道も。
素晴らしいアプローチで絵画を観る気分が大いに高まったところで、いよいよ美術館に入りました。これが観る絵、観る絵どれも素晴らし過ぎる!非常に密度の高い美術館鑑賞となりました!その中でも、特に印象に残った絵は以下の通りです。
(写真)Pieter Bruegel/Die Anbetung der Heiligen Drei Könige im Schnee, 1563
※レーマーホルツ美術館で購入した絵葉書より
さあ、まずはレーマーホルツ美術館の至宝とも言われる、ブリューゲルの東方三博士の来訪を描いた絵です。雪の一粒一粒が描かれているなど、非常に繊細な絵。大いに魅了されて、ずっと眺めていました!このタイトルでありながら、マリアさまとキリスト、東方三博士は左下に小さく描かれていて、どちらかと言うと、それを取り巻く民衆たちの描写に力点が置かれているようです。
雪の降る中、人々は労働や警備に従事しています。まるで羊飼いの代わりに民衆を描いたかのよう。壊れた教会や武器を取る人たちも見えるので、異教徒の脅威にさらされているのかも知れません。ヘロデ王を思わせます。手前には凍った川の上をソリで遊ぶ子供もいますが、そのそばには氷が割れた穴が!身近なところに危険がある、という警句なのでしょう。
既にご案内の通り、今回の冬の旅では冒頭のハンブルクで、この東方三博士の来訪のシーンも出てくる、ジョン・ノイマイヤー振付のバッハ/クリスマス・オラトリオの感動的なバレエを観ました。そのノイマイヤーさんの振付は、聖家族の物語を踏まえながらも、一般的な母親と子供と父親の、普通の家族の物語に読み替えていたように感じました。
それに近い雰囲気をも感じさせる東方三博士来訪のブリューゲルの名作。これは極めて感動的な瞬間でした!
(参考)2019.12.28 バッハ/クリスマス・オラトリオ(ハンブルク・バレエ団/ジョン・ノイマイヤー振付)
https://ameblo.jp/franz2013/entry-12566219735.html
(写真)Pieter Huys/Der heilige Christophorus, 1560
私のテーマ絵画「聖クリストフォロス」(旅の守護神)の絵です。完全に光輪に包まれている幼キリストを聖クリストフォロスが背負って川を渡っていますが、この聖クリストフォロスの絵の特徴はその周り。
川岸にはまるでヒエロニムス・ボスの絵に出てくるようなヘンテコモンスターが多数!(笑)川の中にも家を着ぐるみにしているような不思議な人間、背景にはロトのソドムの絵のような焼けるまちが。観れば観るほど惹き込まれる絵です。
(写真)Oberrheinischer Meister/Die Verkündigung An Maria, 1420-30
こちらも私のテーマ絵画の一つ「受胎告知」。典型的な受胎告知の絵で、構図といい、色彩といい、非常にバランスが良く魅了されます。赤のマントが印象的な、白と青の羽根の天使が伝え、既に聖人の金色の光輪をたたえた青い服のマリアさまが恭しく受けます。
その上には、神が放つ光に乗った白い鳩が。前方には花と松の盆栽。松は3段に刈り込まれていますが、三位一体を表しているのでしょうか?観れば観るほど素晴らしい受胎告知の絵!
(写真)Geertgen tot Sint Jans, Nachfolge/Die Anbetung der Heiligen Drei Künige, 1495
こちらも東方三博士来訪のシーンの絵です。写実的で素朴な味わい。どことなくルーカス・クラーナハに似た筆致の絵。晴天の昼間のシーンですが、上空に救世主が誕生したことを示す星が光っている(左上)のが印象的。
(写真)Camille Corot/Lesendes Mädchen, 1850-55
コローによる、少女が真摯に本を読んでいる絵です。観た瞬間にハッと惹き付けられました!黒と白の上着、白と灰色のエプロン。背景も灰色で地味な印象の中、スカートの赤が印象的。繊細な色合い、右奥の背景には羊たちが。何かとても大切なものを伝えていると感じる絵。
(写真)Pierre-Auguste Renoir/La Grenouillere, 1869
緑が主体的な川遊びの光景の絵です。ルノワールの絵は、風景画でも人物を比較的大きく描いている絵が多いように記憶していたので、この絵はかなり珍しいように思いました。川面の描かれ方が何とも素敵ですね。
(写真)Claude Monet/Die Seine bei Eisgang, 1880/81
モネが氷の浮かぶ冷たい湖の風景を描いた絵です。白い氷が沢山浮かんで、空もどんよりとした灰色、寒々とした風景ですが、その一方で、緑を巧みに使っているので、自然の生命力も感じられる絵でした。
(写真)Vincent van Gogh/Der Innenhof des Hospitals von Arles, 1889
ゴッホがアルルの病院の中庭を描いた絵です。ゴッホらしい分厚い筆致、独特な木のうねり、あざやかな色彩、とても惹かれた絵でした。
◯Pierre-Auguste Renoir/Nach dem Bad, 1913
この絵は美術館の入口を入ると、最初に迎えてくれる絵でした。いきなりルノワール!と驚きました。ルノワールらしい豊かな肉体の女性、とても優しい気持ちになれる絵です。女性以外を柔らかく描いているが印象的、マイヨールの裸婦像の彫刻がそばにあっていいコンビネーションでした。
◯Dominique Ingres/Bildnis Delphine Ingres-Ramel, 1859
有名な「ドーソンヴィル伯爵夫人」と同じ、アングル得意のポーズの青いドレスの女性の絵。モデルはアングルの奥さんです。とにかく質感が素晴らしい。
◯Eugène Delacroix/Samson und Delila, 1849-56
サン=サーンスのオペラでも有名な、サムソンとデリラの絵です。髪を切られてうずくまる巨体のサムソン、サムソンを膝の上に横たわるデリラ。赤が支配的で躍動感のある筆致の絵。
◯Jean Antoine Watteau/Imbiss im Freien, 1721
私が2018年に一生懸命練習した、ドビュッシー/喜びの島が作曲されたきっかけは、ジャン・アントワーヌ・ヴァトー/シテール島への巡礼です。そのヴァトーの絵もありました!草上の昼食のような男女2人組が林のなかで昼食を楽しんでいる絵です。お皿にはチキンが載せられていて、フォークとナイフ、パンもあります。クープ型のシャンパングラスなので、どうやらシャンパンを楽しんでいるようです。シャンパンを注がれている女性の一人は頰を赤らめています。とても美しく、ロマンティックな絵。
レーマーホルツ美術館、素晴らしいとは聞いていましたが、実際に訪ねてみたら、噂以上に極めて素晴らしい美術館でした!こんなに密度高く、名作の数々を堪能できる美術館は、それも静かにゆったりした雰囲気で鑑賞することのできる美術館はなかなかないように思います。正に珠玉の美術館という形容が相応しい。最高の美術体験となりました!
以上、ヴィンタートゥーアの最大の思い出、レーマーホルツ美術館訪問の記事でした。次の記事では、その他、ヴィンタートゥーアのまちを周った記事をご紹介します。スイスならではの巨大な「あれ」も出てきます。乞うご期待!(続く)